姉、言葉を呑み込む
朝のクラスメイトのぎこちなさと
本人では無い出来事の噂が気になり
つつも
尋ねたら、詳しく教えてくれるかしら?
日常となった昼食後の散歩をしながら
マリーの様子を視線だけで伺うと、
気持ちよさそうにしているものの、
どこか元気がない様に見え
ルイに視線を送ると、
見守れ
そう告げられ、何処か違和感が漂う
教室に戻り午後からの講義を受ける。
教授の話を聞き、ノートに書き写して
行くが、
社交時期に何かあったのか?
王城での淑女教育に魔術の練習と
家として過ごしている教会の仕事のみで
社交をしていないと言ったマリーに
何があったのか?
分からないまま、頭の片隅で考えつつ
午後の講義を全て終わらせ、帰る
クラスメイトに挨拶をしながら、
ある程度の時間を教室で調整したのち
行き慣れた奥にある教室に3人で向かい
ルイの3回のノックの後、入室許可の
声がかかり、マリーを先頭に入り
「アメリア様、お久しぶりでございます」
両手でスカートを少し摘みカーテシーで
挨拶を行うマリーの斜め後ろで腰を折り
メイドをして礼をする。
久しぶりの礼儀も懐かしく思いつつ
「久しぶりですわね。マリーさん」
さ、顔を上げてちょうだい。
アメリアの挨拶の後に言葉に従い
折っていた腰を上げアメリアの見ると
優雅に微笑んでおり、
淑女教育が始まるのだと、
心が引き締まった。
マリーも同様だったようで、
足の先から指の先、全身に力を入れ
アメリアの元へ歩いて行き、
「ご指導、よろしくお願いいたします」
緊張を孕んだ声に、アメリアは品良く
優雅に微笑んだ。
久しぶりの淑女教育は復習も兼ねた
動きを中心に進められ、
そろそろ終わりそう。
2人の雰囲気からそう察するっと、
アメリアから視線を送られたので
紅茶を淹れる為の準備とフードの
準備を行う。
紅茶と共に他愛のない話を楽しむ時間
この時間も教育の一部ではあるものの
楽しみにしている事には変わりは無くて
蜂蜜たっぷりの紅茶を淹れ、ルイが
テーブルと椅子を準備していのが終わる
頃を見計らってティーフードを持って行き
その後、紅茶を運び
4人が着席したのち、
「エスメさん、ルイさん、久しぶりね」
「久しぶりだね」
アメリアの言葉に、頷きと共に返事を返し
お茶の時間が始まった。
「社交時期はどう過ごしてましたの?」
アメリアの問いかけから始まり、
マリーは王城での教育と教会で子供達と過ごし
ルイは寮で勉強をしたり、寮で知り合った人達
と街に出たりと充実していた様で
初めて聞く話に相槌を打ったり、驚いたり
していると、自分の番になり
「ディランと正装に見惚れたり、
お茶したり話したり、晩餐の料理や準備を
手伝ったりして過ごしてたわ」
いつもの休日とは違う過ごし方を話したものの
「相変わらず弟さんの事がお好きなのね」
微笑ましそうに感想をくれたアメリアに
「ええ。大好きよ」
即答で返事を返す。
そんな自分にマリーとアメリアは柔らかく
笑ってくれ、ルイは呆れつつも何も言わなかった。
そして、アメリアの番になると、
デビューはしていないが、主催するお茶会に
招待を受けるお茶会。
両親と共に出る夜会に晩餐。
それに伴い準備。
王城での王妃となる為の教育に
教会の奉仕
貴族のお嬢様って大変。
真っ先にそんな感想を持つほどに多忙に
過ごしており、何より、当たり前の過ごし方
なのだと言葉から分かるアメリアの日常に
つい手が伸び、頭を撫ぜる。
アメリアが忙しさに体を壊しませんように。
そんな願いを込め数度、撫ぜていると
アメリアのカップに紅茶が少なくなっており
口直しに何も入れていない紅茶を淹れるため
撫ぜていた手を引っ込め、席を立った。
手早く全員分の紅茶をカップに注ぎ、
席に座ると、
「そういえば、こんな噂を聞きましたのよ」
アメリアの言葉に首を傾げつつ聞くと
「社交に出ていないマリーさんが夜会に
晩餐の会場で、男子生徒と楽しまれている」
朝、教室でクラスメイトに聞いた言葉に
驚きを隠せないでいると、
「身に覚えはありまして?」
視線と言葉を強め尋ねるアメリアに
マリーはゆるりと首を振り
「ございません。招待をされておりません」
きっぱりと否定した言葉に、
「存じ上げておりますわ」
しっかりと頷き返事をしたアメリアの
意図がわからず黙っていると、
「マリーさんと良く似た髪の色の女生徒
の行動が誤解を生みマリーさんの行動だと
広まっている様で」
カップから手をはなし真剣な表情で
言葉を紡ぐアメリアに同じ様の表情で3人
で聞いていると
「誰が何処で。と言うのは詮索しませんわ。
ですが、覚えておいて」
ゆっくりと言い聞かせる様に紡がれ
「人は善だけでは無いの。様々感情と考え
の中で生きている。
故に、嘘偽りの話が広がる事もあるわ」
切れた言葉の後、スッと目を細め
「何を言われても、感情に振り回されない
事を心掛けなさい。
貶されても、褒められても」
重みを感じるアメリアの言葉にマリーは
深く頷き、
「練習します」
返事を返し、ルイも思う事があるのか
真剣な表情でアメリアを見ており
私も気をつけよう。
心に留め、固くなった体をほぐす為に
細く深呼吸をした。




