姉、懐かしむ
2軒目に訪れたレターセット専門の店だった。
ディランを先頭にフレディと共にお店に
入った。
数名女性のお客さんが楽しそうに選んでおり
視線を向ければ、紙刺繍を手に取り嬉しそうに
話しており、
嬉しい。
見つけてくれて、手に取ってくれてありがとう。
顔を寄せあい小さな声で話している姿は微笑ま
しくて思わず笑みが溢れそうになるも、
今はメイドの立場だと思い出し表情を引き締め
ディランの後を着いて歩き、挨拶にとカウンター
から出た店主さんと会話をしており
最近の紙の輸入事情や売上
紙とインクの兼ね合いや羽ペンで使用する水鳥
の話など話しており興味深く聞いていると、
「つまらない話はここまでにして、よろしければ
手に取ってご覧ください」
柔和に笑みと穏やかな声に誘われ店内み見渡すと
先程いたお客さんはいつの間にか退店しており
自分達だけとり、
「ゆっくりご覧ください」
その言葉の後、店主さんは少し距離を取り
好きに見て良いと体で表してくれた事に
「ありがとうございます。お言葉に甘え
ゆっくりさせていただきます」
ディランの返事に店主さんは嬉しそうに微笑み
扉を開け店内から出て行った。
3人だけになり
「姉様もゆっくりご覧ください」
ディランの言葉に頷き、早速気になった商品が
置かれた棚へと明日を進める。
レターセットと言っても貴族が使う手紙は
家紋が透かしで入れた物や、上質で手触りが良く
白に近い色をしている紙が好まれており、
はるか遠くの島国からやって来る紙は
羽ペンの先が引っ掛かりにくく、手触りも良く
真っ白で汚れも少なく、王族や高位貴族が
好んで購入しおり滅多にお目にかかる事は無い
とされているが、
「あるのね」
目の前にある真っ白な紙を見て思わず溢れた。
どこか懐かしく感じる紙を手に取り
じっくりと眺める。
機械で作った紙よりも値も高く前の人生でも中々
見る事もなかった。
指先で撫ぜればさらりと指が滑り、井草の繊維の
細かさなどに見惚れる。
この紙が当たり前である事が当然だと思っていた。
けど、それは先人の努力があり当たり前になった
事を忘れていた。
物は大切に、大事に使わないと。
前の人生で幼き頃に聞いた親の教えを思い出し
改めて注意する事に決め、
真っ白の紙を慎重に棚に戻し、次の紙を手に取る。
気になった紙や目に入った紙を手に取り堪能した
棚に戻すを繰り返していると、
何故かフレディがその商品を手に取りカウンターへ
と追う始める。
不思議に思い視線でフレディに問うも微笑みで
誤魔化され、ディランを見れば嬉しそうに微笑ん
でおり首を傾げつつ、
ディラン、ご機嫌さんね。
可愛いなあ
なんて微笑ましく思いつつ、興味に惹かれる
まま商品を手に取り商品を向き合う。
押し花を入れた紙を完成させた方がいい
かもしれない。
でも、紙を最初から作るには職人さんに
教えてもらわなければならない。
誰か希望者を募り派遣するしかないけど
彼の国は遠すぎる。
様々な事を考えていたものの集中力が切れ、
重い息を溢し手に取っていた紙を棚に戻し
次の紙へ手を伸ばしかけた時、
「こちらもお願いします」
先程、棚に戻したはずの紙はフレディの
手によりカウンターへ運ばれ、購入する
方向へと向かっており慌て
見ていただけなの。
そう言いかけるも、ディランの悲しそうに
眉を下げた表情が視界に入り
「えっと、こちらも、お願いします」
持っていた紙を差し出しフレディに手渡した。
手に取ると購入になるから見るだけにしよう。
そう決め、見るだけに留めたが少しでも
じっくりと見ているとフレディにカウンターに
運ばれ購入になってしまい、
止める様に言いかけるも、会計をするディランが
嬉しそうに微笑んでいる姿が目に入り、
結局、店内を1周し
「ありがとうございます。商品は屋敷に
お届けさせていただきます」
店主さんの言葉に
「お願いします」
ディランが頷き、買い物が終了し店主さんの
見送りをいただき馬車へ乗り込んだ。
微笑み手を振ってくれた店主さんに小さく手を
振り返し、少し離れた所で
「もう。どうして手に取った物を全部
買っちゃうの」
怒ってます。と表情と共に声を態度に出すも
「姉様が嬉しそに、時に楽しそうに見ていたので
喜んでもらいたかったのです」
悲しげに眉を下げ肩を落としてしまったディランに
慌て
「違うのディラン。ディランの気持ちはすっごく
嬉しいわ。本当よ。でもね、全部じゃなくても
いいと思うの」
悲しませてしまった罪悪感が大きく慌て言い訳を
すると
「エスメ様は手紙を良く出しておりますし、
1枚たりとも無駄になりませんので、無駄使いでは
ありませんよ」
言いたい事をフレディに先読みされてしまい、
「そうだけど」
言葉を濁し返事をすると
「では、購入された紙でディラン様にも手紙を
送るというのはいかがですか?」
返ってきた提案はディランと共に思い付きも
しかった事で互いに顔を見合わせると
「いただけたら嬉しいです」
少し照れも入りつつ微笑みながらのお願いに
「送るわ」
即返事を返したが、あまりのディランの可愛さに
真顔だったのは仕方ないと思って欲しい。
今日のディランは本当に可愛い。
学園に入る前、領にいた頃のディランの様で
可愛くて愛おしくて仕方がない。
買い物も楽しいけれど、ディランの可愛い姿が
見れることが楽しくて、次の店の到着を楽しみに
待った。




