父、願う。
「そうか無事とは言い難いが目的地に着いたか」
蝋燭の灯りにのみの部屋に重々しい声が響くと
「ご心配おかけし申し訳ありません」
緊張の糸が張られた声で言葉を返す。
「こちらとしては厄介者が片付いたので構わないが、怪我が心配だな」
また違う声が告げると
「右腕の骨折と報告を受けております」
同行者と手紙からの報告を受けたまま伝えると
「しかし光魔法とは」
渋面から零された言葉に
「申し訳ありません」
つい謝ってしまうが
「いえ、予想はしておりましたのでそこまで深刻にならなくても大丈夫ですよ。ただ」
歯切れ悪く切れた言葉に
「保護しできないのが歯がゆいな」
呟かれた言葉に雰囲気が重くなる。
光魔法の持ち主のみに現れる気狂いはどの書物を見ても全員に発症する事が書かれていた。
勿論、最高権力者の王家が所蔵する書籍でも隠蔽で書かれていない事は数多ある事は理解している。
もしかするとどこかに発症を回避できる方法があるのではないかとディランの報告と父から手紙が着た時から王家の書庫へ足を運んでいるものの何1つ見つけられずにいる。
ディランと父からの手紙にはエスメには気狂いの話は知らせてないと書いてあった。
ディランが決めたと。
エスメの性格を誰よりも理解していの判断に反対はしない。
陛下も側近の方々もディランの判断に是と頷いていただいた。
間も無く折れた腕も完治すると報告も来ている。
腕が自由になった娘の行動を想像するともう一波乱どころか数え切れない程の波乱を起こす事が予想でき胃の辺りがギリギリと痛み、そっと腹部に手を当てると胸ポケットの辺りから何かが動く感触に伝えねばならない事を思い出し、
「実は1つお見せしたい物がございまして」
痛む腹を気づかぬ振りをし重くなった空気の中切り出し、胸ポケットから小さな布を取り出し掌に乗せると4人の視線が取り出した物へ集まり、皮紐を引っ張り口を開け中身を取り出と全員が息を呑んだ。
「これは」
日々取り扱いがあるからか最初に冷静になり言葉と共に視線で続ける様に促され
「道中無事で帰れますようにとお守りとして渡されたと聞いております」
透明で純度の高い魔法石だが見る人が見れば誰が作りどの様な物なのかが分かるのか、
「さる場所へ収納をしても良い品ですね」
苦笑しながら告げられた言葉に心の中で絶句しながらもどこかやはりと納得する事もできた。
乱雑に縫われ作られた布袋の中には光魔法が込めた魔法石。
娘が作り渡した物であるのは縫い方などからも一眼で分かる。
父親としてはあまり袋の縫い目などは見無いでいただけたらと思うも、影からの報告でこの場にいる全員が娘の不器用さを知っているのと製作者を誰なのかを知っていただく為に父親心にそっと目を閉じ
「これを渡された者は我が家の私兵でして。道中に護衛を命じておりました」
無事王都へ帰り報告をと部屋に訪れた時に詫びと退職をと告げられるも、子供達の判断と気持ちに反する事なのでと断り地位もそのまま雇い続けている。
「事があった時の人物ですか」
生真面目な性格がそのまま声と言葉となって溢した人物に向かい
「2人の意志を尊重し今まで通り過ごしております。勿論このお守りも話さ無い様言付けております」
至宝を渡すかの様に自分へと渡してきた姿に約束事は守るだろうと確信も持っている。
「まぁ、会った事は無いが聞くに信頼できる人物だろう。良いのではないか」
どこか安心感を与え身を任せも良いとさえ思わせる声に全員が判断を仰ぐ様に全員が視線を向けると
「本人達の思う様に」
膝を突きたくなるよな声と判断に胸に手を当て目礼にて返事を返す。
方々達曰く親バカの会と揶揄しながら集まるも全て自分の娘の1つ行動の為に忙しい方々に集まってもいただき、報告と今後の対応や諸外国への報告などを話し合う場にいつまで経っても慣れる事はなく、腹が絞る様に痛む。
「体調が整い次第かの方との対面を果たしていだたきます」
一区切り付き微かに緩んだ空気の中、告げられた言葉に無意識に下げていた視線を上げ
「その様に手筈を整えております」
茶会の準備を整えている事を使えると
「家とは代々付き合いがあったのだろう?そう気にする事とはと思うぞ」
カラカラと笑いながらの言葉に微笑み返すのが精一杯だった。
御子息とのお茶会で毎度、娘がやらかしていることは息子や息子の従者達から報告を受け毎度頭を抱え込んでいるのだ、できれば親として息子の手助けをしてやりたいし娘の行動を注意したいし嗜めたいが、次世代の貴族同士の交流に親が口を挟むのは良くない。
特にこのお茶会は息子の何あっても対応できる適応力と冷静な判断力
娘の性格を見極める為のもの
現状は娘のやらかし貴族ではない事と本性の見極めの為に自由にさせられている。
それがいつ判断が下されるのか分からず、常に娘の首に真綿が回されている状態だ。
王家や貴族に関わら無いという王女の法なんて合って無いに等しい。
最高権力者が手を振り落とせば秘密裏に執行させるのが世の常
互いに穏やかな雰囲気が本物かどうか疑う心が常にある。
親元から離れこの後どう心が育ちどの様な性格になりどの様な思考になるのかは分からない。
善になるか悪になるか
薬になるのか毒になるのか
どうなるかは親の自分にも誰にも分からない。
このまま育って欲しいと思う。
思い付き片腕で頑張って縫ったであろう縫い目は娘の性格を表しており愛おしくなりそっと撫ぜ胸ポケットに入れる。
どうか
どうか
善となり薬となる判断される娘になって欲しい。
ただ少し
ほんの少しで良い
できれば淑女として突拍子のない行動は慎んで欲しいと。
月の無い夜に願わずにいられなかった。
第60話
父親心はとても複雑です。
柊の花の蕾を見付けました。冬もすぐそこまで来ている様です。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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