姉、感情を言葉に出す
今、心の中にある感情を包み隠さず
言葉に出して良いとマルチダに助言を
貰ったものの
様々の感情が生まれて一斉に言葉として
表に出ようと主張し、唇が震え動くだけで
どれ1つ言葉として言えず、
「エスメ様、落ち着いてください。
ディラン様に恋人も婚約者もできた訳では
ありません」
少し低い声で言い聞かせるようにゆっくりと
紡がれた言葉がじんわりと心の中に浸透し
荒れていた心が落ち着きを取り戻す。
「そうよね。ディランの好みを聞いただけで
まだ婚約者ができた訳ではないわね」
街でのディランの溢した言葉が気になり
どんな反応が返ってきても受け入れると
決めて聞いたはずなのに、
「情けないわ」
尋ねただけでこの取り乱し。
きっとフレディにも気づかれている。
少し多めに息を吐き、その後ゆっくりと
深呼吸をしいまだざわめく心を受け入れつつ
「嫌だと思ったわ」
1番最初に出てきた感情を言葉にすると
「ディランの好みが知れて嬉しかったわ。
でも、同時に嫌だと思ったし寂しいと思った」
次々と感情が表に出てくる。
「ボーイックのお姫様である女子生徒は
ディランに相応しくないと思ったの。
だってディランはこの家の後継者よ。
ディランの言う通り品格とマナーが足りないわ」
学園でボーイックと一緒にいる所を何度見ても
何も思わなかったのに、ディランの横に立ち
生涯を共にするのだと思うと、嫌悪感が生まれ
膨れ上がった。
できればミランダやアメリアの様に知識があり、
品格やマナーが備わっており、マリーの様に
誰にでも優しく慈しみを持ち、
お母様やお祖母様の様にディランの後ろで支え、何が
起こっても受け入れる寛容さに安心感がある
女性が良いの。
独り言のように呟き続けた言葉に
「流石に無理があると思います」
マルチダの感想が告げられ
「分かっているわ。理想論よ。
お母様やお祖母様の様な寛容さに安心感は
それぞれに歩んできた時間と出来事の中で
生まれたものよ、私だって無いもの」
そんな人物がいないのは分かっているけれど
自分が納得できる人物像を作り上げているだけで
「ああ、できればミラの様なおしゃまな感じも
あれば最高だと思うわ」
領で過ごした思い出の中にミラに振り回され
ているディランがとても可愛かった事を思い出し
加えると
「なんだかエスメ様の様な方ですね」
返ってきた言葉に驚きつつ
「全く似てないと思うけれど」
さらりと否定し、
「兎に角、私以上にディランの事を愛し慈しみ
支えてくれる人が良いわ」
「ますます難しいかと」
淡々と言葉を挟んだマルチダに
「なんだか言葉にすれば理想の女性が現れる
様な気がしてきたわ」
どこからともなく良く分からない自信が生まれ
「今、私の周りにいないだけで探せば居る気が
してきたわ」
先程、心の中にあった様々な気持ちが消え去り
「もっと視野を広げてディランの婚約者候補を
探してみるとの良いわね」
瞬間に思い浮かんだ閃きを言葉に出すと、
とても良い考えに思え、明日から早速と意気
込んだが
「婚約者は旦那様や奥様がお考えになられて
おりますので、ご安心を」
マルチダの言葉に考えを止め
「そうだったわね。忘れていたわ」
荒ぶっていた感情が静まり、気持ちを言葉に
出した事で心がスッキリとしたからか、
急激に眠気に襲われ
「早いけれどそろそろ寝るわ」
欠伸を噛み殺しつつマルチダに伝えると
ソファから立ち上がりベットへ足を進め
そのまま布団を捲り横になる。
「おやすみなさいませ」
ベットに入った姿を確認したマルチダが
寝る挨拶をくれたのでd
「おやすみなさい」
微睡の中なんとか返事を返してから眠りに
ついた。




