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バッドエンドは日曜に  作者: 神在虚
変えられない世界
3/15

次の日曜へ

「王子!」

「どうした、紅氏!!」


緊迫した状況、俺は焦りを感じていた。


「ここ一帯はは全てやられました……もう、どうしようも………」

「諦めるな!紅氏!まだ、手があるはずだ。希望はまだある。」

「希望……ですか?」


王子は俺の肩を叩き「行くぞ……ここからは時間との勝負だ。」と告げる。


「時間との?何を言ってるんですか?」

「俺に一箇所心当たりがある。」

「心当たり?」

「少し距離は遠いが電車を使えば行ける………問題は時間だ。」


俺はその言葉で王子の「時間」の意味を理解した。

自分の理解力の無さに嫌気が差す。拳を握り、悔しさが溢れてくる。


そんな、俺に王子は優しく「大丈夫だ。」と言ってくれた。


「行くぞ、紅氏!俺達の戦いはこれからだ!」

「はい!」


そう言って、俺達はその場を後にした……ん?急展開過ぎて頭が追いつかない?何を言ってるだ、俺達は本日発売の「瑠璃の写真集(ネットで購入済み×2)」を手に入れるために本屋を回っているだけだぞ。


 地方勢あるあるだと思うが、地方の本屋ではそもそも置いていないところも多く、まず探すところから始まる。

置いているところを見つけたとしても、売り切れていては意味がない。そのため、時間との勝負というわけだ。


「ネットで2冊買ってるからもういらないだろ。」だって?あまい!あますぎる!推しの写真集だぞ!?発売当日に手に入れたいだろ!


「3冊も買う必要ない。」だって?見る用、飾る用、保存用、3冊全てに意味があるんだ。わかったか!!


………と、一般人に世界一周できるレベルでドン引かせるほど熱弁をしているうちに王子の言っていた本屋にたどり着き、無事に3冊目の写真集を購入することに成功した。



「そういえば、紅氏。今週末にこの写真集のサイン会があるらしいが行くでござるか?」

俺はその質問にニヤつきながら答える。

「行かない選択肢があるでござるか?」

「ないでござるな!」

「ないでござる!ないでござる!」

「「ワハハハハハ!!」」

「それにしてもやっぱり、瑠璃どのはかわいいでござるな!!」

「激カワでござる!」

「見ているだけで生き返るでござるな!」

「生き返るでござる!」

「瑠璃どのはもはや酸素でござる!」

「生きるために絶対不可欠でござるな!」

「瑠璃どの最高!!」

「瑠璃!最高!!!」

「「ワハハハハハハハ!!」」



……これは一般人が火星に行けるレベルまでドン引きさせることができるかもしれない。

これ以上は読者の精神にダイレクトアタックしてしまう可能性があるため、割愛させていただきます。



________________________


土曜日……


「楽しみでござるな!」

「そ、そうだな。」

サイン会の会場近くまで来て重大なことに気がついた。

俺ってどんな顔で会えばいんだ?

あのとき無駄にカッコつけすぎたことを今更後悔している。

なにが「ここに来てしまったら探して」だよ。お前が会いに来てるじゃねぇか。

ファンとしては死ぬほど来たかったサイン会、俺としては今、彼女と会うのは気まずい。


「あ、紅氏の番でござるよ!」


考えているうちに自分の番になってしまったらしい。

推しと会うのは緊張するが今日の緊張感はそれとはまた別物だ。

結局、何も浮かばないまま瑠璃の前に立った。


「え?」

瑠璃が俺の顔をまじまじと見つめる。

写真集にサインを書きながら瑠璃は口を開いた。


「……どこかで会いました?」

「ら、ライブとかで会いましたね。」

「そうですか……う〜〜ん。」


俺の返答に納得がいかない様子の瑠璃。

しかし、数秒後に笑顔になり。


「まぁ!そっか、ライブに来てくれてて顔覚えてるのはよくあることだもんね。いつも、応援ありがとね。え〜〜と、名前なんだっけ?」


「え……と」


前にあったとき本名言ったから名乗れねぇ。

「た、田中です。」


とりあえず、思いつく名前を言った。


「そっかぁ!田中さんか!もう覚えたから!これからも応援よろしくね。」

「は、はい。」


その会話を最後に自分の番が終わった。

俺は安心して胸を撫で下ろした。

よし、バレることなく終われた……ちょっと、悲しいがカッコつけ野郎と思い出されるよりはマシだ。


サインを書いてもらった写真集を手に俺はその場所を後に………


「あーーーーーーー!!!」

会場から瑠璃の声が響く。嫌な予感がして早足になるが…


「……すみません、ちょっと、来てもらってもいいですか?」

スタッフさんが申し訳無さそうに俺に声をかけてきた。

「あ……はい。」

断れず、返事をしてしまった。


そう言って連れてこられたのは控室らしき場所。

いや、まだ、別件で呼ばれた可能性がある。落とし物とか………ないな、何も落とした覚えはない。


薄々察していると黒いスーツ姿の女性が部屋に入ってきた。

「お帰りになるところを呼び止めてしまって本当にすみません。私は有馬 羊子(ありま ようこ)、瑠璃さんのマネージャーしています。どうしても、お客様と話したいと彼女が……。」

