姉、心を馳せる
ようやく保護器具が外され好奇心の惹かれるまま左右の腕を見比べてみると
「なんだか右腕が細くなっている気がする」
無意識に溢してしまった言葉に
「今まで使わない様に生活を行っておりましたから筋肉が落ちて細くなっているのかと思います」
すぐそばに居たディランの声に
「医学書にそんなこと書いてあったね」
頷きがならも腕から視線を外せないでいると
「これから右手と右腕を動かす意識をして筋肉を付けていきましょう」
ディランが右手を握りながらの言葉に頷き
「そうね。折ってから左手を使ってきたから意識して使ってみるわ」
利き手である左手のみの生活にあまり支障を感じる事がなかったが、思えば紅茶を飲む時のソーサーを持ったり食事の時のナイフとフォークも怪我だから見逃して貰えてただけで普段ならマナーのなっていない人と判断されてしまう。
頑張らなきゃ。
ゆっくり深呼吸をしてから右手を上下に動かしているとノックの音が聞こえディランの声の後にフレディとルイが姿を見せソファまで近づいき、胸に手を当てると
「エスメ様、腕が治ったと聞きました。おめでとうございます」
一礼と共に告げられた言葉に
「ありがとうございます。まだ迷惑や見苦しい姿を見せる時も多いかと思いますがこれからもよろしくお願いします」
淑女の微笑みで祝いの言葉への返事と共にこれからの事のお願いをすると、顔を上げ
「勿論でございます。いつ如何なる時もエスメ様のお心に添えるよう使用人一同使える所存でございます」
今まで聞いた事のないような真剣で硬い声に少し驚くも微笑みの中に隠し、
「それは心強いです」
頷き返せば、イルの頷き返り勉強への時間となった。
いつも通りにイルは話から始まり時折ディランの質問と疑問が入るとルイが答え進めていく。
2人の声を聞きながらいつもの様に本を開き文字を目で追うも、
いつから魔法が使える様になるのかな?
まずは空を飛びたいな。
普段よりも高く飛んで街の様子や通っていた道を上から見下ろしたいな。
山より高く飛んだら隣の国の街並みが見えたりするのかな?
後、生活魔法道具も進めたい!
それと、独り立ちの練習も始めないとね。
朝の準備はお兄さんの村でできていから久しぶりに夫人のスープが食べたい。
キッチンを借りれる様にお願いもしないと。
後、洗濯場も借りないとね。
ランドリーメイドさん達との兼ね合いもあるから要相談だよね。
前世では嫌でやりたくなかったけど、改めて思うと嫌というよりは楽しみな気持ちが強いなぁ。
この気持ちの違いが前世の私と今世の私の違いかな?
手に持っていた本を気付かない内に膝の上に置き考えに集中していると、紅茶の香りに気付き顔を上げれば気付かない間にディランが正面のソファに座り、イルが横に控えていた。
「かなり考え込んでおりましたが何かございましたか?」
イルの言葉に勉強が終わったのだと気付き申し訳ない気持ちになりながらも
「これから事を考えておりました」
正直に返事を返すと
「これかと申しますと?」
再びイルからの質問に
「空を飛びたい。生活魔法道具を作りたい。独り立ちの練習を早く始めたい。そう考えていました」
先程まで考えていた事を言葉に出せば、
「独り立ちの件は奥様から聞き及んでおります。急がず雪解けの時期から始められてはいかがでしょうか」
お話した通りこの地域は雪深くなる年もございますので。
付け加えられた言葉に頷き
「そうなのですね。ではできる範囲から始めていきます」
言葉が終わると同時に紅茶の入ったカップを左手にソーサーを右手で持ち上げ一口飲み味と香りを楽しみもうひと口飲み、ソーサーにカップを乗せるとあまりの重さに傾かせかけるも、
「危なかったわ」
左手に持ったカップをソーサーから離し紅茶を溢さずになんとか持ち直す事ができた。
「大丈夫ですか」
少し慌てたディランの声に
「大丈夫よ。溢していないわ」
力なく笑いながら返すと
「エスメ様はまずは右腕の力を取り戻す事を優先して行うべきですね」
イルの冷静な言葉に
「はい。そういたします」
ソーサーの重みで震える右手を見ながら素直に頷くしかなかった。
第62話
楽しい未来を事を考えるのは楽しくて夢中になりますよね。
久しぶりの雨の日だった気がします。明日から冷え込む予報だとか。
乾燥や寒暖差の体調不良にお気をつけ下さいませ。
ブックマークに評価を押していただき誠にありがとうございます。
とても嬉しいです。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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