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ある女の話

作者: ヨシノガリイセキ


「本当に外道な奴は顔殴るとかお腹蹴るとかじゃなくて目潰ししてくるから。」


彼の放った言葉は全てが新鮮で私にはツボだった。

私がケラケラ笑うと彼はさらに武勇伝を話してくれる。


「知ってる?自販機にお金入れずジュース取る方法。」

「自転車についてる鍵も外せるで。今やったろか?」


やめてくれと大いに思う。話だけで結構だ。


「万引きに至っては、店に陳列されてる物が全部自分の物に見えてくるねん。盗むって感覚じゃないのよ。わかる?」


全くわからない。突然共感を求められても困る。



たくさんの犯罪を犯してきた彼だが、彼には彼なりのポリシーがあるようだった。


「俺は本当に悪いやつからしか金は取らんし、人殺しもせん。盗む傘もビニール傘って決めてる。」


いや当たり前というか、"普通"の感覚ではありえない事なんだけど...。ビニール傘なら良いだろうという口調が可笑しかった。

それでも楽しそうに話す彼がなんだか微笑ましく思えてしまったのだ。


若者の中で流行っている「〜の世界線どこ?」という言葉がある。一体どんな環境で、どんな選択をしてこればそのような経験をするものかと。世界線というのは本当にあるのかもしれないと、彼の話を聞いて思った。



「私とは全然違う。別世界だね。」


そう彼に言うと、

「君が何にも知らんだけやで。世界は広いんやぞ〜。」

「もっと世界を見なさい。」


とにやにやしながら言ってくる。

真面目に生きてきた私にとって、悪いことってすこぶるわくわくするのだ。まるで不良に憧れる中学生の女子みたいに。


私にとって未知の世界を生きてきた彼に、だんだんと夢中になっていった。


過去の話。

彼は根っからの悪では無かったらしい。グレる原因は父親の暴力。

「めんどくて大人に言わんかっただけで、多分俺養護施設行ってたレベルでやばかったで。普通に包丁で刺されたこともあるしな。」


恐ろしい話を淡々と話す。彼の感情が見えなかった。


「血まみれになって近所の駄菓子屋に逃げ込んで、駄菓子屋のおばちゃんが俺を見て泣いてたわ。」

「まあ、そこの駄菓子屋でしょっちゅう万引きしてたんやけどな。」


おばちゃんの気持ちになるとなんとも切ない。

彼は笑っていた。



彼は普通じゃない。「普通」ってなんだろう。



そんな彼だが、少しずつ連絡を取らなくなって、いつの間にか私の前から消えていた。

彼の存在は不確かだった。ふらっとどこかへ行ってしまう。


ってな感じなので、私は彼の居場所を知らないし、生きているかどうかすら分からないんですよ。


ギャンブルとか、闇カジノとか、悪い方向に行ってる気もするし。あ、でも薬物はやらないって誓ってましたよ。

目の前に座るいかにも刑事さんって顔をしたおじさんに語りかけた。



彼が消えてからちょうど2ヶ月ほど経った。



「普通」ってなんだろう。


彼のように暴力を振るう父親も、人に語れるような武勇伝も、悪い友達も持っていない。


これが普通?普通って何?

普通ってどこに売ってるの?どこを探しても置いていない。私は普通を持っているの?

どんなお店にも売っていない、そんな特別な"普通"を、私は持っているの?


違う。こんなのわくわくしない。


特別が欲しい。普通なんてつまらない。

ずっと真面目に生きてきたんだ。私も1つくらい武勇伝があってもいいじゃないか。



特別になるために、特別を得るために。



「もっと色んな話、聞きたかったなあ。」

私は広い世界を見るために、外に出た。ビニール傘を持って。


女子中学生の部屋には悪臭とともに、男の死体が転がっている。


やっぱりお話を書くのって難しい。実感しました。

読んでくださった方、ありがとうございます。

小説をたまに読むくらいのど素人なんですが、いかがだったでしょうか。また浮かんだら書きます。

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