弟は役割をこなす
扉越しに聞こえるざわめきに訪問を知らせる
家令の声。
前回の夜会とは違い、今回は取引先の貴族や
工房の商品を贔屓しくれている貴族が集まり
大きな夜会。
純な気持ちでくる貴族はほんの一握りで、後は
姉様の事を探ろうとする貴族が殆どだろう。
誰も居ない部屋のソファで重々しい息を吐き出す。
夜会の会場はお父様とお母様に任せてればい良い。
自分はこの部屋から出ずにいれば良い。
様々なまだ起こっても居ない出来事が起こるのでは
と頭の中で思い浮かび、どの都度に心が軋む思いを
するが、
起こる前に思い浮かんが心配事は起こらないし
起こっても想像できるなら対処ができる。
姉様の声と共に思い浮かんだ言葉に、ざわめいていた
心を落ち着かせ、気分転換を図ろうとソファから
立ち上がり、本棚の横にある箒に視線を向けた後
前に立つと
「小箱?」
本と本の間に置かれた小箱を不思議に思いながら
手に取り蓋を開ければ、
様々な色が入った魔法石が入っており、
想像していなかった物に驚きつつも、そっと元の
位置に戻し、近くに並べられていた本を数冊抜き
取り先程座っていたソファに腰を下ろし、
表紙を捲った。
書かれている文字を目で追うと、どうやら
旅の記録のようで、その土地に住む人々や暮らし
風習などが書かれており、興味深く読んでいると
聞こえてきたノック音に、本を閉じソファから
立ち上がり警戒しつつ扉を見つめると
「フレディです。
入ってもよろしいでしょうか?」
聞き馴染んだ声と名前に短い返事で入室の許可を
出すと、ワゴンを引きながら姿を見せ、
「先程、宰相ご夫婦の長呼ばれ、夜会が始まりました」
普段聞かない小さな声で告げられた言葉に
無言で頷き、足を動かしソファに座れば、
差し出されたカップにはハーブティーが淹れられる。
互いに緊張をしているからが言葉少なくはあるも
数時間はこの部屋で過ごす事になる。
「フレディ」
顰めた声で名前を呼び視線でソファに座るように
告げると、困った様に微笑みながらも対面する形で
ソファに腰を下ろしたのを見届けた後、
「警備は?」
「ここに来る前に騎士団長へ尋ねた所、順調だと」
顰めた声での会話は続き
「父も私室のあるこの廊下には立ち入らせない様
配置をし目配りをしっかり行う様にと指示を出して
おります」
酔ったふり、迷ったふりなどをしてこの部屋に
続く廊下を歩かせない。
ましてやこの部屋に入らせる事は許さない。
一丸となって守る事を暗黙の了解とし
今宵、主催する夜会を開催している。
もし
万が一
こちらの目を掻い潜り、この部屋に辿り着いても
自分が対処すれば良い。
幸い、今夜の夜会は殿下を始め同じクラスの同級生は
参加をしていない。
その旨は招待状の返事にて言葉を添えられていたので
自分が夜会に顔を出す必要もない。
「無事に終わると良いが」
ポツリと溢れた自分の言葉は祈りの様に耳に届き
フレディが淹れてくれたハーブティーを一口飲み
喉を潤した。
数時間、耳に届くワルツの音楽に人々の話声、
使用人達が状況を確認し合う声。
様々な声や音が耳に届く中、読みかけだった本を
読むが文字だけを目が追っているだけで内容は
一切頭の中に入ってこず、それでも何かをして
いないと緊張で落ち着かない心と体をなんとか
諫るなか、
音楽が鳴り止み、30分殆ど立った事き気づき
フレディに視線を向けると頷き返され、
扉の前に立ち、外の様子を伺う姿に警戒心を
強めると何かを言い争う声が聞こえ、
いつでも対応ができる様に身構えるも
上手い事、この部屋に来る前に対処してくれた
様で声は遠くなり、聞こえなくなると体から
力を抜きソファの背もたれに身を預ける。
招待客が一斉に帰る時に迷ったふりを
したのだろう。
先程より警戒心が薄くなったと言え、
フレディは扉付近から離れる事は無く
できる限り、早めに全員の帰宅を願ったものの
「フレディさん」
扉越しに聞こえた馴染みのある声に、
フレディは扉を開ける事なく返事を返すと
「酔った客人のご一家の宿泊が決まりました」
聞こえてきた声に、無意識に握っていた手に
力を入れ、
「家令から今宵はこの部屋で過ごして欲しい。
との伝言を受けとっております」
こちらの返事を待たず、扉から人の気配が無くなり
フレディと目を合わせ、共に重々しいため息を落とす
まさか、姉様の部屋で一夜を過ごすことになるとは。




