笑え
時計の針が0時を指す。
いつも通り、荒廃した都市のような場所だった。
俺はすぐさま周囲の確認をするとともに瑠璃を探した。
「あ!紅さん!」
意外にも探し始めてすぐに見つけることができた。
「今回は近いですね。」
「そうですね、本当に近くて助かりました。」
想像より早く合流できたことに安堵していると奴らが姿を表し始めた。
「来ましたね、とりあえず、瑠璃さんは後ろに隠れていてください。」
敵は視認できる数で3体、いつもより部が悪い。前回の瑠璃を見ていて気付いたのだが、彼女は俺のように身体強化もされないようだ。そのため、逃げながら戦うといういつもの戦法が使えない。あれは相手より速く動くことが必須だ、身体強化のない瑠璃では一瞬で追いつかれる。
「……てなわけで、真っ向勝負だ。来やがれ化け物!」
俺は相棒を握りしめ、黒怪に向かって振り下ろす。鈍い音が周囲に響く、1体目が地面に倒れる。
残り2体が同じタイミングで鋭い爪を振るう、それを鉄パイプで受け止め、1体は蹴り飛ばし、もう1体は殴り飛ばした。
しかし、当然のように全員立ち上がり、再び襲いかかってくる。
俺は構え直し再び対抗する。
何度殴ろうが何度蹴り飛ばそうが襲いかかってくるそいつらに体力も精神力も削られていった。
戦い続けて数十分が経過したころ俺は過ちを冒した。
一瞬、気が緩んでしまった。対応が遅れてしまい敵の攻撃を受けてしまう。背中に激痛が走る、歯を食いしばり後ろの敵を蹴り飛ばした。その隙を逃すまいとあとの二体が同時に攻撃を仕掛けてくる。
激痛に耐えながら構え直し、なんとかその攻撃も受け止め反撃することができた。
「……さすがにヤバいな。」
「紅さん!!!」
瑠璃が心配そうに俺に声をかけてくれた。
推しに心配されるとか幸せすぎてヤバいな。
「瑠璃さん!残り時間は何分ですか?」
「の、残り7分です!」
それを聞き、俺は3体の黒怪に向かい走り出す。立ち上がりかけていた黒怪共をできるだけ遠くまで吹っ飛ばした。
全速力で瑠璃のもとに戻り、「ちょっと、失礼します。」といいながら瑠璃を抱えその場を離れた。
「え、あ、ちょ!」と抱えられた瑠璃が声にならない声を出していた。
このときは激痛でなにも考えられてはいなかったが瑠璃をお姫様抱っこしてるのヤバすぎだろ。こんな、幸せな思いしてええんか!?最高か!?…………………さすがに自分が気持ち悪いことを自覚し始めたのでこれからは自重しようと思う………。
奴らとできるだけ距離を取った後、近くの廃ビルに隠れた。時間を確認すると残り3分にだった。今日をなんとか乗り切ることができた。
一息ついていると隣で瑠璃が涙目になっていることに気が付いた。ヤバい、さすがにキモすぎたかもしれない、お姫様抱っこが悪かったのか、いや、確かに俺がお姫様抱っことかキモいか…………おっと、目から汗が。
「だ、大丈夫ですか?」
俺は恐る恐る瑠璃に訊いた。
「……大丈夫じゃ……ないです。」
オッケーーー!警察さんお世話になります。お疲れ様でした!いや〜、楽しい人生だったなぁー!
「……だって、紅さん…………私のせいで……大怪我を…」
「なんだ、そんなことですか。」
俺は安堵した。
「そんなことって……」
「こんなのすぐに回復しますよ、奴らと戦う力があるんですからこんなのへっちゃらですよ。」
激痛に耐えながら腕を回し余裕があるように見せ、笑いながら嘘をついた。
「ホント………ですか?」
「ホントですよ!こんなんで、泣いてたらこれから大変ですよ?」
俺は笑った。どんな深い傷より、彼女に泣かれる方が嫌だから。
「あと、一分くらいですね。じゃあ、また日曜日に…」
笑って言ったその言葉に彼女も笑顔で「はい」と応えてくれた。
時間が過ぎ、自分の部屋に戻る。
「……やっちまったな。」
あれだけ、堂々と任せろと言ったにも関わらず、こんな傷受けて、瑠麗にも心配させて、情けねぇ。
仰向けで寝ていると携帯に連絡がきた。
俺はその内容を見て思考が停止した。
その連絡は王子からのものだった。
<夢の中で転んだら、現実でも同じ傷ができたんだが紅氏はなにか知ってるか?>
俺は返信をした。考えたくはないが可能性がある。
<どんな、夢だった?>
<なんか、黒い人型の化け物に襲われる夢だったでござる。>
………最悪の状況。俺が戦っている間に別の場所で王子もいた。今回は偶然、生き残れたから良かったが次は二人を護りながら戦わなきゃいけないかもしれない。
「まじかよ………」
俺は天井を見上げながら最悪の現状に打ちひしがれた。
……あ、そういや、今日、昨日注文した瑠璃のグッズ届くんだった…………まぁ、とりあえずそれ飾ってから考えよう。
そうして、俺は考えるのをやめた。
こ、こんなにガチャ引いてんのにピックアップが当たらねぇ………あ、どうも、今回も読んでくださりありがとうございます。次話も読んでくれるとガチャで爆死した作者が救われます。では、また日曜日に…