父、よく効く胃薬求む
2021/11/22誤字修正致しました。教えていただきありがとうございます。
2022/09/01奥さんから妻へ表現を修正いたしました。教えていただきありがとうございます。
2023/04/12誤字修正をおこないました。教えてくださった方ありがとうございます。
重厚な扉が開かれ左右に立つ騎士に入室を促され、気付かれない程の量の息を吐き出しこれから行われる雑談会への心を整えた。
暫くするとノック音が聞こえ慌て立ち上がり出迎える体制を取る。
扉が開くと同時に胸に手を当て腰を曲げ貴族のマナーに乗っ取り礼をすれば、宰相より名を呼ばれ礼を解き陛下が着席後、宰相、騎士団長、魔術長より一呼吸遅くソファーに腰掛けた。
「忙しい中にもかかわらず集まってくれ感謝する」
誰よりも位の高い陛下からの言葉から始まり他愛もない世間話を進める。
最近発売された魔法生活道具の話を陛下から宰相へ振られ、使い心地や気付いた事など話が進められ一語一句聞き漏らさない様に気を張る。
穏やかに進められるこの時間の名目は殿下の側近候補である親が集まり思い思いの話をする。
そんな集まりと見せかけ本題は娘の魔術披露の報告と今後の傾向と対策を決める。
にこやかな雰囲気で進む中、魔術長から
「そう言えばこんな話を聞きまして」
そんな頭言葉で始まれば、
「どこかで聞いた話なのですが空を飛ぶ話で盛り上がりましてな」
雰囲気を壊すこと無く流れのままに始まった話に
「それは興味があるな」
朗らかに頷き陛下が話を続けるように促し、
「何でも箒に跨り空を飛ぶそうですよ」
魔術長が言葉を返す。
雰囲気はとても穏やかな中での雑談だが、どこか緊張感が走っている気がするのは娘の話題だからか、胃の当たりがチクリと痛んだ気がした。
「なぜ箒なのだ?他の物ではいけなかったのか?」
不思議そうに首を傾げ騎士団長が問えば、全員の視線が自分に向けられ、
「そこに箒があったから。ではないですか」
あくまでも他人事で噂話に自分の意見を告げるかのように真実を話せば、全員、理解ができないとばかりの反応が返ってきた。
腹部がキリキリと痛みながら貴族らしく微笑み返ぜばどこからともなくため息が聞こえ、
「空を飛ぶという事は移動ができると言う事ですね」
真っ直ぐと自分を見つめ告げられた言葉に頷く。
「空に国境などありませんから気をつけていただかないと国際問題になりますね」
真面目な表情と硬い声で返ってきた言葉に、
「確かにそうだなぁ」
騎士団長が茶化した様口調と相槌を打ちに、
「空からの侵入は対処がしきれません。そこはきっちり話をして対応をしていただかないと困ります」
空を飛んで諸外国に入ってしまってもこちら側は対応しきれないのでエスメ嬢に言い含めてくれ。
裏の意味を汲み取るが、ここは宰相の真面目性格で考え過ぎだと困った様に笑い
「そうですね。そのような事が起きないのが良いかと」
勿論です!きっちり教育し言い含めておきます!
冷たい汗が背中を伝う中、裏の返事も含め返事を返す。
十二分に言い含めねば。
ディランを乗せて空を飛びたいと言っていたのでディランにも気を付けるように伝えなけば。
改めて娘の問題の大きさに頭を抱えたくなったが、目の前の人物達の前なので腹に力を入れ耐える。
我が家は公爵という爵位があるが下から数えた方が早いぐらいで、王城へ呼ばれ、陛下や宰相という国の上位の方々に会う事は舞踏会や諸外国の国賓の歓迎である王家主催の晩餐会のみ。
陛下や側近達とは年齢も違い学園も陛下達がご卒業されてからなので王族主催以外ご挨拶することなどもなかった。
その立場を変えたのは娘のエスメ。
学生時に両親から紹介された同じ爵位の彼女と婚約し卒業と同時に結婚。
その1年後に待望の子が生まれた。
深夜に生まれた娘が産声を上げたその時、
空気が波紋のように波打ち広がった。
子供が産まれた喜びが大きく気のせいかと思うも、泣き声を上げる度に広がる魔力の波紋に戸惑いながらも、いつしか泣き止んだ娘の顔を改めて覗き込めばそっと伸ばした指を小さな手が握りしめてくれた。
その時、初めて父親に、親になったのだと自覚ができた。
何があっても守ろう。
父として親として思う気持ちと、早朝に魔術省に使者を送り現状の説明をしないと。
貴族として、配下として考え翌朝を迎えた。
早朝の泣き声と魔力の波紋で起こされ、執事から聞かされた事に言葉が出ない程、驚いた。
庭の花という花が咲いている。
噴水の水が逆流し空に向かった後、雨の様に降っている。
厨房の釜の火が勝手につきワルツを舞う様に強弱をつけゆらゆら揺れている。
次に来るのは土ですが今の所動きは見せておりません。
冷静に淡々と告げられら言葉に思わず。
「執事になるとこの出来事には驚かなくなるのか?」
