姉、思案する
不思議な事に数日ディランの様子を
観察すると、朝は幼い頃からの心穏やか
なディランで、
学園から帰る馬車の中では、
疲れているのか、機嫌が悪いのか
どこか尖った感じに
反抗期
思春期
様々な表現はあるものの、主に
体や精神の変化が今の自分の噛み合わず、
戸惑い、困惑などで感情が大きく揺さ
ぶられながらも、経験と体験を通して
己の精神的な成長を行なっていく。
大切で大事な時期。
自分は過度な接触は避け、見守る体制を
取るのが良い事は分かっている。
でも、
「何だろう? 違う気がするんだよねぇ」
学園から戻り屋敷で制服から着替えて
いる今、
自分を写している鏡をぼんやり見ながら
言葉を溢す。
朝は普段通りだけど、
学園終わり馬車の中では、どこか壁が
ある様な、自分の存在やディランの
様子を伺うフレディの態度が煩わしいと
表立って表す。
だからと言って紳士では無いかと言うと
そうではない。
馬車の乗り降りの時に手を差し伸べて
くれる。
当たり前と言えば紳士として貴族籍を
持つ者と、時期当主として
当たり前。
なのだけど、
今日、馬車から降りる際にディランの
手を握り込み、疲れているのかもと
光の魔術をかけると、
何かに気づいた様に顔を上げた後、
周囲を見渡すように首を動かした。
まるで自分がどこに居るのかが分かって
いない様な動きに、首を傾げ
「ディラン、どうしたの?」
名前び尋ねると、困惑した様に眉を
少し下げ
「いえ、何でもありません」
ゆるりと首を振り返事をくれたが、
どう見ても、学園で何かあった。
考え込み、意識がそちらへと集中する
何かが。
「聞いたら、話してくれるかな?」
できれば本人から教えて欲しいけれど、
アメリアのお茶の時に聞こうかな。
本来ならばマリーの教育の一環で行われる
が、
もし、アメリアが許してくれるならば、
教室でのディランの事を聞いてみよう。
成長することは喜ばしい事だけど、
「心配なだぁ」
重い息と溢れた言葉に髪を漉いて
整えてくれているマルチダは
自分に気を遣って黙って
聞いてくれていた。
この後、フレディが部屋に呼びに来て、
3人でディランの部屋に移動し、
フレディか入れてくれたハーブティーと
共にキャロットケーキを食べつつ、
「新しいクラスはどう?」
さりげなく尋ねると
「いつもと変わりません。不甲斐ない
僕を皆様に助けていただいております」
返ってくる言葉はいつもと同じなので、
「そうなのね。ディランは何をお友達に
助けて貰っているの?」
同じ様に尋ねる。
「そうですね。淑女の皆さんと
話をしている時など、どう切り上げて
良いのか見極められず」
講義で分からない箇所があった。
生徒会の事で立ち回りが上手くできなかった。
など、ある中の1つで聞き慣れた話題で
はあったものの、
「そう。それは特定な方かしら?」
今日は深く聞けば、今日の出来事を思い
出している様で視線が斜め上に向けられ
「そう、ですね」
頷いた言葉と共にひどく甘い匂いがし
た様な気がし、慌て周りを見渡すも
匂いの元となるものはな無く、
「姉様?」
不思議そうに首を傾げたディランの
言葉と、控えていた壁側から慌て
自分達の元にやってきたフレディと
マルチダが視線や態度で
どうしたのだと
尋ねてきたので、
「ひどく甘い匂いがしたのだけど」
戸惑いつつ返事を返すとディランは
立ち上がりフレディとマルチダも周囲を
見渡す。
何だろう?
少し嗅いだ、だけで
濃密で
粘着が強い
甘い匂い
拒否し追い出すようにフレディが淹れて
くれたハーブティーの匂いを嗅いで
記憶から消し
「姉様、大丈夫ですか」
周囲の警戒をしつつ、自分を心配し
てくれるディランに癒されつつ、
「ありがとう。もう大丈夫」
笑顔で返事をすると、ディランだけではなく
フレディもマルチダも安堵の息を溢し
「何か異変を感じたら、遠慮なくすぐに
教えてくださいね」
心配げに見下ろしてくるフレディの言葉に
頷き返し、同じ様に警戒し心配をしてくれる
マルチダに
「マルチダもありがとう」
お礼を伝えると、
「いえ。ご無事で何よりです」
心配の色を宿した瞳と言葉に微笑み、
この急な出来事を、どう対応すれば良いのか
分からず
だからと言ってフレディとマルチダを部屋から
出すのは選択間違いだと分かった。




