姉、対策を考える
寒い空気の中、ルイと共にフレディの
松葉社へ向かう途中、
「エスメ」
名前を呼ばれ顔を向けると、真剣な表情で
「この数日、エスメがだけが匂いの話を
しているのには気づいているよな」
固く強張った声での言葉に、頷き
「気づいているわ。ルイもマリーも
クラスの子達も皆、甘い匂いの話はしていない」
理解していることを伝えると
「前回、マリーが気分が悪くなった時の匂いと
一緒じゃないのか?」
尋ねられたことに一瞬理解が追いつかず、首を
傾げたものの、
「どうだったかな? 甘い匂いは一緒なんだけど
こんなに濃密だったかな」
記憶を掘り起こし思い出してみるも、大まかな
事しか思い付かず、
「分からない」
正確な答えが見つからず、返事が曖昧になる前に
ゆるりと首を振り返事を返すと
「そうか。体調は大丈夫なんだな?」
前回の匂いではマリーが青白い顔をし気分を悪く
していた事への尋ねだと理解し
「大丈夫よ」
頷き、安心できるように笑いながら伝えたが
探る様な目で見られ、
「本当に大丈夫よ。ただ匂いが気になっているだけ」
慌て、言葉を言い換え伝えると
「何かあればディランが悲しむって分かって
んだろうな?」
1番効く名前を出され、
「勿論よ、健康第一で早寝早起きで過ごしているわ」
日頃気をつけているし、なんなら今日も
早く寝ようと決めていた。
ルイに負けないぐらいに真剣な表情で伝えると
「なら、隠し事はしないで、異変があったら
すぐに教えてくれよ」
この言葉にはディランを悲しませたくないだろう?
の意味も含まれており、
「はい」
素直に頷く以外の返事は無く、
目的のフレディと馬車が見えたので、速度を早め
「フレディ、ただいま」
2歩程空いた正面で立ち止まり伝えると
「お帰りなさいませ」
にこやかに迎えられ、馬車へ乗るように
視線で誘導されたが、
「ちょっと待ってね」
自分に付いている濃密で甘い匂いを少しでも
取れるように何度も風の魔術で自分にかけて匂い
を飛ばし
「ルイ、大丈夫だと思う?」
不安と確認の為に尋ねれば、
「大丈夫だと思うぜ」
頷いてくれたので、
「なら安心ね」
頷きかえし、
「ルイ、また明日ね」
別れの挨拶を言葉にすると
「ああ、また明日」
ルイも挨拶を返してくれ、フレディの手を借り
馬車へと乗り込んだ。
馬車の中は暖かく、寒さで強張っていた体から
力が抜け、座席に腰を下ろす。
座り慣れたベルベットの生地に安堵し
ゆっくりと呼吸をすると、鼻の奥から甘い
匂いがし、
一向に慣れないなぁ。
重めの息と共に感情を吐き、
どうすれば匂いが薄まるのかしら?
ぼんやりと考えつつ、暖かさが眠気を誘い
瞼が重くなってくるのを感じ
ディランが帰ってくるまでまだ時間があるはず。
眠りに誘われるまま、瞼を閉じ意識を手放した。




