姉、最後の〆ができない
遡る事、数十分前。
ディランがお祖母様に呼ばれて部屋を出ると、イルさんと2人きりになった。
イルさんと二人っきりは初めての事で、何を話しをして過ごそうかと考えていると、
「エスメ様、私もハーブティーを淹れてみたくなりまして、茶器に触れる許可をいただけますか?」
イルさんからの言葉に頷き是と返すと、戸惑うこと無くハーブティーを淹れ終わり出されたハーブティーはとても美味しく、アレコレ考えてしまった心が解れ、イルさんから話かけてれるので思いつくまま返事を返す。
王都での思い出話
フレディに沢山助けて貰い励ましてもらえた大切な思い出
話の内容でつい身振り手振り動かし夢中になって話していると、イルさんの表情が少しずつ柔らかくなり、
「マルチダがそばに居なくて自領で独り立ちの勉強をするのはほんの少し不安だったのですが、フレディが、1人で困る事があったら遠慮なく頼っていい。そう言ってくれて心強かったです」
つい今まで隠していた気持ちを漏らしてしまい、
「もう不安は全くありません。毎日皆さんには優しく指導員いただき、楽しく勉強させていただいております」
ディランとフレディには内緒てお願いします。
苦笑しながら顔の前で両手を合わせお願いを告げると、
「かしこまりました。私の心で止めておきます」
しっかり頷き了承をしてくれたのを確認し、
「それにしてもイルさんはなんでも出来てしまうのですね」
フレディと共に美味しいハーブティーを淹れるにはどうしたら良いのか、互いに意見を出し合い様々な淹れ方をしているが、こんなに美味しく淹れれた事ば無く、
肝心と感動を告げると
「年の功と経験でございますよ」
にこやかに笑いながら返ってきた言葉に
「イルさんはできない事は無いのですか?」
何も考えずに尋ねると、
「私もできない事、知らない事、解らない事は沢山ございますので日々勉強をいたしております」
返ってきた言葉が予想外で驚き見つめていると、
「私が若かりし頃の知識は時として不必要で現代では拒否される物もございます。毎日が同じ事が起こらないのと同じく、知識も日々新しき書き換えていかねばなりません」
これを怠ると、ただのうるさい老人となってしまいますからな。
軽やかに笑い付け加えられた言葉に、どう返事を返して良いのか解らず曖昧に頷き返してしまった。
あの場で頷くのは失礼だった。
それなのに笑って流してくれたイルさんの気持ちがありがたく、それに倣い気付かないふりをしハーブティーを1口飲み、手に持っていたソーサーにカップを置いたその時、
白色のエプロンが目に入り、改めて自分の今日の洋服を思い出す。
メイドさん達が着ている紺色の肩周りが膨らんだロングワンピースの上に白色のシンプルなエプロン。
頭には結い上げた髪が落ちない様に室内帽におさめ、同じ白色リボンで結んでいる。
昔、前世でよく見たクラシカルメイドの服装。
心の中で力強く頷き、
「イルさん」
コレはアレをやるしかない。
意気込みが強すぎて、声にまで出てしまったのが、
「はい」
いつもの様に微笑みながら返事を返してくれたので
「私、今、メイドさんに見えますか?」
真剣な表情にゆっくりと言葉を切りながら伝えると、
「さようですな。メイド服ではありますが良くお似合いでございます」
いつもと変わらない表情と声の返事に自信を持ち、手に持っていたソーサーとカップを机の上に置くと立ち上がり、スカートの座り皺を伸ばし少しでも見目が良くなる様に身なりを整える。
アレをするならきちんとやりたい。
いつ帰ってくるか分からないので、手早く整えていると、
「失礼致します」
言葉の少し後に背中へ移動し伸ばされたイルさんの手がエプロンのリボンを整えてくれ、室内帽を整え、リボンを結び直してくれた。
「ありがとうございます」
何とか服装を整える事ができ、手伝ってくれたイルさんに改めてお礼をつげ、扉の前へ移動し深呼吸をすると、測った様にノックが聞こえ、
「どうぞ」
入室の許可を出すとゆっくりと扉が開き、ディランの姿が見えたので、背筋を伸ばし、スカートを少し摘み上げ、淑女教育で習った様に、優雅に見えるよう腰を折り、
「お帰りなさいませ。ご主人様」
言えた。
背筋を伸ばし、噛むこと無く言い切った事に油断した為か、
「紅茶に致しますか?ハーブティーに致しますか?それとも」
お約束の言葉を詰まること無く言ったものの、最後のオチを考えておらず、
どうしよう。
紅茶、ハーブティーと来たら次はミルクティーの方が、
ご飯にしますか?お米にしますか?これともライス?
だけど、多分通じないよね?
どうしよう?次が思い浮かばない!
微笑んだ表情のまま、頭の中を全力で回転させるも何も思い浮かばす、
「お湯になさいますか?」
焦って出した言葉に、言い様のない無共感が溢れる。
あんなに頑張ったのに、ココで失敗するなんて。
心の中でため息を落としながらも、ディランを見つめれば
「紅茶でお願いいたします」
普通に返事が返ってきたので、
そうだよね。うん。お姉ちゃん解ってた。
心の中で納得しつつ、折れかけた心を見ないフリをし
「分かったわ」
始めた事は途中で投げ出さないと心を奮い立たせ、何食わぬ顔でワゴンに移動し紅茶の準備を整えた。
初めて淹れた紅茶より美味しく淹れることができたはず。
視線でフレディに問いかけると微笑み小さく頷いてくれたので、ディランに前に置くとソファに座るように促され、ディランの横に座った。
何かを考えているのか時折、口を動かし告げようとするも、止めてしまう。
何度か繰り返し口を動かすも、待っても言葉は出てこないので、
「ディラン。無理して言わなくてもいいよ。言える時が来るまで待ってるから」
言葉にできない事を攻めている様に見え、待つ事を伝えれば、
「申し訳ありません。今少し、お時間をください」
眉を下げながらの言葉に、手を伸ばし髪を梳く様にこめかみきら後頭部へとゆっくりと撫ぜ、
「待ってるから大丈夫よ」
安心させるように微笑み返した。
第99話
メイド服を調べたのですが奥深く。午前と午後の衣装が違う事を知りました。奥深い
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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