姉、空を飛ぶ
昨日の晩餐事、お祖父様からの一言を告げられてから、どれだけ次の日は早くくればと良いと願った事はない。
ランドリー仕事も普段より手早く終わらせ小走りにディランの部屋へ向かう。
途中掃除をしているメイドに挨拶をすると少し驚いた表情の後、微笑ましそうに笑顔で挨拶を返してくれるのが嬉しくて更に心が弾んでノックの音は普段より早く大きかったのか
「おはようございます」
フレディが苦笑しながら挨拶をディランへの取り次ぎをしてくれ、
「姉様、おはようございます」
少し眉間に皺を寄せているが、それより自分が話たい気持ちが先走り、
「ディラン、外に行く準備はできてる?」
立って迎えてくれたディランの手を掴み外へ連れて行こうとするも動く事は無く、
「落ち着いてください」
逆に引っ張られソファに座らされ、
「もう。こんなことしてる場合じゃないのよ」
やりたい事を引き止められ少し心が乱れ口先を尖らせ言えば、
「空を飛ぶのはもう少し後です。今、庭師や騎士団が庭の調整や警備体制などの確認をしております」
握った手を逆に握り返され、
「姉様のお気持ちは痛い程解ります。ですが、庭師も騎士団初めての事です。もう少し準備の時間を上げて下さい」
落ち着くようにゆっくりと少し低い声で告げられた言葉に王都屋敷の事を思い出し、頷いた。
思い出せば王都の屋敷でも庭師のお爺さんが木の剪定に気をつけてくれ、空を飛べば騎士団長を始め数人が下からお追いかけて落ちた時の対応に出れるようにしてくれていた。
自分1人で行う事で複数人の協力が必要となる。
自分の失敗や怪我はディランや両親や祖父母だけではなく屋敷で働く物達や領民にも影響が出てしまう。
「ごめんなさい」
いかに自分が考えが足らなかったかに気付き誤りを言葉にすれば
「楽しみにしていた事がようやく出来る様になるのです。気持が早るのは仕方ありません」
握られていた手を包み込まれ、柔らかな笑みで言われ
嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ない気持がごちゃ混ぜになり、
「お姉ちゃんは私の弟がこんなに良い子なのだと街の中心か王都の中心で叫びたい気持よ」
何か叫び出したくなる気持ちを誤魔化す様に溢すと、
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきますね」
にっこりと笑われするりと流されてしまい、さりげなく置かれている紅茶を飲み干し音も無くソーサーにカップを置くとフレディか新しい紅茶を淹れてくれ
「ありがとう」
フレディと目を合わせお礼を告げると
「リラックスできる茶葉を選んでみましたのでお口に合えば幸いです」
従者の笑みと言葉に淑女として微笑み香りを楽しんだ後、ゆっくりと1口飲み
「果実の様なとても良い香りでとても飲みやすいわ」
お祖母様のとのお茶会にて教えて貰った様に、指先まで力を入れ神経を通し穏やかに見える様に微笑み、
再び紅茶に口を付けているとノックの音が聞こえカップをソーサーに戻す。
「ディラン様、エスメ様、準備が整ったとのことです」
フレディの一言に、勢い良く立ち上がりディランの顔を見れば、少し困った様に微笑み
「姉様」
手を差し伸べながら呼ばれたので、頷きディランの左腕に右手を乗せエスコートしてもらう。
初めて自領で、久しぶりに箒に乗って空を飛べる。
お祖父様とお祖母様に空を飛ぶ魔法のお披露目も兼ねている。
今日はいつもと違い少し緊張しながらも、これから、自由に自分が飛びたい時に、思い切り飛んで良い事への嬉しさが大きくつい歩幅が大きくなるもディランに調節され、いつもの速度で歩き庭へと出る。
普段はディランの剣術の相手をしてくれている騎士達とお祖父様お祖母様が待っており、
「お待たせし申し訳ありません」
ディランの言葉と礼に一緒にカーテシーをしお祖父様の許可で2人同時に顔を上げれば、
「早速で悪いがエスメの魔法を見せて欲しい」
挨拶の言葉が無くいきなり告げられた言葉に頷き、すぐそばで待機をしていたフレディから箒を受け取り用意された場所へ移動した。
いつもの様に片足を上げ箒に跨る。
大きく深呼吸し高揚する気持ちを落ち付け、箒を握る両手に力を入れ、
そよ風ほどの弱さの風魔法を発動させ、少しづつ強くしていくとふんわりと太ももの辺りに何かが掠めるも、
気にせず風魔法を足元から空へと流れを上げ、同時に左右から自分に向かって吹かせる。
ゆっくりと上がる視界。
1階の窓ガラスを越えようとしたその時
「奥様!」
したから聞こえた悲鳴の様な声に驚き顔を向けると、お祖母様がお祖父様の支えられている姿に慌て下へおり様とするも上手くいかず焦り出すも、
「姉様、落ち着いてください」
ディランの声に慌て視線を向けると
「お祖母様にはお祖父様がついております。姉様、時間がかかっても大丈夫ですのでゆっくり降りてきてください」
慌てる事なく、普段と変わらないディランの姿に焦る気持が消えさり、いつも通りに風魔法を操り地上に降り箒片手にお祖母様の元へ小走りに駆け寄れば、
「エスメ、申し訳ないが今日はここまでだ」
お祖父様の腕の中で目を瞑りぐったりしているお祖母様の姿に血の気が引きながら
「はい」
頷き返事を返すと
「楽しみにしていたのに悪いな」
空いている手でさらりと頭を撫ぜてくれるとお祖母様を抱き抱え屋敷の中へと大股で向かって行った。
お祖母様が倒れた。
私の魔法を見て気を失った。
現状が受け止めきれず呆然をする中、
「姉様」
いつの間にか横に立ち見上げながら呼びかけてくれたディランに返事ができずにいると、
「大丈夫です。すぐに医者が到着して診断してくれますから」
小さな手が自分の手を握り優しさと落ち着きを分け与えてくれる様だった。
第71話
飛べませんでした。
朝夕は寒いのですが日中が暖かく時には暑く服装が難しいですね。
ブックマークや評価をいただき誠にありがとうございます。とても嬉しいです。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。よろしければお読みください。
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