お祖母様、姉を見守り弟に知恵授ける
お揃いの洋服を着て、人形の様に可愛い孫達を愛でながらクックが用意したティーフードを摘み、紅茶を飲み安らぎのひと時を過ごす。
楽しそうに話すエスメと呆れながら言葉を挟むディランを眺め、時に話を促せば、思わず笑ってしまう話もあり、
「貴方達は素敵な事が沢山あるのね」
大人になるとそんな事と呆れたり、気にもとめない事もエスメにはとても楽しい事らしく、感情豊かに話をしてくれる。
空から見た街並みの話や煙突から出ている煙が家々で量が違う話。
山の風景が日々変わり楽しいし発見がある。
庭師に聞いた天気の話がほぼ当たるのだと、驚きと嬉しそうに話す姿は微笑ましく思うも、
「エスメ、貴女、庭師といつ仲良くなったの?」
驚く人物の名前が出てくる度に聞き返すと、
「ディランと散歩に出た時に話しかけて以来、仲良くしていただいてます」
にっこり笑いながら返す言葉に
「そう。それは良かったわね」
頷く事しか出来ずにいると、ディランから
「姉様は屋敷にいる使用人全員と言葉を交わしております」
これまた驚きの言葉に、報告の細かさを思い出し納得ができた。
上級使用人は私達と話す機会が多いのは当たり前だが、下級使用人達がどうしてエスメの行動に詳しいのかが良くわかり、
「あらあら、私よりも屋敷の事が詳しそうだわ」
少し茶化しながら返事を返せば、
「そんな事はありません。まだまだ知らない事が沢山あります」
瞳を輝かせながらの言葉に、微笑ましく思う。
エスメの立場なら嘆いても不思議では無いのに気にも止めず過ごしている。
貴族として育てなくて良かったのかもしれない。
念願の女の子。
自分は産めなかったが、女の子が生まれたら叶えたい事が沢山あった。
目の前のお揃いの洋服もその1つ。
買い物に行き、新作のドレスや流行のアクセサリーの型やファションプレート見ながら話をしたかった。
息子の嫁であるリリーとは楽しく盛り上がり、自分達の好みの色や型など時間を忘れ語りあえたが、
エスメは興味が無いようで、街に出ても違う物に興味を惹かれファションなどには目をくれない。
育て方かしら?
息子やリリーの育て方に何か言うつもりは無い。
特殊な環境の中で必死に育て大きくしてくれたのだ。
感謝しかない。
貴族として育てたとしてもエスメはファションや宝石には興味は持たなかっただろう。
何よりこの性格で淑女として育ったかどうかも怪しい。
こう言っては駄目かもしれないが、貴族席を抜けて良かったのかもしれない。
もし、貴族のままなら、あの辺境伯が黙ってはいなかった。
女子が生まれたと先行して報告が来たと同時に、祝いの品を持ってきたなど言い我が家の来て
自分の子供が生まれたら婚約者として迎えたい。
などと言い、虎視眈々と旦那様との繋がりをより強めようと道具の1つに考えていたのだ。
流石に孫可愛さの旦那様が断っていたが、そのうち丸め込まれるだろうと思い警戒していた時の
女王様との同等もしくはそれ以上の魔力の持ち主という報告に辺境伯は諦めてくれた。
安心した束の間に、ディランの跡取りとしての立場とご自身の御子息であるザッカリー様を使うとは思いもしなかった。
1つ心配事が解決すれば、その倍心配事が増える日々に頭を悩ませる。
「お祖母様、いかがなさいましたか?」
心配そうに眉を下げ訪ねてくるエスメに微笑み、
「なんでもないのよ。気にしないで」
返事を返すも、納得はしていないようで、
「ハーブティなどはいかがですか?味は美味しくないのですが落ち着きますよ」
自分の顔を壁端に寄せてあるワゴンと視線を行き来させ聞いてくるので、
「では、いただこうかしら」
エスメの気持ちが嬉しく、頷くと、先程までの表情が瞬間に無くなり、
「少しお待ちください」
勢い良く立ち上がり、裾を翻しながら足速にワゴンへと向かう姿とディランからこぼされたため息に、
「ディランはエスメの淹れるハーブティを飲んだ事はあるの?」
心を乱していると聞いていたディランは平常心を取り戻した様で、いつもと同じエスメの態度に呆れながら見ていたが、声をかけると真っ直ぐと目を合わせ
「先程、いただきました。ラベンダーの良い香りで心が落ち着きました」
少し目を腫らしながらも真面目な表情に、腫れの事は気づかぬふりをし、
「美味しくないというのはどういうことかしら?」
折角エスメがくれた話題を広げる為に言葉を続けると、
「少しですが渋みがあります。その事だと思われます」
