姉、日常生活に喜びを見出す。
前日から外に出れば風に押され歩くのも困難になりなりながら、庭師の手伝いをしていれば、
「明日は雪かも知れません」
ご年配である庭師の言葉に首を傾げ、
「雪が降る事が分かるのですか?」
灰色の雲に覆われた雲を見上げながら聞くと、
「勘ですよ。ずっと住んでいると自然と分かる事があるのです」
優しい声に視線を空から戻し庭師の表情をみると穏やかな表情で、
「明日の朝は雪が積もっているかと思いますよ」
告げられた言葉に、
「それは楽しみだわ」
手を休めながらの会話を思い出し、楽しみにベットに入り眠りについた。
空が明るくなる前に目を覚まし、寒さに震えがら着替えを身なりを整え部屋を出ると何がが違う感じがし不思議に思いながら廊下を歩きキッチンへと入っていく。
「おはようございます」
真っ暗で誰もいないキッチンに入り、まずは数ある窯に火を入れ、ランタンに火を灯し昨夜仕込んだパン生地の確認をする。
火魔法石が付いている木箱を開け、ほんのりと温かいパン生地を粉の付けた指で中心部を押し戻ってこないかを確認し発酵具合を見て蓋を閉める。
そうしていると釜に入れた火が育っており、釜全体に熱が行き渡ったら薪を端に寄せ温度調整を行なっていると、キッチンメイドやクック達がキッチンに集まり出せば、あっという間に忙しい時間がやってくる。
「お嬢様、野菜を洗って手で切っていただけますか?」
キッチンメイドからの言葉に返事を返し、水を持ち運ぶ為の桶を持ち井戸がある裏庭へ向かう為に扉を開けると、空が明るくなり、一面に広がる真っ白の世界に
「凄い!本当に雪が積もってる」
思わず声を上げると、
「あ、お嬢様。やはり私が行きます」
先程、指示をくれたメイドの言葉に、
「大丈夫。それに、誰も踏んでいない雪を踏んでみたいの」
笑顔で断りを入れ、恐る恐る足を伸ばし雪を踏むと、ザクリと音が鳴り自分の足を置いた箇所だけが沈むのが面白く、1歩1歩ゆっくりと歩いて井戸まで行き自分が歩いて来た場所を振り返ると、
「道ができてる」
初めての体験が面白くて楽しくなるも朝食の準備中だったことを思い出し、水が入った桶を上げる為に両足に力を入れロープを掴み上から下へ動かし水が入った桶を上げて持ってきた桶に入れてゆく。
魔法を発動すればすぐに終わる作業も、できる限りは人力で行う事が決まりらしく毎日水汲みも火起こしも自分の手でやっている。
何度もやればコツを掴んで早くなるものよね。
始めは水の入った桶を上げることができず何度もキッチンメイドやクックに迷惑をかけたので誰よりも早く起きできる限り迷惑をかけないようにしていたが、最近は時間を持て余す事が増えてきた。
真っ赤になった手を見つめ、できる事が増える自分が誇らしく思えある程度、水が入った桶を持ちキッチンへ戻る。
真冬の井戸水は想像していたよりも冷たくなくカゴに入っている野菜を洗いクックに手渡した後は、使用した調理道具を洗っていく。
水魔法石に触れ発動させ、同時に火魔法石にも触れ水からお湯へと変えていく。
魔法を使用するラインはどこだろうか?
