姉、成長を実感する
厚い雲が空を覆い冷たい空気が頬を掠め身を震わせる。
「姉様、大丈夫ですか?」
エスコートの為に掴んでいた腕から振動が伝わったのか心配そうに見上げてくる姿に微笑みながら
「大丈夫よ」
言葉と共に風で乱れてしまった髪を元の位置に戻し前を歩いているお祖父様とお祖母様に置いて行かれない様に歩いて行く。
普段よりゆっくりと小さな歩幅で歩いくれているので置いていかれる事も無く2人の背中を見つつ着いて行くと一軒のお店の扉をお祖父様が開けお祖母様が嬉しそうに入って中へと入った。
「ほら、お前達も入れ」
お祖父様の手招きにディランと目を合わせた後、お祖父様の言葉に従い入って行くと様々な色の洋服が展示されており
洋服屋さん?
失礼にならないように周りを見渡し展示されたドレスを眺めていると
「エスメ、ディラン。こちらにいらっしゃい」
お祖母様に呼ばれ近くまで行くと
「こちらがお噂のお孫様でございますか?」
お祖母様より少し若い女性の言葉に
「まぁ、そんなに噂になっているのかしら?」
広げた扇子で口元を隠し微笑みお祖母様に女主人は気にしていないのか
「なんでも領に入ってからお屋敷に着くまで1人1人に目を合わせ手を振ってくれてたと街中持ちきりでした」
にこりと品よく笑いながら告げられて言葉にディランと顔を見合わせる。
一人一人の顔は見たけど目を合わせが記憶は無い。
どういうこと?
ただディランの言葉に従い笑顔で手を振っただけなのに街中に話が広がるだなんてなんだか悪い事をしてしまった気になるが、
「あらあら。街中に孫達の可愛さと聡明さが広がってしまったわね」
どこかぼかしながらもほほほと笑い話を流したお祖母様は
「早速で申し訳ないのだけどこの子達の採寸をして欲しいの。それと布見本も見せて欲しいわ」
微笑みを崩さないまま女主人にお願いをすると、
「畏まりました」
一礼の後、女主人の指示でスタッフが数人動き出しディランとは別室に案内され、
「採寸をなさいますのでこちらにお立ちください」
暖炉の前に立つ様に指示されきていたワンピースを脱がされ様々な場所を図られる。
頭の大きさから腕の長さ膝上や膝下に足の裏や甲の厚さ。
細かく図られ紙に記入され、
「お疲れ様でした」
終了を告げる一言に小さくホッと息を落とすとスタッフが再びワンピースを着せてくれ髪を整えてくれたので
「ありがとうございます」
いつものように礼を口にするとスタッフが動きを止め驚きの表情で凝視され何か悪い事を言ってしまったかと内心驚きも表情には出さないように気を付け
「お祖父様とお祖母様の元へ戻ってもよろしいでしょうか」
淑女の微笑みと少し首を傾げ問いかけると、自分達の行動に気が付いたのか慌て
「は、はい。大丈夫です」
パタパタと足音を鳴らしながら扉を開け、別室で待っている祖父母の元へ案内して貰い。失礼のない様に気持ち少し早足で近づけば
「お疲れさん」
お祖父様の労いの言葉とお祖母様の手招きに先程の少しだけ固まった心が解れお祖母様の隣に腰を下ろし、
テーブルに広がっている布見本に視線を落とす。
様々な青色の布に茶色の布を中心に今着ている生成り色など様々な色と柄の入った布が広がり、
「お嬢様は瞳の色がスカイブルーですので青もお似合いですが、今日の様にシンプルに1色でも瞳の色が生え素敵ですね」
女主人の言葉に嬉しくなりお礼を告げると、瞬間だけ目を大きく開け驚くもすぐさま微笑み
「お嬢様が王都の屋敷で愛される理由がよく分かりますわ」
微笑ましそうに柔らかい声で告げられるも言葉の意味が分からず微笑みで誤魔化しているとノックの後にディランが入室し全員が揃うと
「では、無理を言うけれどお願いするわね」
お祖母様の言葉に用事が終わったのだと察し、非礼にならないよう祖父母に従いソファから腰を上げディランの元へ近づき腕を取ると自然とエスコートをしてくれ店を後にした。
次の店は近くにあるのか馬車には乗らず前を歩く祖父母の後を着いて行きながら
「ディラン、採寸どうだった?」
普段より少し小さな声で話しかけると
「王都で採寸した時とあまり変わりはありませんでした」
同じ様に声を抑えながら答えてくれるディランに
「お姉ちゃんは大きくなってました」
誇らしげに胸を張りながら告げると
「王都に居る時よりお顔が上にありますからそう思っておりました」
釣られる様に嬉しそうに微笑んでくれるディランに
「ディランももう少ししたら私なんて追い抜くぐらい大きくなるんだろうなぁ」
未来の事を想像し言葉にすると
「そうなれるよう願っております」
表情は微笑んだままだったが力強く告げられた言葉に
「大丈夫、絶対大きくなるよ」
あっという間に身長なんて抜かされ声も低くなりお父様に良く似たかっこいい男性へと成長するんだろうなぁ
つむじが見える頭を見下ろしながらぼんやりと考えていると先程とは雰囲気の違う店へと入り周りを見渡すと様々な形のアクセサリーと宝石が展示されていた。
先程と同じ様にお祖母様主導の元で話が進んでいき時折、髪に宝石を当てたり、手の甲に宝石を乗せてみたりとお祖母様の言われるまま動き、時折話を振られるも
「お祖母様はどちらが似合うと思いますか?」
助けを求めるように意見を求めると嬉々としてアドバイスをくれるのでその言葉に従い選んで行く。
お祖母様がご一緒で助かったわ。
自分1人でもディランと一緒でも宝石店は身分相応ではない様な気がして近ずく事はしない店だけに変に緊張してしまう。
アクセサリーはお祖母様の欲しい物だけを買い挨拶をした後に退店し安堵の息を吐き出すと
「なんだ、疲れたか?」
お祖父様の言葉に顔を上げ
「いえ、宝石店は初めてでしたので緊張してしまいまして」
恥ずかしい所を見られてしまい顔を赤らめ告げると
「そうか。気分転換に少し早いが昼食にするか」
カラリと笑いながらの言葉に頷くとお祖父様はお祖母様の手を取りエスコートし歩き出した。
第66話
あっという間に12月です。1年あっという間ですね。
ブックマークに評価をいただきありがとうございます。大変光栄に思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしければお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/




