姉、季節を感じる
気がつけばミモザの時期が終わり
薔薇の季節が始まり出しており、
朝の報告書と手紙を書き終え、
マルチダを迎え入れ身なりを整え
フレディが迎え後を付いて行き
ディランの部屋に入ると、
ふんわりと薔薇の匂いがし、
挨拶後に視線で探すと
「今年1番の薔薇です」
ディランの言葉にテーブルの中心に
置かれた真紅の薔薇はふっくらと
膨らんだ蕾が解れ、花を咲かそうと
していた。
「もう、薔薇の季節なのね」
焼きたての白パンを手で千切り
正面に座るディランに話しかけると
「はい、それと同時に社交界の季節に
なります」
そして、社交界の時期が終われば
最後の学園生活が始まる。
「姉様には夜、お一人で過ごして
いただくことになる日もありますが、
屋敷の警護は万全にしますので、
ご安心ください」
「大丈夫よ。また、どんな感じだったか
教えてね」
王家主催の舞踏会は貴族籍を持つ家が
参加する。
流行りのドレスの形は勿論、来年に
流行りになる生地や色に柄。
食に、新しく何かを始めた貴族の話
農産物の出来高など、聞いていて
興味は深まるばかりで、それを
知っているディランは
「はい。しっかり見聞きてきますね」
微笑んで頷いてくれた。
多分、ディラン自身も誰かの
話を聞くのが好きなのだと思っている。
「あ、行く前にどんな格好か見せてね。
約束よ」
舞踏会や晩餐会は礼服で参加する。
中々見ることができないディランの
礼服を見る機会を逃す事が無い様に
お願いをすると、
「かしこまりました」
毎年の事なので約束してくれ、
「今年は去年より身長も高くなって
体つきもしっかりしてきたから、
楽しみだわ」
去年のディランの礼服の姿を思い出し
幸せな気分に浸っていると、
「ご期待に逸れられると良いのですが」
少し恥ずかしそうに告げたディランの
言葉に、
「楽しみにしてるわ」
大きくなっても可愛さが増している
ディランに微笑み返し、食事を終え
紅茶を飲む為にソファへ移動する。
「姉様、先程の話の続きですが」
紅茶を飲みながらの言葉に頷きで
返すと、
「我が家で晩餐会を数回行う予定です。
人の出入りが多くなり、騒がしく
なりますがお許しください」
ディランの言葉に、去年の事を思い出し
つつ
「ええ、部屋から出ない様にするし、
何かあればマルチダに託けるから
大丈夫よ」
毎年、ディランから直接お願いされ、
手紙や事付けでお父様やお母様からの
お願いでもあるので、しっかり守ように
している。
「心苦しいのですが、出入りが多いと
安全面も脆くなります。どうぞ
その事を心にお止めください」
ディランの言葉にしっかり頷き、
学園に向かう為にソファから立ちがった。




