親友は過去を思い出す
「おやすみなさいませ」
自分だけに向けられた夜の挨拶を受け取った後
自室に入り周りを見渡す。
筆頭貴族であり生まれる前から時期国王の婚約者
として決められていた公爵令嬢だった。
重心着く前から勉強にマナーが始まり、時折ある
休憩時間はメイド達から所作確認や本を読み知識を
蓄える時間で、休息は寝る時以外は中々取れなかった。
それが当たり前だと思い、
王妃になり国王を支え国民の生活を守り愛し慈しむ。
そして世継ぎを産み育て上げる事が己の使命なのだと
怒られた時、辛い時、悲しい時、苦しい時はそう
己を奮い立たせ、時に言い聞かせてきた。
殿下との関係も愛し合う事は無いが互いに認め合い、
お互いができない所、苦手な所は助け合う関係を
続けていればいつかは敬愛、友愛が芽生えると
信じていけど、
全ては自分の中だけの思い上がりだと知った。
異世界から聖女が降臨してから。
殿下は人が変わった様な行動をとる様になった。
殿下だければなく周りにいる貴族も教師も両親も
今まで接してきた人とはガラリと変わり、
生活を崩し、身を崩し、聖女へ狂酔していく。
男女関係なく変わってゆく姿は悍ましく、
なるほど。
黒を白に変えるという事かしら?
自分だけは冷静であれと律を正し心の中で
溢した言葉に苦笑いを溢した。
注意し、正しい事を言い、行動をしても
全て否定され批判される。
毎日が苦しく辛かったが、国を動かす王族と貴族が
そのままでではいずれ崩壊へしてしまう。
自分だけが取り残された世界で声を上げ行動する事は
焦り、不安、恐怖、孤独、
言葉が出なくなり、体が強張りもしたが止める訳には
行かなかった。
でも結果。
生まれ育った屋敷より小さくて部屋も3部屋しかない
このアパートメントに自分は居る。
敗北
生まれ育った国の人々はそう言っている。
でも、自分を信じてついてきてくれた人が1人居て、
手を差し伸べてくれた親友達が居る。
国にいた時は密かに憧れ焦がれた心から信じ頼れる
人達が居る。
素性を明かさない自分達を受け入れてくれ住処だけ
では無く職まで斡旋してくれた。
習い収得した学も手習いも活かせ人々を喜ばせる
事ができている。
勿論、監視を付けられている事はわかっているが
そんな事、気にならない程に息がしやすく楽しい
日々が送れている。
殿下も聖女と居る間はこんな気持ちだったのかしら?
筆頭貴族であり、殿下の婚約者で時期王妃。
社交界の華となり、見本である事を強制された身。
それがなくなった今、
とても身軽で動きやすく息がしやすい。
牽制、言葉の読み合い、派閥の関係
全身を張り詰めていた日々。
あがらえない力で戻れと言われれば戻り
昔の自分を演じる事はできるだろうけれど、
戻りたくない。
ここで、エスメさんの近くに身を置き
生涯を終えたいと願っている。
夜は駄目ね。
過去の事を思い出しても時間と己の心が疲弊して
いくだけだわ。
助けを求められても、弟に泣きつかれても、
過去に戻れると言われてもの頷く事は無いけれど。
自分の中で過去の事を片付けられている自分の
冷たさと冷酷さに小さく笑ったものの、
それだけ、今の生活をくれたエスメさん達が
大切なのよ。
送られてきた手紙の封を切りった。
残暑お見舞い申し上げます。暑い日が続く様です。ご自愛ください。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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