姉、領へ行く
「行ってくるね」
朝食を食べ食事休憩をディランの部屋で終え
昨日告げた通り領に居るお祖母様の元へ
行く為にソファから立ち上がり、部屋の真ん中へ
移動すると、同じ様にディランもソファから
立ち上がり、
「お気をつけて。お祖父様、お祖母様によろしく
お伝えください」
ディランの言葉に頷きフレディと共に見送りを
してくれる。
瞼を閉じ意識を集中させ、頭に思い浮かべるのは
領の使っていた自分の部屋。
嬉しかった事、楽しかった事、少し寂しかった事。
あの部屋で感じた沢山の出来事を思い出し、
部屋の記憶を鮮明にしてゆく。
今からこの部屋に行くのだと強く念じ、
自分が部屋に着いた想像を強めていくと、
あたかも今、その部屋にいる感覚になり
その感覚に従い意識を強めていく。
少しの浮遊感を感じた後、瞼を開ければ
そこは先程思い出していた領の自分の部屋で
周りを見ると誰もおらず、どうするべきかと
悩んだものの部屋から出て廊下を歩けば
「エスメ様?」
掃除道具を持った顔馴染みのメイドさんが立っており
「おはようございます」
挨拶をすると、数度瞬きをしたのち表情に驚きの
色が乗り始め、
「え、エスメ様が。奥様にお知らせしないと!」
今まで聞いた事の無い大きな声が廊下に響いたと
共にどこからともなく沢山の足音と姿が現れ
「エスメ様?」
「旦那様と奥様にお知らせを!」
「イルさんに報告してきます」
様々な驚き声を言葉が飛び交う姿を見ていると
申し訳ない気持ちと罪悪感がじんわりと心の中に
生まれ、
「あ、あの。私が自分で」
それぞれの仕事の手を止めてしまった事に
気がつき自分でお祖母様の部屋へ行くと
伝えたかったが、
「エスメ様、お久しぶりです」
低く穏やかな声で呼ばれ視線を向ければ
「イルさん。お久しぶりです」
屋敷を取り仕切っているイルさんから
一礼をいただき、
「お元気そうで安心いたしました」
やわからく微笑みながらの気遣いの言葉に
「ありがとうございます。ディランもフレディも
皆、元気に過ごしております」
微笑み返事を返すと、ほんの少し目を細め
何か眩しい物を見る様な表情をしたが
「生憎、旦那様も奥様もお出かけになっており
屋敷にはわたくしどもしかおりません」
祖父母の不在を知らされ、出直すべきかと
思ったものの、
「実は、欲しい物がありまして」
今度いつ来れるか分からないので、相談だけ
でもできたらと話を切り出すと、
「お話は、部屋でお聞きさせていただきます」
こちらへ。
促されイルさんの背中を見ながら、
確かに廊下で話すのは失礼だったわね。
自分の行動に反省しつつ案内された部屋に入り
ソファに腰を下ろせば、すぐさま香りの良い
紅茶と菓子が置かれ
「ありがとうございます。いただきます」
給餌をしてくれたメイドさんにお礼を伝え、
紅茶を一口飲み季節の話やこの1年学園での
話を軽くした後、
「実は、スパイスが欲しくてお願いに来ました」
本題を切り出すと、
「スパイスと言っても様々な物がございますが、
ご希望の物はどの様なもので?」
穏やかなに話を聞いてたイルさんは真剣な表情で
尋ねてくれたので、自分の表情を引き締め
「生姜にシナモン、胡椒が欲しいです」
「かしこまりました。直ぐにご準備いたします」
頷き、その後壁に側に控えていた従者の1人に
指示を出したかと思うと彼は部屋を出て行き
数分後には
「こちらでお間違いございませんでしょうか?」
先程告げたスパイスが揃っており、
「こんなに沢山いただいても良いのですか?」
小山と言える程の量に驚き尋ねれば
「勿論でございます。足りないい様でしたら
増やす事もできますが」
帰ってきた言葉に驚きつつも、ならばと
生姜とシナモンを少し増やして貰い、
「かしこまりました。ご準備いたします」
ルイさんの言葉に
「急な事なのに沢山いただきありがとうございます」
お礼とお供に少し頭を下げると、
「エスメ様なら近い内に興味を持たれるだろうと
奥様が手配をしておりました」
間に合って良かったです。
お祖母様の気遣いと先読みの行動を微笑みながらの
教えてくれたイルさんの言葉に、嬉しく思いつつ
「お祖母様へお礼と感謝を伝えてください」
ここには居ないお祖母様へ伝言を頼むと
「かしこまりました」
深く頷いてくれ、持ち帰り準備が整うまで
イルさんと雑談をし春の祭りの出来事や2つの工房の
手紙では分からない細かな出来事などを聞いていると
あっという間に日が傾き出し、
「今日はありがとうございました」
両手に沢山のスパイスを持ち見送りをしてくれる
イルさんにお礼を伝えると、
「こちらの事はお気にせず、いつでもお越しください」
嬉しい言葉が貰えたので
「明日、来てしまうかもしれませんよ?」
悪戯心で伝えると
「毎日来ていただいても構いませんよ」
にっこりと微笑み返ってきた言葉に、驚きつつも
気にせずいつでも来て良いのだと伝えてくれる
イルさんの気持ちが嬉しくて
「ありがとう。また来ます」
「心よりお待ちしております」
胸に手を当て腰を折った礼を貰い、行きと同様に
意識と王都の自分の部屋に集中させスパイスを
落とさない様に腕に力を込め帰った。




