弟は戸惑い困惑する
馬の蹄の音に馬車の車体が揺れ
動く音。
いつもの様に馬車が動き出す前から姉様の
楽しげな話が始まったが、ここ数日前からの
憂いは晴れていない様で、何処か無理をしている
明るさと笑顔で、
アメリア嬢とマリー嬢のお茶会は成功したと
御本人から聞いているはず。
隣に座るフレディに視線を軽く向けると、
意味ありげに微笑まれたのみで、
自分で聞け。
そう言われたのだと判断したが、姉様が
何で憂いているのか原因に見当がつくものの
自分とは接点が無くどう尋ねれば良いのか
頭を悩ませる。
お茶会の話は今、楽しそうに話しているので
憂いは晴れたのだろう。
同期優勢である商会の跡取りと称されていた彼は
相変わらずの様で、姉様も落とし所を見つけたのか
時折心配そうに話すので自分なりに励ましたり
案を出したりとしているが、
彼は後継者として資格無し。
と、判断が下されるので、間も無くアメリア嬢の
心労となる原因の女子生徒から見切りをつけられる
だろう。
最初は姉様も心配するだろうが、彼は自分の行動が
引き起こした事なので、反省と経験をしたという
意味で紳士に受け共て貰いたいと思う。
女子生徒も自分の名前を上げていた時に姉様が
その場に居たと言う報告は受けている。
なんとか憂いを払いたいが、対面をしていない
以上名前を出されただけで話題に出す訳も行かず、
姉様は原因が分からなくても、自分を励ましてくれ、
優しく包み込んでくれるのに
何もできない自分が情けない。
無意識に重い息を吐き出しそうになったもが、
直前で止めたものの
「ディラン?」
姉様に早々に気づかれ、言い訳をしようと
口を開きかけるも、
「最近忙しそうにしてたもの、気疲れが出ているの
かもしれないわね」
労わるように微笑んでくれ、
「戻ったら、暖かくて甘い飲み物をいただきましょうね」
気遣いの言葉と包み込む様な柔やからな声に頷くと
共に、なぜ自分にはこの気遣いと優しさが出来ない
のかと責めてしまいそうになるも、
「お心使いありがとうございます。姉様も一緒に
いかがですか?」
自分のことはひとまず置き、姉様の憂いを払う事が
先だと切り替え提案をすると嬉しそうに笑い頷いて
くれたのを見て心の中で安堵の息をこぼす。
屋敷に帰った後も、姉様の楽しげな話は続くが
一先ず着替えをと別れた後、自室にて姉様を迎え
お互い向かい合い座り、甘い匂いミルクティーが
置かれた瞬間、姉様が真剣な表情をした為、
いつもの突破的な発案が思いついたのかと、身構え
フレディに視線で指示を出したが、
「ディランの好みの女性って、どんな子なの?」
予想も思いつく事すらしなかった言葉に呆然なり
返事ができずに入れば、
「ほら、私ならば私の行動を寛容してくれる人とか
どこにでも付き合ってくれる人とか」
恥ずかしそうに頬を染め視線を泳がしながらの言葉に
姉様に思い人ができたのか?
今まで気づきもしないままで居た、姉様の恋愛事情に
体が冷え目の前が真っ暗になりそうになるが、
どうにか冷静さを取り戻し
「姉様。それはどう言う意味でのお尋ねですか?」
どうにか絞り出した言葉に、
「え!? えっと、その」
慌てる姿にどうすれは良いのか分からなくなり、
まずは自分が落ち着かねばど、カップに手を伸ばし
持ち上げたものの震えており慌て一口飲み、ソーサーに
戻し、両手を握り込んだ。
姉様も適齢期
周りの同級生には恋人も結婚予定のある人もいるのだろう。
姉様の隣に見知らぬ誰がか横に立つ。
想像すらしなかった気付きに、思考が拒否しだすが、
姉様は結婚も子供を持つ事も許されない身。
気づいた事への安堵感した事への嫌悪感が混じり
指先が冷えてくる。
姉様に心から慕う男性ができたのならば。
想像を拒否し喜べない自分がいる。
だからと言って反対をすれば姉様が悲しむのは
分かっているが、自分が誰よりも先に
反対をする立場なのだと言う事は理解している。
幸せに笑っていて欲しいと誰よりも願う姉様を
自分が悲しませる事になる。
気づいてしまった事に避けたい気持ちがあるが
姉様を守る事なのだと言い聞かせ顔を上げた。




