弟は姉を労わる
「疲れているのに、ごめんね」
眉を下げ申し訳なさそうに自室に
入ってきた姉様に内心首を傾げつつ、
「いえ、まだ起きておりましたので
お気になさらず」
先程の疲れた姿など見せる事はせず
出迎え、ソフィに座る様にエスコートを
と手を差し出すも、
「これ、酸っぱいけれど疲れが取れるから
良かったら飲んで」
姉様の手にあるお盆に乗ったコップを
差し出されたので、
「ありがとうございます。
早速いただきますね」
コップを受け取りローテーブルに置いて
いる間にフレディが姉様から盆を受け取り
姉様をソファに座るように促してくれたが
一向に動かない姉様を不思議に思い見つめると
言いにくそうに視線を1度外された。
記憶にある限り、1度も視線を外された事は
無く、内心驚いていると
「今日の事、ごめんなさい」
頭を下げた後に告げられて言葉に、
「姉様、頭を上げてください」
慌て姉様の方を掴み頭を上げさせると、
「私がハーブティーを運ぶのはいけない事だと
分かっていたの。でも、皆、忙しくて」
フレディと共に懸念していた事が姉様の口から
伝えられ、
「部屋の扉前まで持って行き、後はフレディに
任せようと思ってはいたのだけど」
アメリア嬢の一言で部屋に入るしかなかった。
その言葉は声に出す事なく、言葉が切られ
「本当にごめんなさい」
今度は視線を合わせながらの謝罪に
「姉様が謝る事など1つもありません。
働いている皆を思い遣り、お気遣いいただいての
事、僕は嬉しく思います」
姉様の不の感情が消え去る様に姉様から
褒められる微笑みと共に告げると、まだ眉は下がった
ままだったが微笑み返してくださり、
今ならばと思ったその時、
「ディラン様、エスメ様。お疲れでしょうから
お座りになってください」
フレディの言葉に、
「さ、姉様も座りましょう」
便乗し、手に握りソファに誘導しつつ、
洗い物をしていたのか乾燥している触り心地に
気づかれないようにフレディに視線で指示を出し
ながら、長ソファに並ぶ様に腰を下ろし、
「姉様、今日はありがとうございました」
ハーブティーの調合もそうだが、新しい料理を
食べたいとの要望に叶えてくれた事へお礼を
伝えると下がっていた眉が少し上がり
「気に入って貰えて良かったわ」
ほっとした表情になり、
「あの初めて食べた料理は大変美味しくて
また、作ってくれますか?」
もうひと押しだと姉様の喜んでくれる言葉を
告げると、嬉しそうに笑ってくれ
「勿論よ」
何度でも作るから食べたくなったら言ってね。
ようやくいつもの姉様らしさが取り戻せ、
心の中で安堵の息を落としたら視界の端で
フレディも同じ様な表情をしており、
先程の姉様はフレディでも珍しいのか。
自分だけ知らなかった姉様では無かったことに
何故か安心感を感じたが、
「そう言えば、姉様がお持ちくださった飲み物を
果実水ではなさそうですか、これは?」
どこかいけいない気持ちになり誤魔化す様に
話をふると
「レモンの果汁に蜂蜜を加えたの。
そんなに酸っぱくは無いと思うけど」
疲れが軽くなると思うから飲んでみて。
そう説明されゆっくりと口をつけると、
レモンの酸っぱさは蜂蜜の甘さで強く感じる
事は無く、程良い酸っぱさと甘みで無意識に
飲み干してしまい、
「口にあって良かったわ。また作るね」
その姿を嬉しそうに笑ってくれた姉様の姿に
自分の行いを姉様が笑ってくれるならと許し
「とても飲みやすくて美味しかったです」
お心使いありがとうございます。
姉様からの思い遣りと優しさに改めてお礼を伝え
フレディが準備したハントクリームや化粧水を
受け取り、姉様の手を取り
「今日は洗い物をされていたと聞きました」
カサつきのある手にまずは化粧水を含ませ、
すかさずクリームで油分を補いつつ、
マッサージをする様に揉み込んでゆく。
少しつづふっくらとした肌触りが戻る中、
「ディランのお友達は素敵な子達ね」
優しい声と共に告げられた言葉に顔を上げると
慈しみと優しさと嬉しさが混ざった目と合い
「少し話に混ぜてもらえて嬉しかったわ」
離れようとする姉様を絶妙な間で引き留めた
殿下達を思い出しながら
「ええ。僕には勿体無い程に素敵な方々です」
複雑な気持ちになりがならも返事を返すと
「ディランが楽しそうで良かった」
意外な言葉に首を傾げると、
「気を張らず、自分を偽る事なく居られる
お友達で良かったなぁ。て、思ったの」
自分のことの様に嬉しそうに笑う姉様に
殿下方の関係を言葉にする事はでき無いので
返事を返せずにいると、
姉様の中で答えを見つけたらしく、
幼子を見る様に微笑ましそうに笑う姿に
恥ずかしくなり顔を下げ、ハンドマッサージに
集中した。
薔薇が花を咲かせ次々に蕾を綻ばせているのをみました。満開が楽しみです。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/
フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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