姉、突然の事で思考が止まる
青天の霹靂と言うべきか、
いつも過ごしていた日常が無くなる
だなんて考えた事も無く、
まさかこんな事になろうだなんて
あの時は思いしなかった。
「企画書の書き方はお分かりですか?」
学園から帰り、制服から着慣れた生形の
ワンピースに着替え、マルチダの淹れてくれた
紅茶を楽しんでいた所、聞こえてきたノックに
返事をし、招き入れた人物から
予想にしなかった言葉に返事を返せずにいると
「ディラン様は紙の取り扱う店主との
打ち合わせに行かなければなりませんので
エスメ様のお力をお借りしたいと思いまして」
さらりと告げてくるフレディに
「え? きかくしょ?」
理解する言葉の意味を多過ぎて戸惑っていれば
「見本を作成しておりますので、こちらをご参考に
書き進めていただければと思います」
差し出された紙の束を受け取り、まだ理解し
きれていない中、
「では、よろしくお願いいたしますね」
従者の礼をし颯爽と部屋から出ていったフレディを
引き留める為の言葉すら見つからず見送ってしまい
「え? どうすればいいの?
私が思うままに書いていい物なの?」
理解でき疑問を言葉に出したものの答えてくれる
フレディはおらず、
「本当に私が書いていいの?」
戸惑いと困惑の中言葉を溢せば、
「大丈夫です」
力強い言葉と声に視線を向ければ、壁側に
控えてくれていたマルチダが近くに来てくれ、
「フレディさんも考えがあっての事でしょう」
手に持っていた企画書の見本をマルチダが持ち
パラパラと数枚見た後、
「詳しく書かれているのでエスメ様も書けるかと
思いますので、一緒に書いてみましょう」
優しく告げられた言葉に、驚きと困惑に戸惑いが
消えさり、
「やってみるわ」
マルチダの期待に応えるべく頷き、ソファから
立ち上がり椅子に座り机に向かった。
フレディが書いてくれた見本を読み込み、理解が
難しい場所はマルチダに尋ねると、分かりやすく
噛み砕いて教えてくれ、
持ち慣れた羽ペンを握り、誤字脱字に気をつけ
一文字一文字、文字を綴ってゆく。
時折羽ペンの動きを止め、自分の書いた文章を
読み直し、間違いが無い事を確認したのち
羽ペンの先にインクをつけ、インクが落ちない
様に調整しつつ慎重に紙にペン先を乗せ、
書いてゆく。
下書きを上手く書けたので一瞬このまま提出しても
いいのでは中と頭を過ったが、
めんどくさいが近道なのだと考え直し
深呼吸を数度し雑念を取り払ってから、
羽ぺんを握り、インクをつけた。
最初の数枚は緊張したものの、何度か返却と
尋ねられた事を自分で調べ、案を出し、考え抜いた
案を分かりやすく丁寧に書いていく事にも慣れた。
が、
「クラスメイトは学園に来る前は書類仕事を
こなしてたと聞いていたけれど、改めて大変な
仕事だと理解したわ」
朝の書類確認に学園での勉強。
それに加わった生活魔法道具の企画書類を書く
事が増え、
学園の時間が息抜きになるだなんて思っても
なかく、
忙しくそうだとマリーやアメリアから心配を
貰っても曖昧に笑うしかできない事が心苦しく
なるべく早く終わらせようと思うが、
「工房から企画書の許可が出ましたので、
図案の作成をお願いします」
解放されたと思うと次々に渡される仕事に
追われていれば
気が付けば寝起きの部屋に火と風の魔術を
発動させ暖を作る季節となっていた。




