報告を問われる
静かに寝息を立てる少女を見つめた
就寝をしたのだと確認した後、音を
立てないように部屋から出て、先程
まで居た部屋に戻る。
飴色の扉を2回ノックすると、
先程まで楽しそうに話していた人物と
同じ声で入室する様に指示が入り
「失礼いたします」
この屋敷の御息女に使えるよう拝命
した時に習った礼をすると、
「頭を上げてくれ」
ゆっくりと顔を上げ現国王は人の良さ
を感じ取る微笑みをしており、
「座ってくれ」
先程、御息女が座っていソファに
座るように言葉と視線で促され
指示されたまま腰を下ろす。
「最近はどうだ?」
いきなりの本題だが時間を考えれば
深夜でありつつも密命の報告をする
為の時間なのでありがたく思いつつ
「ご覧いただいたように、
変わりはありません」
自分が国王より専属メイドとして
御息女であるエスメ様の監視をする
様に命を受け10年以上
エスメ様は幼い事より様々な体験をし
歳を重ね沢山に人々と出会い知識と習い
経験をし
今では高位貴族の淑女としてのマナーと
王城で通用する程で、寸分の隙もない
身のこなしで行う事ができる。
話を聞けば領で出会ったミランダ様
から教わったと返ってきた初日に
嬉しそうに笑いながら教えてくれた。
「報告書で知ってはいたが完璧な
マナーだったが、経験不足なのが
悔やまれるな」
朗らかに笑いながらの言葉に表情を
変える事も頷くこともせずにいれば
「アレ以来何か変化はあったか?」
国王の言葉は1ヶ月ほど前にあった
記憶をなくしていた2日間の事。
実質記憶がないのは1日の様だが
異変があた日を含めた日にちで
記した為、の2日間。
「ございません。よく食べよく話し
よく笑いよく寝ております」
貴族籍のない御息女は平民の地位
高位貴族の様な緻密な日々を過ごす訳
はなく自分が考え思いついたままに
過ごす。
「そうか。君がそういうのなら、
そうなのだろう」
ゆるりと足を組み替えた動きに
心拍が乱れたが、気付かれぬ様に
細く息を吐き、乱れた心音を落ち着かせ
「しかし、あの子の考える発明と良い
料理と良い、どこで思いつくのだろうね」
探る様でどこか面白いと表す視線と
表情に、心の中でため息を落とし
「沢山の書籍を読んでおりますので
それを参考にした思い付きの様です」
領に居る以外は誰よりも近くで見て
きたので何かについて考えに考えて
というより、
思い付きで動いているだけだと言い
切られる。
その後、ご子息であるディラン様や
従者のフレディが纏めて考えて商品に
している。
この流れは、御息女が箒に跨り頭を
打った日から変わらない。
全てはあの日から始まっている。
「閃きね。箒に跨った日からそうだが、
ルーズヴェルト一族の柔軟さと懐の
大きさにいつも驚かされるよ」
こればかりは同意しかないので頷き
返す。
御息女が箒に跨り空頭を打ちその
数日後には宙に浮いたのだ。
最初が衝撃が強すぎて次に閃いた
魔法石を埋め込ん魔力を利用した
ティーカップなんて些細な事だった。
この屋敷で勤める以上、御息女の行動
には慣れるしか無いのだ。
自分の常識や固定観念など早々に壊され
戸惑い、数度見たら
まぁ、御息女様だからね。
と、諦めなのか、認めなのか、放棄のか
人ぞれぞれだが、
働いている皆が少しでも楽になるなら。
御息女の人柄と恩恵を受けているのは
間違い無く自分達である事も理解できる
ので、
皆、寛容に受け入れている。
中には次は何を作るのだろうと、
心を躍らせな待っている使用人が多く
いるのも知っている。
「凡人である俺には分からない事だな」
国王の言葉に返事を返そうと唇を
動かそうとするも耳に届いた2回の
ノック音に立ち上がり国王の許可が
下りた後、扉を開けると
「迎えに参りました」
礼をした宰相様の言葉に国王は
微笑みソファから立ち上がり部屋から
出るのを頭を下げ通り過ぎるのを
待つも
「引き続き、頼むぞ」
頭の上から降ってきた命に
「かしこまりました」
頭を上げる事なく返答し遠くなって
いく気配を感じ、姿が見えなくなった頃
曲げていた腰を上げ、
瞼を閉じ、重い息を吐き出したのち
ゆっくりと瞼を上げ誰にも会っていない
のだと自分に言い聞かせ、部屋から出た。