ぼんやりと考えながら、次々にやってくる使用済みのキッチン道具を洗い、ある程度貯まれば布で拭いて決められた場所へと戻して行く。
キッチンが動いていない時間は無く、朝食が終われば昼食の仕込みをしつつ夜の仕込みをあれば、お茶会のティーフードを作る日もある。
急な思い立ちでキッチンを貸してください。とは言える状態状態では無い事を知り、ご婦人のスープを作ってみたいと意気込んでいた気持ちを一旦しまい込み独り立ちの練習に集中する事に決めた。
冬だから寒くて起きるのが辛い時も、布団から出るのが嫌な時もあるけど、昔と言う前世の新人研修で感じた事、教育者となった時の苦労と喜びを思い出し何とかできる事が増えてきた。
ありがとうございます。
助かります。
お礼の言葉も貰える様になり、嬉しいけどディランに悲しませたくは無いんだよね。
皿洗いに洗濯は水と洗剤を使うので手荒れが酷くなり、日々ディランの眉間の皺が深くなりフレディの心配する色が濃くなっていく。
毎日、ハンドクリームを塗ってくれるが効果が現れる前に朝が来るので治る気配は無い。
昔もこうだったしなぁ。
手を磨り合わせるとガサガサと鳴る両手を見つつ、皿洗いを終えると朝食の時間となる。
使用人達と食べるご飯はたくさんの会話が聞けてとても楽しい。
焼きたてで柔らかい白いパンに野菜が沢山入ったスープに少しのお肉。
少しだけ重く感じていた朝食を使用人達と同じ物をお願いした所、適量な量と味付けでお腹一杯食べることができた。
聞こえてくる今日の晩御飯のメニューや些細な出来事に若いメイド達の様々な話は聞いていて楽しくもあり時に苦笑してしまう事もある。
若いて素敵だな。
誰かが街に住む男性の事が好きで今、気づいて貰えるように頑張っているの話の花を咲かせ時に小さな歓声を上げている。
一喜一憂する女の子達とは反対に男性の使用人黙々と食べたり打ち合わせをしたりしていて眺めているだけでも楽しい。
温かいお茶で一息ついた後はランドリーに行き自分の服を中心に洗っていく。
シミや食べこぼしの汚れがいないかを確認し、人肌の暖かさのお湯に漬け、全体を洗い最後に首元、手首辺りを念入りに揉み洗いし、水分を絞り、乾燥室へ持って行き干す。
最近は手順を覚えたので少しづつ終わる時間が早くなってきたので、他に手伝える事をやっていく。
数日前にお祖母様のハンカチーフを洗っても良いと言って貰い、刺繍に爪を引っ掛けないように注意しながら揉み洗いをして行く。
お祖母様の洋服は精細で希少なレースがついているのでまだまだ任せて貰えない。
お祖父様の洋服もなぜか洗わせて貰えない。
となれば、ディランの洋服が洗える許可が貰える事を目標に、毎日洗濯の数をこなし経験と技術を増やしてゆく。
汚れ1つでも洗い方が違い、毎日作業手順を聞いてしまうが嫌な顔1つせず教えてくれるメイド達には感謝しかない。
今度、お祖母様と街に買い物へ行った時にお菓子を買ってこよう。
今日も、少し白粉がついたハンカチーフを洗い方を聞きながら頭の隅で思う。
ランドリーメイドの話はいつも楽しく、街でこんな食べ物が流行している。こんな珍しい物を見たなど話題が豊富で聞いていて飽きがこない。
キッチンもランドリーもとても居やすくてつい長居をしてしまうと、
「エスメ様、お迎えが来ておりますよ」
指導をしてくれるご婦人の言葉に出入り口を振り向けばフレディが心配そうに立っており、
「エスメ様。後は私達がやりますので」
シーツを一緒に洗っていた若いメイドの言葉に申し訳なく思うも、
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
礼を告げ、洗剤がついた手を洗い置かれている布で手を拭きフレディの元へ歩き
「ごめんなさい。夢中で気が付かなかったわ」
迎えに来てくれた事と時間配分が出来ていなかった事への詫びを告げフレディと共にディランの部屋へと歩いて行く。
「今日の朝ご飯のスープ美味しかったね」
使用人達は全員同じ食事を取っているのでフレディも同じ物を食べている事で顔を合わすと食事の感想を言葉にすると、苦笑し、
「何も食事まで一緒にすることはないと私は思います」
ディランの前では言わない言葉に、
「クックが作ってくれる食事は館にいる時だけなのよ。舌が肥えてしまったら後々私が困るもの」
ただでさえ使用人達のご飯も美味しいのに。
今後の事を考えての行動だと告げれば、
「使用人達がエスメ様の行動に注目し、落ち着いて食事などできないのではありませんか?」
「子供の頃から何処から視線を感じてるから、もう慣れたわ」
止まることのないフレディの心配する言葉に笑顔で返せば、口元が引き攣り
「そうですか」
納得はできないけど無理矢理しましたと言う表情と声に首を傾げるも、
「1つ1つできることが増えるのが嬉しいの。ディランやフレディのは心配かけるけどもう少し見守っててね」
にっこり笑いフレディに告げれば、心配そうに微笑みながらも頷いてくれた。
第82話
21年最後の話になります。7月24日から始まり1日開けながらですが続けることができましたのも、
読んでくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
22年もよろしくお願いいたします。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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