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あの日見た花を 前編

これはオラリオン王国が『永眠』の魔法によって永い眠りに落ちる前。

ほんの少しだけあった、平和な時間のその一編。



この国の第二王子だった人物、リベルタ・リシェス。

彼は第一王子である兄クヴェル・リシェスの協力の元、首都から離れた場所での静かな生活を手にしていた。

そして彼は今日、密かに計画していたあることを実行に起こそうとしている。


「ただいま、ルカ」


「あっ、おかえりリル。今日もお疲れさま」


ルカ、と呼ばれ返事をするのはオラリオン王国の貴族ルトワール家の娘であるシエル・ルトワール。

リベルタの妻となった今現在はシエル・リシェスと名乗るのが正しいのだが、ある事情からシエルはルカ、リベルタはリルという偽名を使って二人は生活していた。


「…?あれ?何か良い匂いしない?」


早速の指摘にどう答えるべきか悩むリル。

明日はルカの誕生日。まだ首都に居たころに見た中でも市場綺麗な花がちょうどルカの誕生月を象徴する花だと知って、明日の為に取り寄せていたのだ。

勿論、本人には知らせずにサプライズとして。


「あー。帰り際に商店街覗いてきたからその時に果物の匂いとか移ったのかな」


こういう時の為の言い訳もすでに考えてあった。昔から気ままに生きてきたリル、こういったことにはめっぽう強い。

だが、その匂いの答えはもちろん例の花である。今日既に花屋の店主から受け取っており、その場で花束としてまとめてきたのだ。


「なるほど。それで、何か掘り出し物はあった?」


「あったあった。ほらこれ、ルカの好きな作家の新作が売ってたんだよ」


本屋で果物の匂いは付かないだろう、なんて指摘はルカからは飛ばない。


「えっ!?新作なんて全然知らなかったんだけど!!」


彼女はこの作家のことになると少々判断力が鈍る。それはリルも良く知るところだった

ちなみにこの作家が新作を執筆していたというのは正確には事実ではない。

この本はリルがこの作家のピンチを魔法で何度か救っていることに対する本人からのお礼だったりするのだ。

言ってしまえば世界に一冊しかない、ルカのために書き下ろされた一冊である。


「本当に全然知らなかった…ありがとう!」


そりゃ知らないはずだ、という言葉は喉元で止めておいて。


「新刊だって本屋の店主からオススメされてさ。買ってきて良かったー」


その言葉は届いていたのか。ルカは既にその本を読み始めていた。


「さて、あとは明日に備えるだけだな…」


自分の部屋に花束を置いておいて、あとは明日使う魔法の準備をする。

今さらにはなるが彼、リベルタリシェスは『役持ち』である。

それも、普通ではない。彼はおよそ知りうる限りすべての魔法を自在に操れるのである。

戦闘において右に出るものはおらず、あらゆる分野に精通する…ほどの実力は持っている。

しかし、本人に戦闘を行う意思があまりないのだ。むしろ、戦闘は避けたい性分である。

初めて自分の魔法が知られたのは兄。そして兄はこの力を他の人間に見せてはならないと当時のリルと固く約束をしていた。

よって、彼の魔法は一般的には『治癒』であることとされ、本当の魔法は兄とリル本人だけの秘密となっていた。今となってはルカと、ルナという秘密の共有者が居るが。



そして運命の夜明け。

ルカには今日も仕事であると伝えてあるがもちろん嘘である。

ルカが買い物に出るその間を狙って部屋の飾りつけからその他もろもろの準備までを済ませる算段である。


「よし、準備はいいな、ルナ」


とん、と彼は自分の付けている耳飾りに触れる。

ルナ、というのはこの耳飾りの元となっている、オラリオン王国の秘宝の一つ『月の雫』から生じたと思われる女の子の名前である。

普段はリルの耳飾りとして生活を共にしながら人々の暮らしを見て世界を学んでいる。


「もちろん。リルこそしくじらないでね」


「あったりまえだろ?…っと。ルカが出かけるみたいだ」


ちなみにこの会話、自宅の屋根の上で屋根に耳をくっつけながら行われている。

しかもルナは耳飾りの姿なので近隣住民から居れば『あの家の旦那さんが自分ちの屋根に耳くっつけながら独り言呟いてる』というなかなかな構図となっている。

リルは聴覚強化で家の中のルカの行動を聞き取りながら行動に出るタイミングを計っているのだ。

一応、周りからは見えない様に『隠匿』の魔法はかけている。


「何でも魔法で解決するのは好きじゃないんだけどな…こういう時は話が別ってもんよ」


「言ってしまえば屋根に上がらないでルカから姿見えなくして家の中に居ればいいんだもんね…」


ルナからの指摘に内心『確かにそれでよかったじゃん』とか思いつつ、ルカの外出を確認。

作戦は行動に移された。



まずは予め開けておいた窓から自宅に侵入、リビングから装飾を始める。

飾りつけをどう付けるのかは既にルナと話し合いを済ませてあるので、手早く済ませていく。

リルが帰ってくるまでの数時間が勝負。よく行く行きつけの店には長話でもして引き伸ばしてもらうよう頼んである。頼むぞ会話スキル。


なんて、そんな事を考えながら時間は過ぎていくのであった…果たして間に合うのであろうか


続く!

と、いうわけで短編集第一弾です!

なのにまさかの続き物。短編ならまとめてこいって話ですねはい…

今後もこういった形、前後編とか前中後編とかでやっていくと思うのでよろしくお願いします!

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