「あーーーー!やっぱり、紅さんだ!」


マネージャーさんの後ろから会話を遮って、こちらに指を指しながら大きな声を上げる彼女……瑠璃の姿がそこにはあった。

「夢…じゃなかった異空間?で会った紅さんだよね!」


「……はい」

もう、隠すことはできない。


「ほらほら!言ったじゃん!紅さんはいるんだよ!」


そんな、彼女の言葉に羊子さんも驚きを隠せず「え?……本当に切間 紅さんですか?」と訊いてきた。そりゃ、異空間とか言われても信じないのが普通だよな。

俺は羊子さんに対して頷く。


「で、紅さん!なんでさっき嘘ついたんですか!?」


そう言いながら頬を膨らます瑠璃。カワイ…おっとそんな場合じゃない。


「い、いや〜、それは〜。」

「気付かなかった私も悪かったですけど、言ってくれれば良かったのに!」

「すみません。」

「まぁ、でも、そのことは置いておきます。そんなことより、今日の夜のことなんですけど。」


どうやら、瑠璃も俺に訊きたいことがあったらしい。

それもそうか、あのときは時間がなくてあまり話せなかったし、訊きたいことは山積みのはずだ。


「まず、確認です。あの空間に起こったこと全部覚えてますか?」

「覚えてます。」

「黒怪のことも?」

「もちろん、俺が話したんだから忘れるはずが無いですよ。」

「………私、今日の夜も飛ばされますかね。」

「少なくとも可能性はあります。」

「ですよね〜〜〜。」


机に伏せる瑠璃。なんだ、ここは天国か?推しがめっちゃ近いんだが。


「あの、飛ばされるときの場所って一緒にならないんですか?」

「う〜ん、俺もあの空間についてはあんまり詳しくないんですよ。でも、俺の力程度じゃ、どうにかできるとは思えませんね。」


「そっかぁ…また逃げなきゃならないのかぁ。」

瑠璃が頭を抱えながらため息をつく。

どうにかしてやりたいがこれに関してはどうにもならない。

「ん?でも、紅さんは黒怪に対して戦えてますよね?じゃあ、私も戦えるかな。」

「やめた方がいいですよ。……戦えると思って攻撃してそれが効かなかった場合、()()()()()。」

「そうだよねぇ……」

「ま、待ってください!!」


今まで静かに俺達の話を聞いていた羊子さんが慌てて話し出す。


「死ぬってどういうことですか!?」


瑠璃が首を傾げながら「そのままの意味だけど?」と言い返す。


「お二人の会話を聞いてても何一つ理解できなかったのですが、命に関わることなのですか!?」

「……そうだね、私、紅さんが負けたら死んじゃうね。」

「そんな………で、では警察に連絡を!」

「それでどうにかなるんだったら俺がもうやってます。異空間で黒い怪物と戦ってるなんて信じてもらえるはずがないですよ。それに、信じてもらえたとしても異空間に飛ばされるのを止めるすべがありません。」




「………あなたが瑠璃に関わったせいでこうなったのでは無いんですか?」

羊子さんはこちらを睨みそう言う。

「異空間や黒い怪物なんていう嘘の話を瑠璃に信じこませてなにか企んで……」


「羊子さん!!いくら羊子さんでも私を助けてくれた人に対して酷く言うのは許さないよ!」

羊子さんの言葉を遮るように瑠璃が怒鳴る。


瑠璃に言われ、言い過ぎたと気がついたのか「すみません。」と頭を下げた。


「頭を上げてください、羊子さんの反応が正しいんですから、普通、異空間とか黒い怪物なんて言う人がいたら頭がおかしいと考えるのは当たり前ですよ。」


 そう、これが当たり前、俺と瑠璃の身に起こったことは異常で周りの人に話せばおかしい人と言われ笑われる。しかも、証拠もないため、一切証明することはできない。だから、この異常に巻き込まれた人しか理解できないのだ、この「世界から見捨てられたような気持ち」は………


それでも瑠璃は羊子に本当なんだと伝える。

「異空間も黒い怪物も私もこの目でハッキリ見てるんだから嘘なわけないよ!羊子さんも知ってるでしょ、私は嘘つけないんだから!」


そう言われた瞬間、羊子さんが顔を上げ瑠璃に向かって言った。


「わかりました、お二人の話を信じます。……瑠璃は嘘をつけませんもんね。疑ってごめんなさい。」

「そうだよ!私、嘘つけないもん!」


腕を組み頷く瑠璃。嘘をつかないではなく、つけないという点が少し引っ掛かるが瑠璃がそれで良しとしているため良いこととしておこう。


「…羊子さん信じてくれてありがとうございます。」

俺も瑠璃のように周囲の人の信用を得ることができただろうか……いや、それは難しいだろう。これは瑠璃と羊子さんの信頼があって為せるものだ、俺ではどうにもならない。


「切間さん、先程はすみませんでした。……あの、あんなことを言っておきながら虫のいい話であることは重々承知の上でお願いがあります。」

羊子さんは真剣な表情でこちらを見る。


「……瑠璃を護ってくれませんか?………彼女は夢を叶えるために必死に頑張っています。血も滲むような努力をしてきたんです。そんな、彼女の夢をここで終わらせてほしくない。こんなところで終わって欲しくない。だから…お願いです、どうか、彼女を助けてください…お願いします。」


羊子さんは俺に深々と頭を下げる。

その姿を見て俺も決意が決まった。


「任せてください、俺が命に代えても瑠璃さんを護ります。……というか、お願いされずとも護りますよ。だって、俺、瑠璃さんの大ファンなんですから!」


俺は彼女に笑ってそう言った。

羊子さんも笑い返してくれた。

瑠璃は少し気恥かしそうにしていた。


……二人が思っているほど俺は強くない。

だから、これは強がりだ。護りきれる保証は無い、だけど、命を賭ける決意はできた。


瑠璃を絶対に護る……そう思った瞬間、ぼやけた記憶がフラッシュバックした。


あれ?俺、前にも誰かに同じようなこと言わなかったっけ?







読んでくださりありがとうございます。

この前のジュラ紀、白亜紀、お好み焼きが全く面白くないことに今更気づきました……まぁ、いっか。

誤字脱字があった場合はゆるしてヒヤシンス。


では、また、来週の日曜日に。

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