姉、領へ
飴色の扉を開けると、パンに焼けた
甘い匂いがし、視線を部屋の真ん中に
向ければ、ディランが立っており、
「姉様、おはようございます」
大きく表情は変わらないものの、
ディランの微笑みながらの挨拶に
「おはよう、ディラン」
笑顔で挨拶を返せば、差し出された
手を取り数歩のみだがテーブルに向かう
為のエスコートをしてくれ、椅子まで
引いてくれる。
一時期は無かったとはいえ、ディランが
跡取りとして教育を習い始めると同時に
始まったエスコートは互いと給餌をして
くれるフレディも壁側に控えている
マルチダも慣れたもので、
暖かく見守ってくれる中、
「いただきます」
「いただきます」
ディランの食事の挨拶と同時に自分も
声に出し、ナイフとフォークを手に取った。
この世界の風習ではない食事の挨拶も
何年も毎日続ければ習慣となり、
今や誰も疑問を口にする人はいない。
「エスメ様ですから」
この一言で働く皆は納得できるらしく、
幼い事は不思議に思い首傾げたのを
思い出したが、
「お祖父様、お祖母様によろしく
お伝えください」
「勿論よ。ディランがしっかりと
学生生活を送り生徒会役員として
働いている事も伝えてくるからね」
食事を終え、いつもより短い
ティータイムを楽しみ、
自室に戻り、出かける準備終えた
所でディランからの言葉に、
笑顔で頷き返事を返すと、
「エスメ様、こちらを」
手渡された紙袋の中を覗くと、
甘い香りがし
「手土産に渡して欲しい。伝言を
受け取っております」
付け加えられたフレディの言葉に
お母様からお祖母様への手土産ね。
前の人生で私も良くやったわ。
そんなことを思い出しつつ、
「確かに受けとりました。と
お母様とお父様に伝えて」
手渡すと約束をフレディに伝えると
胸に手を当て
「かしこまりました」
従者としての礼をもらい、
「そろそろ、行きますか」
「行ってらっしゃい」
「気をつけて」
この言葉の後、ディランやフレディは
壁側へと移動し見守る体制を取って
くれた。
いつも置いているソファにテーブル。
仕事用の机も椅子に本や本棚すら
部屋になくて、
朝食中に皆が総出で私が危なく無い
様にとディランの指示で移動させて
くれたらしく、
何もない自室の真ん中に立ち、
瞼を閉じ、深呼吸をする。
意識を集中させ、頭の中に浮かべるのは
領にある屋敷の自室。
深呼吸を繰り返し、心を落ち着けると
周辺の音が消え、足の裏にあった絨毯
の感覚がなくなり、少しの浮遊感。
気がついたら、王都にある屋敷の自室
ではなく、ベットにシーツがかけられ、
使っていた机もあり、
「着いた、かな?」
王都とは違い休日の様にゆっくりと
穏やかに流れる空気を懐かしく感じ、
周囲と伺い、手に持っている土産が
無事か確認したのち、
ドアノブを握り、開けると
「お帰りなさい」
嬉しそうに微笑んでくれたお祖母様と
「無事で何よりだ」
安堵の色を濃く出したお祖父様に
「ただいま帰りました」
ワンビースのスカートの部分を摘み
カテーシーと共に挨拶をするし、
無事に到着したのだと、安堵の息が
体の中に落ちた。