思わず零れた感想に、ニッコリと笑われ
「周りが驚き慌てふためいていれば自ずと冷静になるものですよ」
どこかを遠い場所を見つめ諦めの色が含んだ声に
「それは、申し訳ない」
よく分からず謝ってしまった。
だがゆっくりできたのはここまでだった。
朝の支度中に魔術省から使者の到着が知らされ、現状を確認したいととの事に、妻の元に先触れを出し許可を貰い、部屋に案内すれば使者が大きく震え真っ青になり挨拶も早々に転がるように部屋か出てそのまま屋敷からも出て行った。
呆然としながらお互い顔を見合せ戸惑う中、今度は魔術長自らお出ましになり問われるまま答え、希望されるまま娘と対面をすれば、眉間にこれでもかと深い皺を刻み、
「魔力が溢れ出ているので、まずはこの魔法具を付けさせてください」
言われるままぷくぷくとした腕に魔法具を付ければ、冷たい感触に驚いたのか泣き叫び出すも、今まで起こっていた魔力が溢れ波紋を作る事が無くなった。
「これは一体どういう事ですか?」
大泣きする娘と険しい表情の魔術長の顔を交互に見、戸惑いながらも質問をすれば、娘の魔力が膨大で泣く事によって魔術を発動させていたと言うのだ。
更に魔力の量は、かの女王と同じかもしくは凌ぐ量だという。
出された女王の名前に息を呑む程驚き、呆然と佇む中、
「今は魔法具で抑えていますが、暫くすれば耐えきれず壊れます。定期的に届けさせますので、制御が出来るまでは外さないようにお願います」
純度の高い水晶が1粒ついた魔法具を数個手渡され、必ず身に着けるよう再度告げられ頷くと
「令嬢の事は陛下へ報告を上げます」
次に告げられた名前と言葉に漠然とした不安が押し寄せた。
「現段階では確定ではありませんが、法が適応されると覚悟してください」
詳しい事は後日にでも、それでは失礼します。
言葉を残し館を後にした魔術長への見送りも忘れ立ち尽くす中、自分を呼ぶ声に意識を戻し慌て振り向けば、震え不安な表情をした妻のもとに足早に近寄り抱きしめる事しかできなかった。
後日、王城へ呼ばれ諸外国からの使者の前で告げられた
「エスメ嬢を法に従い貴族籍から外す」
勅命にどうして娘なんだ。なぜこんなことに。渦巻く気持ちを隠し
「拝命いたします」
従うしかない命に声を振り絞り返すのがやっとだった。
更に、屋敷に居る全員が王家と諸外国からの監視下に置かれる事、
娘が何もしなくても監視者から王へ報告が上がる事、
定期的に王城上がり報告をする事が告げられた。
娘を自国と諸外国人から要危険人物と判断されたことへ怒りが生まれるも、法があるからこそ娘が守られる事もあり、様々な感情を押し殺し王城を後にした。
この事を知るのは自分と執事のみ。
妻にはエスメに法が適応される事のみ伝えた。
そして年に一度、陛下や側近の方々お忍びで我が屋敷へ足を運び、娘を見る日ができた。
無邪気に笑う娘を遠くから見たり、
好奇心に負け、扉の隙間から部屋を覗き見る娘に叱りたい気持ち、娘の非礼に恥ずかしく情けなかったりで、頭を下げるしかできない自分が恥ずかしかった。
陛下を初め側近の方々は気にしていない。元気で何よりと許してくれるのは貴族ではないから。
かといって公爵家に産まれたがゆえ平民でもない。
曖昧な立場の娘の心配ばかりで跡取りとして生まれたディランにも要らぬ苦労ばかりかけている。
情けなさで落ち込むも、陛下や側近の方々のお心遣いに何度も救われている。
うっかり逃避してしまった事とギリギリと痛む腹を笑って誤魔化せば
「そう言えば息子がお茶会に誘われたそうで。世話になるな」
告げられた言葉に慌て陛下へ顔を向ければ、
「友達に会えると喜んでおった」
うっそりと笑い告げられた。
表は殿下とディランが会うが裏はエルメの確認に行くので用意しろ。
絞られるように痛む腹に鞭打ち、
「ありがとうございます。お待ちしております」
良い返答が思い付かず、口端が引き攣った気がしたが気にせず笑顔で返しきった。
殿下がお見えになると言う事は宰相をはじめ御子息も我が家に来ると言う事になる。
これから忙しくなるなぁ
それぞれの子供自慢を聞き遠くない未来に思いを馳せた。
第6話
これで大体な事はかけたと思いますので次からは主人公が動いてくれるか思います。
今まで流されるまま無難に生きてきた父が娘に振り回される日々を少し書きました。
気苦労絶えない日々です。お疲れ様です。
五行が出て来ず風林火山のアレなんだっけ?と間違った方向で検索してしまい恥ずかしい。
ブックマークや評価をいただきありがとうございます。
とても嬉しいです。
熱中症アラートが出ている日々ですが皆さまご自愛くださいませ。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/




