バトンタッチは突然に
「困るよ! だいたい、依頼を受けたのはカモさんじゃないか、それなのに……」
「そのつもりやったんやけど、これをサボると留年してまうんや……堪忍!」
苦々しい表情を浮かべる同居人・鴨川浮音に、佐原有作はひどく困惑してしまった。七月も半ばを過ぎて、そろそろ夏休みに差し掛かろうという、ひどく蒸す晩のことである。
「ほんとにすまんけど、今度ばかりは僕もお手上げなんや。――なあに、依頼人は早川のご隠居や。きっと解決に暁にはたんまりと謝礼が出そうやし……」
風呂上がりで湿った髪をなでながら、浮音は有作に微笑んでみせる。しかし、向かいで麦茶をなめている有作の表情はさえない。
「僕に、カモさんみたいにトントンと謎が解けるとは思えないんだけどな……」
「なに言うてるんや。今まで何度も、君のおかげで事件が解決に向かったことがずいぶんあったやないか。ということは、僕の代理を務めることが出来るのは、きみをおいて他にはいないと、こういうわけや。腕試しと思って、ひとつ受けてくれんやろか……」
その言葉に、有作はコップを唇へあてたまましばらく考え込んでいたが、
「――そんなに言うんなら、まあ、やってみようかなあ」
「よっしゃ、その言葉を待っとったんや。――ほいじゃ、僕は補講の準備があるよって、先に上がっとるで。おやすみ……」
それだけ言い残すと、浮音はそのまま二階へと上がっていった。あとに残った有作は、半分ほど残った麦茶を前にして、
「……どうなるかなあ」
と、ため息交じりにつぶやくばかりだった。
講義は単位を落とさない程度にきちんと出ましょう。