姉、願う
晩餐を終え食後のお茶をいただく
為にソファに移動する時に、再び
ディランがエスコートの手を差し
伸べてくれたので、
その手を掴み、勢い良く抱きついた。
自分の中でも上位に入るぐらい勢い良く
抱きついたにも関わらず、ディランは
反動で体を少し揺らし、驚きの気配と
息を呑む音が聞こえたのみで、
「逞しくなって」
嬉しい反面、少し残念な気持ちに
なりつつ率直に思った事を言葉に
出すと、
「剣術の成果が出てなによりです」
安堵の息と共に頭上から溢れた言葉に
力を込め抱きしめると、
「姉様」
呆れ、困惑、諦め、
様々な感情が混ざり込んだ声で呼ばれた
ものの、聞こえないフリをしディランを
堪能する。
細身に見えていたがしっかりと筋肉が
ついている様で固いし、知らない間に
自分の頭2つ程、身長も伸びている。
成長を喜ぶ自分の中に、
幼い頃の柔らかさが恋しく寂しくも
あり、
ディランの体に額をすりつける。
されるままでいるディランに甘え、
ていると、背中に刺さる視線に
気づいたものの、無視を決め込んで
いると、
ワザとらしい咳払いが聞こえ、
それすら無視をすると、ゆるりを
背中を撫ぜられ、
「姉様」
諌めるように呼ばれ、
「フレディなんてほっとけばいいのよ」
拗ねていますとワザと声と雰囲気に出し
返事をするも、
「マルチダが準備した紅茶が
冷めてしまいますよ」
諌める様に言うディランに渋々と
表情を作りワザとゆっくりと離れ、
困ったように眉を下げているディランに
申し訳ない気持ちがじんわりと生まれ、
「うん。そうね」
再びエスコートにと差し出された手を取り
数歩歩きソファに座ると、ディランが
横に腰掛けてくれた。
この1ヶ月の出来事などなかった様に
自分の為に動いてく気配りをくれる
ディランに、
1ヶ月間の事を覚えているか?
聞きたい気持ちはある。
でも、それでディランを傷つけ悲し
ませる事になるかも知れないと思うと、
何も無かったフリをし方が良い。
その意図は声に出さなくても、
視線でお願いをしなくても、
フレディとマルチダに伝わった様で、
そこから屋敷で働く皆に伝わり、
最後はお母様とお父様に伝わる。
これで良い。
ディランの急激な変化が受け入れられず
情けなく立ち回ってしまったけれど、
落ち着いたならば
もう大丈夫だろう。
お互い腕が動いても当たらない最低限の
距離を取りながらも、隣同士で座り
美味しい紅茶をいただく。
「幸せだな」
こぼれ落ちた言葉にディランが微笑みを
深くしたことが空気で伝わり、
明日も明後日も
これから先もずっとこうであれば良いな。
そう願い、紅茶をひと口飲んだ。




