母は動きだす。
「さぁ、母親として頑張らないとね」
自分と専属メイドしかいない馬車の
中で気合いを入れ直す。
気持ちではなく、身に纏っている
ドレスも手土産の焼き菓子も上等な
物を選び身に付けた。
それは、自分の武器を身につけ
今から戦いの場へ乗り込む為。
エスメが殿下をはじめ方々に
水の魔術を発動させてしまった。
エスメが言うには甘くて濃厚な臭いが
強くなり気分が悪くなり、
それを払いたかった。
との話だったが、
エスメの水をかぶったディランは
匂いの事に全く気が付かなかった。
と発言をしている。
同じくディランとエスメの両方の
態度を見ていたフレディに尋ねても
匂いに気づきませんでした。
との返答を貰ってる。
だからと言ってエスメが嘘をついている
と判断をするにはいささか材料が不足し
ている。
だが、高位貴族の跡取りの方々に
魔術と発動させた事には変わりはない。
昨日の国王様より
様子を見る。
と不問に近い返答を貰ったものの
何もしない。
と言う訳にはいかず、
今日はエスメの水をかぶった子息の
母親達のお茶会に参加をする。
恒例となりつつあったお茶会も
今日ばかりは違う。
謝罪と少しでも弁解をでき、
エスメの印象の回復ができたら。
馬車が止まり、目的の場所についた
事を知り、大きく深呼吸をする。
コルセットがあるので深く呼吸は
できないけれど、やったと自分に
言い聞かせ、瞼を閉じ意識を集中させ
他のち、
「行くわよ」
お付きの役で一緒に来てくれたメイドに
声をかけ、外へ出た。
綺麗に整えられた薔薇園と主催者である
宰相様のご婦人に微笑みと共に
歓迎の挨拶を受けた後、他愛のない
お喋りを楽しんでいると、1人、また1人
と最上位のご婦人が到着し一つのテーブルに
腰を下ろす
気品を極め優雅に振る舞う事を義務つけ
られたお夫人達に負けぬ様に、身に付けた
マナーと知識を駆使して話について行き、
時に振られた話の返事を返す。
思考をフル回転させ、頭の先からつま先
まで力と真剣を生きわたわせ、
「そう言えば、行動がおかしかった
うちの息子が、何があったのか、
水をかけたれてから目が覚めた様でね」
クスクスと無邪気に見える様に笑いながら
の王妃様の言葉に、
「あら、息子もそうですのよ。
女の子に水をかけられて目を覚ます。
物語の様ですわね」
こちらも楽しそうに目を輝かせ少女の
様に告げる宰相様の奥様に
「ええ。愚息もですわ。
良い刺激になったようで、あれから
稽古に勤しんでいるのよ」
は、騎士団長の奥様
「まぁ、うちの息子も刺激的な体験
だったようで今まで以上に魔術に
のめり込んでいておりますの」
ほほほ。笑った魔術省長の奥様。
上部だけ見れば、皆様寛容に事態を
受け入れていただいている。
そう受け取れるが、
心の憶測は違うかもしれない。
お腹に力を入れ、どう返事を返す
のが正しいのかを考え、答えが
出ないまま唇を動かした。
「その節は、大変申し訳ございません」
まずは謝罪と判断し頭を下げつつ
言葉を紡ぐと、
「受け取りました」
王妃様の言葉に瞼の奥が熱くなる
「わたくし達はありがたく思っている」
お顔を上げてちょうだい。
続けて言葉をくださった王妃様の
言葉に従い顔を上げると、
皆さまからは優しげな微笑みを
向けられていた。




