姉、しんみりする
「まだ発熱もありますので薬を出しておきます」
昨日診察に来てくれた医者の言葉に頷き聞いていると
「お嬢様の腕も診るように仰せつかっておりますので検診をさせていただければと思います」
思いもよらない言葉に驚くも急ぎ羽織っていた上着を脱ぎ半袖のワンピースになり指示された通りに右腕を出す。
固定器具を外され、問診と触診が行われ
「順調に治っているかと」
告げられた言葉に部屋の雰囲気が安堵の色に変わり
「ですが今無理をして動かしてしまうとのちに痛みを感じる時もありますので現状維持でお願います」
告げられて言葉に糸が張ったような緊張感を感じた。
「現状維持ですか?」
雰囲気に押され恐る恐る質問をすると医者は何も感じていないかの様に
「今は折れ離れてしまった骨同士が引っ付く事を行なっていますのでしばらくは現状意地のままお願いします」
淡々と告げられる言葉を想像し
「分かりました。気をつけます」
頷き返事を返すと緊張していた雰囲気がほんの少しだけ緩んだのを感じた。
部屋の雰囲気になんとなく納得のできないながらも淑女として身に付けてきたマナーの微笑みで隠し部屋を出る医者にお礼を告げ扉を閉じられたのを目視で確認すると
「私だって静かに過ごすことぐらいはできるわ」
口を尖らせ不満げに言葉を溢すと
「王都での空を楽しそうに飛び、庭や屋敷を縦横無尽に駆け回っていた姉様の姿を見ていたものでつい時間を持て余しているのではないと」
申し訳ありません。
熱で潤んだ瞳と申し訳なさそいに眉を下げ告げてくるディランに、とんでもない我儘を言った気持ちが生まれ
「違うの。謝って欲しい訳じゃないのよ。ただ皆が心配してくれている事が分からなかった私が悪いの」
ごめんなさい。
膨らんだ気持ちが一気に萎み慌て謝りを入れると
「謝らないでください。僕はいつも笑顔で楽しそうに過ごしている姉様を見るのは息抜きになって好きだったのです。ですのでこちらでもその様に過ごしてただけると嬉しいです」
小さく笑いながら言われた事に嬉しく思うも
「ディランはいつも嬉しい事を言ってくれるけど、どこでそんな言葉覚えてくるの?お姉ちゃんは弟の将来が心配です」
少し恥ずかしくなりワザとらしくため息をついながら告げると
「ご心配をしていただきありがとうございます。ですが言って良い人物かいけない人物は判断できているつもりですのでご心配なく」
真面目な顔で言われるので頷くしか出来ず口を紡ぐと
「フレディ遅くなって申し訳ない。ゆっくり休んでくれ」
自分を通り越して向けられた視線を言われた言葉に体を動かし見れば少し離れた場所にフレディが控えており
「そうだったわ。遅くなってごめんなさい。この後は私に任せてゆっくり休んでね」
ディラン同様に自分達が勝手に喋り続けしまったことを謝り休みを促すと苦笑され
「お心使い感謝いたします」
左手を胸に当て腰を曲げ一礼をしたのち部屋を出ていくと今度は騎士団長が近くまで歩み寄り
「ディラン様、エスメ様にご報告がございます」
先程のフレディ同様に胸に手をあげ一礼した後に
「ディラン様の体調が優れぬ中、心苦しいのですが明日の明朝に王都へ戻る事になりました」
告げられた言葉に驚き言葉を返せないでいると
「そうだったな。僕が原因で滞在を長引かせて申し訳ない」
驚くこともなく返事を返すディランと騎士団長を見つめると、
「いいえ。かなり強行をした移動でございました。こちら側も配慮が足らず申し訳ありません」
騎士団長の表情が少し申し訳なさそうにすると
「そう指示をしたのは僕だ。気にしないでくれ」
次期当主としての顔を崩さないディランとの平行線の会話に
「騎士団長。明日、お見送りをさせていただいでもよろしいですか?」
ディランと騎士団長との間が空いた瞬間に口を挟むと
「身に余る光栄な事。ですがまだ体調も不安定な時期です。私の事は気にせずゆっくりお過ごしください」
ディランから視線を外し真っ直ぐ向けられ告げられるも
「ですが騎士団長には大変お世話になりましたので私ができるお礼をしたいのです」
向けられた視線を真っ直ぐに受け止め礼をしたいのだと言えば
「そのお心使いをいただける事が大変嬉しく思います」
どう言葉を作ろうと首を振る騎士団長に仕方なく
「分かりました。道中無事であることを心より祈っております」
微笑み別れの挨拶をすると
「王都に着いたら色々忙しいかと思うがよろしく頼む」
ディランの言葉が続き
「ディラン様もエスメ様もどうぞご健勝ご多幸で過ごされることを祈っております」
騎士の礼と共にくれた言葉に
「ありがとうございます」
淑女ではない素の微笑みで礼を告げ、
「期待に応え王都に戻れるよう精進すると誓う」
師弟との関係から何か課題を貰ったのかのような言葉にほんの少し羨ましく思うもそれを口出す事はせず見つめるだけにとどめ退出する騎士団長の背中を見送った。
「寂しくなるね」
ぽつり溢してしまった言葉に
「そうですね」
ディランの返事か返ると互いに話す事は無く時間だけが流れる。
お互い王都の屋敷より持ち込んだ本を開き読み進めると時折薪がはせる音が聞こえゆっくり流れる時間が心地良く本の読む進めて行く。
第51話
亀の様に遅いですが進んでおります。
ブックマークに評価や星を押していただき有難う御座います。
とても嬉しく思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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