戸惑う事なく告げられた言葉に、飲めない程不味くないのだと判断を下した。
ディランの事、エスメが淹れたからと飲めない程の不味い味を美味しいなどと言わないはず。
旦那様の素直で正直な所を引き継いいると信じたい。
手慣れた動きでカップに淹れ、運んできたエスメに礼を告げ、口にカップを近づけると
「良い香りね。心が落ち着くわ」
カップから匂うラベンダーの香りと共に一口飲むめば、ディランの言葉通り少し渋みがあるものの飲めない程では無く、
「少し渋みがあるのね」
正直に感想を告げると、
「この時間より早く淹れてしますと香りがしないのです。どうにか渋みを取りたいのですが」
肩から力を落としながらの言葉に、苦笑し
「今度、ハーブの書物を送るわ。頑張って勉強して美味しくできたら私の為に淹れて頂戴」
どうにか笑顔に戻したくて、物で釣る様な形になってしまったが、
「はい。うんと美味しいハーブーティーを淹れてみせます」
あっという間に笑顔に戻り、心の中で安堵の息を落としつつも、
本当に旦那様と息子にそっくりだこと。
「ディランにもご馳走するから絶対に飲んでね」
笑顔で告げるエスメに対し
「楽しみにしております」
嬉しそうに、微笑ましそうに微笑むディランを見ていると、
ディランが強く出れないのはこの表情が原因の1つなのね。
思わず、自分と重なり苦労している部分を見つけてしまし手を額に当てかけるも、ノックの音が聞こえ、
エスメとディランと顔を見合わせるも、部屋の主であるエスメの返事に、フレディが対応に出る。
なぜ、フレディが動く必要があるのかしら?
動きかけたエスメ付きのメイドが対応の為に動きかけたが、すぐさま止めた事に今回だけでは無いのだと悟り、報告にあったフレディとエスメの仲の良さの話を思い出し、ひっそりとため息をついた。
「俺だけ除け者にするだなんて酷いではないか」
聞こえきた声に視線を向ければ、にこやかに笑いやってきた旦那様にディランとエスメと共に立ち上がり出迎える。
「除け者だなんて人聞きが悪いですわ」
困った風に見える様に微笑み言葉を返せば、
「それは悪かった。だが、俺も仲間に入れてくれれば良いではないか」
「私はエスメの楽しそうな声に様子を見に来たらお茶に誘っていただいたのです」
決して計画をしていたのではない。
自分の中では計画をしていたがそんな事表に出す事では無く、やんわりと否定すれば
「あの、お祖父様もお時間がありましたら是非、ご一緒してください」
エスメの誘いに破顔し、
「勿論だ」
頷き1つで足音が鳴るのでは無いかと思う程の速さでワゴンへと向かったエスメを追いかける姿に呆れながら見ていると、ディランが横に立っているのに気づき、
「どうしたの?」
声を顰め尋ねると、
「ご心配をおかけし申し訳ありませんでした」
視線はエスメから動かさないが自分に向けられた言葉に、
「私こそごめんなさい。貴方の意思を無視して着せているのは申し訳なかったわ」
事情は察しているのだと匂わせ告げると、
「姉様の事を考えての事、僕が上手く対処しきれなかったのが悪いのです」
きちんと察する事ができた返答に、
「そう全てを飲み込む必要は無いわ。エスメが貴方を守った様に上手に嘘を使いこなしなさい」
更に声を顰め叱咤する。
「エスメと言う良いお手本がいるのです。できないなら真似をしなさい」
真似をする事は恥ずかしいことでは無いの。
挨拶も食事のマナーも剣術も全て真似から入るのよ。
真似をして、しつくして自分の物にすれば良いだけの事。
誰も貶しなどしません。
貶してくる者は、成長できない者だけよ。
そんな者に耳を傾ける必要わないわ。
「守りたいと思うなら、精進しなさい」
目の前では旦那様とエスメが楽しそうに笑い合いながら紅茶を入れている姿が自分のとっても守りたい者達なのだと、言葉に出し改めて思い治せば、
「ご指導、よろしくお願いいたします」
小さいながらも真の通った言葉に、
「いい覚悟だわ」
まずは、辺境伯親子への対応で練習をさせる為に頭が動き出した。
蛇の道は蛇
良い見本が近くにいるのだ利用する手は無い。
第88話
鏡開きが終わりぜんざいをいただきました。初詣に行けていないのは毎年の事なのですが今年はいつ行けるかの気を揉んでおります。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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