弟は親友ができた。
驚き目を見開いている姿を見て、少しだが気持ちに余裕が持てるようになり先程言った
「何故、僕が子犬なのかお聞かせいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
真っ直ぐ背筋を伸ばし、相手の目を見て問いかければ、どこか居心地が悪そうに視線を逸らし、
「別に意味はねぇよ」
ボソリと呟かれた言葉に、
「意味も無く、何度も同じ事を言うものでしょうか?」
微笑みながら聞き返せば、グッと息を飲み込みどこか申し訳なさそうに
「ディランを見たお父様がそう評価したんだ」
小さな声で告げられた言葉に驚き、
「辺境伯様が僕の事を仰ったのですか?」
思わず零してしまった言葉に、
「その時はどうして子犬なんだと思ったけど、話して分かった。お前、真面目すぎるんだよ」
ようやく目が合い、互いの顔を見ながら
「そうでなければ、守りたい人を守れません」
こぼした言葉に、
「まぁ、特殊な立場だから仕方ないにしても、気負い過ぎだと思うぞ」
先程までの態度が嘘の様に真剣に話を聞いてくれる事に内心驚きながらも、嬉しく思い
「思いもよらない行動に突拍子の無い発案など、何が起こっても冷静に対応し印象を良く見せるには有効手段だと思っております」
ほんの少しだけ心の奥底にある扉が開くが分かり、心内を言葉に出せば、
「王都なら何か起こったらすぐに対応が必要だがここは辺境だぞ。王都への報告も数日かかる場所だ。
そんなに気を張らなくても良いんじゃないか?」
先程会いまだ1時間も経っていない浅い関係の自分の事を心配してくれる人物に、ありがたく思うも、
「たとえ辺境の国境と言えども眼は着いて来ておりますので油断はできません」
周りにある木々に身を隠し今も監視をされている事を告げれば、目を見開き慌て首を左右に動かし周りを見渡すが、
「眼はお前にも付いているのかよ!」
驚き大きな声ににっこり笑い
「ええ。見た事はありませんが王都から着かず離れずで着いて来ています」
道中何があっても着いてくるだけで手出しはなかった。
その忠誠は王家のみ。そして指示が出せるのは陛下だけ。
やるせない気持ちになるも、これも姉様を守る為だと幼い頃に納得したので今は気にはならない。
「僕と付き合うという事は、全て王家と高位貴族である陛下の側近に知られるという事です」
意識的にゆっくりと言葉告げ、わざと一呼吸の間を開け
「そのお覚悟はございますか?」
真っ直ぐと瞬きなどせず問う。
姉程、緻密には報告をされてはいないが、全て見られているのだ。
知れても恥ずかしい思いをする事が無い様に気を配り、行動と発言に気を配るのは自分の心情を守る為でもある。
そんな僕と友達になると、どういう事になるのかを理解して貰えたと思う。
互いに真っ直ぐと目を合わし続ける中、ゆっくりと唇が動き
「馬鹿にするなよ。俺だって王家の一員だ。知られて困ることなど何1つ無い」
目尻を上げ、意志強く告げられた言葉に嬉しくなり、
「そうでございましたね。大変失礼をいたしました」
少し揶揄を含め詫びをすると、
「思ってねぇ事を言ってんじゃねぇよ」
意地悪そうに笑いながら返してきた言葉に、嬉しさが湧き上がる。
利害無しの友達ができるとは想像もしていなかったし、そんな関係は貴族間ではあり得ないと思っていた。
「よろしければ、こちらのクグロフはいかがですか?自領で流行の菓子でございます」
緩みそうになる口元と頬を誤魔化す様にティーフードを薦めると、
「話は聞いていて食べれるのを楽しみにしていたんだ」
ありがとうな。
遠慮無く伸ばされた手で掴み、大きな口を開け豪快に食べる姿に準備中の苦労が報われた気がし、温かい紅茶を飲み心を落ち着ける。
「旨いな」
指についたバターを舐め取りながらの言葉に、
「中に干した果実と木の実が入っていますので、食感の違いと噛む程に小麦の甘みとバターの塩味が合わさり合い、さらに木の実独自の味が加わり、また違う場所を食せば干した果実の甘さと味が加わるのでご婦人を始め女性には人気をいただいております」
当家でも人気のお菓子なのです。
嬉しそうに食べる姉様を思い出し、つい、
「こちらも人気の菓子でして、先程は甘味のある菓子でしたがこちらは塩味がある菓子でショートブレットと言います」
彼にも食べて欲しくなり進めてみると、先程同様手を伸ばし食べてくれ、
「これも良いな」
水分が少ないショートブレッドは口の中で入れるとほろりと崩れ、数回噛んだのち紅茶飲み流し込むのが美味しく、何個も食べれてします1品だ。
これも姉様が気に入り紅茶にミルクを入れた後に食べている。
なんでも、甘い塩っぱいの繰り返しが良いのだとか。
姉様は本当に食べ物を美味しく食べることができるので使用人達にも人気だ。
彼も少しそんな所が似ているかもしれない。
気に入ったのか次々に手を伸ばし食べていくフードを足す様にフレディに視線で指示を出せば目礼で返事を返され、近くに控えていたメイドに指示を出し紅茶のお代わりを作り、足しに来てくれた。
黙々と食べ紅茶を飲む姿を眺めていると、視線に気が付いたのか動きを止め、
「1人で食べて悪かったな」
視線を逸らしながら告げられた言葉に、
「お気になさらず。まだございますのでご遠慮なくお食べください」
小さく笑ながら告げれば、
「あれは有難いんだが、良かったら手合わせやらないか」
意外な発案だったがお祖父様からの提案もあり、もしかしかしたらと準備を整えてはいたのですぐ様、
「僕で宜しければ、是非お願いいたします」
頷き返すと、同じタイミングで椅子から立ち上がりそれぞれの従者を連れ練習場へと向かった。
互いに上衣を脱ぎ、シャツを腕捲りし手渡された練習用の剣を握り撃ち合いを始める。
剣が振るえなかった時間もあった為が、負け続けてしまし悔しい思いもするが同年代で遠慮無く打ち合った事が嬉しくなぜかすっきりとした気分になり、粗い息を整えていれば、
「ディラン。長い付き合いになるんだ遠慮無く名前を呼んでくれ」
息1つ乱していない相手の言葉に、重い体を動かし身なりと体制を整え、
「有難いお言葉。ではザッカリー様と呼ばせていただきます」
胸に手を当て貴族の礼で返すと、
「様はいらねぇが、ディランだから仕方ないか」
これからよろしくな。
笑顔で差し出された手を握り返し、お茶会は終了を迎え見送り時に
「じゃ、明後日の同じ時間位に邪魔するからよろしくな」
手を上げながら言われた言葉に驚きつつも、すぐに会える嬉しさが混ざり、
「はい、お待ちしております」
笑顔で頷き返し別れを告げた。
第80話
間も無く今年も終わりを迎えようとしておりますね。1年あっという間な感覚です
ブッマークや評価をいただきありがとうございます。嬉しく思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤まじかのディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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