姉、感謝を伝える
体の芯まで冷え切っていた様でマルチダが準備を
整えてくれたお風呂に入ると、じんと痺れる様な
感覚の後、全身に入っていた力をゆっくりと抜き
手足を伸ばした。
湯気の立つ入浴室に柑橘の匂いが広がる。
「良い匂い」
「柑橘の皮を乾燥させた物を入れております」
髪を洗ってくれているマルチダの言葉が返った事で、
無意識に言葉を溢した事に気付き、
「お風呂から出たら体から良い匂いがしそう」
小さく笑いつつ会話を繋げると
「香水より匂いは薄いですがエスメ様のお好みの
匂いの量にはなるかと思います」
自分が強い匂いが苦手だと知っているマルチダの言葉に
「出た時に楽しみね」
良い匂いを纏う自分を楽しみだと告げるとマルチダは
頷で返事を返してくれた。
物心つく前から自分についてくれているマルチダは
私の好みを知り尽くしているし、私もマルチダの考えている事
は大方分かると思っている。
親しき仲にも礼儀あり。
この言葉を対応で示しているマルチダと自分の関係。
「ねぇ、マルチダ」
髪を洗われ頭皮のマッサージをしてくれているマルチダに
呼びかけると、はい。と返事を返してくれ
「ありがとう」
今までの事を思い出し、心の中に浮かんだ言葉を飾らず伝えると
はつりと瞬いた後、
「勿体無いお言葉です」
ほんの少しだけ口角が上がったのを見て、嬉しくなり
「明日はディランとルイと3人で登校するのだし、
せっかくだし朝食を作ろうかしら?」
思いついた事を提案してみるが
「奥様から許可降りないかと思います」
先程まで小さく微笑んでいたマルチダの表情はあっという間に
元に戻っており、冷静な判断が告げられ
「そっかぁ。せっかくのルイも居るのに」
自分の中でもどこかで分かっていた答えが返ってきたが、
残念な気持ちはこぼれ落ちてしまうと、
「ルイとは度々一緒に登校ができますので、事前に奥様にお話を
してみてはよろしいかと」
「そうね、まだ2年あるのだもの。機会はあるわね」
突拍子の無い自分の考えも冷静に判断し助言をくれた
マルチダに頷き返し、ルイと予定を合わせる事とお母様に
キッチンの使用の許可を取る事を頭の中にメモをし
お風呂から出て、着替えた後
「髪、伸びたなぁ」
ドレッサーの椅子に座り、マルチダが丁寧に櫛を通してくれる
髪を鏡越しから見て普段気が付かない事に気付き
少し切った方がいいかしら?
領から王都へと帰ってきてからは毎日マルチダに手入れを
してくれ艶もあり手触りも良くなった。
惜しむ気持ちはあるが少し長過ぎる様な気もする。
腰に付かんばかりの毛先をじっくり見つめていると、
「毛先を整えますか?」
マルチダの声に鏡越しに視線を合わせ
「そうね。明日以降にお願いするわ」
「かしこまりました」
目礼を鏡越しに貰った後は髪を軽く結ってくれ
ソファに座る様に誘導後、ハーブティーを差し出してくれた。
ディランとフレディの様な気安い主従関係とは違い、
自分とマルチダはしっかりと線引きがされてる。
ディランとフレディの関係が羨ましいと思った時もあったけど
「公爵家に生まれお育ちになるエスメ様の為でございます」
そう、マルチだから教えられてしまえば当時は納得するしかなくて
不満はあったけれど、今はこれが自分達だけの関係だと思え、
少し特別な関係を大切だと思っている。
自分が話しかけなければほぼ声を聴かせてくれないマルチダとの
無音の空間はとても居心地が良く、つい落ち着きこのままの時間を
満喫したくなるが
そろそろ晩餐に時間かしら?
これからディランの部屋で行われるルイも交えた楽しい時間に
思いを馳せた。
第441話
更新ができず大変申し訳ございません。
先日、駐車中に後ろからドンといただき心身の疲弊で書く事がで行えませんでした。
深くお詫び申し上げます。
本日から再び更新を行なってゆきますので、お時間ありましたら
お足を運んでしただければ幸いです。
ブッマークや評価、いいねボタンをいただき誠にありがとうございます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/
フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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