姉、旅を終える
中々寝付けなくて何度も寝返りをし、寝ては起きを繰り返し空が明るくなってきた頃にはベットで横になっている事に飽き、ソファーに腰を下ろし持ち込んだ本を開いた。
何度も読み返した冒険記。
他国へと渡り様々な人達と触れ合いその国の思想や文化また語学の事も書かれており何度読んでも好奇心と高揚感が胸を支配する。
いつかは自分も。
そう夢見がちな思いに駆られつつページを読み進めていればノックの音が聞こえ返事をするとフレディが姿を見せ、
「おはようございます」
従者らしく控えめな笑みと挨拶に
「おはようフレディ」
にっこり笑って返すとゆっくりとこちらに歩み寄り、
「眠れなかったのですか?」
眉を下げ心配そうな声に
「お祖父様とお祖母様に会えるのが楽しみで眠れなかったの」
小さく首を振り返事を返すも、絨毯に膝を付き左の手袋を取り
「失礼します」
断りの言葉の後に額に左手を当てられしばらく触れたまま
「熱はない様ですね」
ゆっくり離され言われた言葉に微笑み
「良かった」
安堵の息と主に言葉を溢せば
「ただ寝ていない事が気になりますが」
少し眉間に皺を寄せながらの言葉に
「馬車の中眠くなったらディランに言って寝かせてもらう様にするね」
いつもの様に眠くなったら寝ると告げると従者の顔に戻り
「ディラン様にお伝えてしておきます」
では、朝の支度をいたしますので。と言葉を告げ一礼し部屋を出て行く。
長かった旅も今日で終わる。
名残惜しいて様な寂しい気持ちと祖父母に会える嬉しさと高揚感に胸を踊ろされいると再びノックが聞こえ返事をし騎士団長とメイドが姿を表す。
「おはようございます」
両名から挨拶を貰い、
「おはようございます、今日もお願いします」
淑女らしく微笑みながら返事を返すと、メイドに案内されドレッサーに座り温かい布で顔を拭いて貰う。
その後、色々顔に塗って貰いバスルームへ移動し着替えを行う。
動かし難い右手を庇いつつなんとかワンピースに着替え再びドレッサーの椅子に座り髪を結って貰い朝の準備は終了となる。
準備をしている間にテーブルと椅子が準備され、ソファーに置かれた紅茶を飲んでいるとノックが聞こえるが騎士団長が対応してくれるのでティーカップをソーサーに戻し顔を上げるとディランとフレディで、
「おはようディラン」
立ち上がり笑顔で出迎えと挨拶を行うと
「おはようございます」
紳士として貴族の挨拶は旅中で見慣れた光景だがどうしても慣れず耐えきれず小さく笑ってしまう。
ディランも私の反応に慣れたのか何事も無いように振る舞い手を伸ばしてくれるので、手を取り朝食を取るテーブルまでエスコートをしてくれた。
ディランが引いてくれた椅子に座り、フレディが引いた椅子にディランが座ると朝食が始まる。
この領では食事は手掴みで食べるのがマナーらしくパンとお肉に魚は掴みやすい様に小さく切られている。
話は馬車の中でディランから聞いていたが1人での晩餐の席で少し驚くもすぐに表情を微笑みに変え、
注意するようにと聞いていたフィンガーボールも上手く扱う事ができた。
同じ国でも領が違うだけで様々な生活とマナーがありとても楽しかった。
それも終わるのかと思うと名残惜しくなる。
「姉様。食事が進んでしませんがどうかいたしましたか?」
少し硬くなった声に
「旅が終わってしまうのが名残惜しくて」
小さくため息を落としながら返事を返すば、
「この旅は楽しかったですか?」
頷きと共に返ってきた言葉に
「楽しかったわ。色々な領にも行けて街の雰囲気も知れたし名物の食べ物はどこも美味しかったもの」
笑顔で返すと
「それは何よりです」
小さく笑い返事を返してくれた。
少し多い朝食をいただきゆっくりと一息ついてから出発となった。
見送りに来てくれた領主にディランが挨拶を交わし、ディランのエスコートで馬車に乗り込めば出発の合図と共に馬車が動き出す。
ゆっくり流れる景色は街から離れば麦畑が広がり小さく見えていた山々が大きく見えだす。
少し、ほんの少しだけお兄さんやお爺さんがいた村に似ているかも。
街道沿いにある村を通る度に思い出す人物に少し寂しさを感じたが元気で過ごしていると言うお父様の言葉を信じいつか会いに行けたらと心の中で思う。
「あれ?」
しんみりとした気分で窓の外を眺めていると、馬車に向かって手を振っている人々が視界に入り驚き声を零すとディランも声に釣られ窓を見ると
「ああ。領民が手を振ってくれているのですよ」
嬉しそうに笑い手を振り返すので釣られるように手を振ってみた。
馬車が進むにつれ遠い畑の中からだった人達が街道沿いまで出てきて手を振ってくれるので微笑みながらも心の中で驚きと戸惑った。
伺う様にチラリとディランを見ると、何も思っていない様に反対側の人達に手を振っていので真似て微笑みながら手を振り続ける。
まさか数時間も手を振り続ける事になるとはこの時は思わず、顔の筋肉と左腕が震え出しており限界に近く
震えているのか手を振っているのか分からなくなってきた頃ようやく屋敷に到着したと騎士団長の言葉に背中に入っていた力を抜き背もたれに凭れた。
「お疲れ様です」
苦笑と共に告げられた労りの言葉にディランを見れば疲れなどないかの様に背筋を伸ばしており恨みがましく見れば、
「鍛え方が違います、と言いたい所ですが僕は両手を使っていましたので」
苦笑と共に言われた言葉に納得し上がらなくなってしまった左腕を摩り震えを止めようとするも
「お出迎えに参りました」
初めて聞く男性の声に驚き背筋を伸ばしドアの方に視線を向ければ、フレディが立ち上がりドアを開けると知らない空気が馬車の中を満たす。
着いたんだ。
道中、何度も繰り返しディランかた教えてくれた自領についての言葉が思い出される。
初めての訪れ、初めて過ごす場所。
初めて会うお祖父様とお祖母様。
どんな方かしら。
お父様のお父様とお母様。
お父様に似ているのかな?
初めて聞く声の人物とフレディの挨拶を聞いている内に緊張は始まり、心臓の音が大きく鳴り出す。
「姉様」
音のない言葉で呼びかけてくれディランが先におり、見慣れた手が差し出されるのが見え大きく深呼吸をした後立ち上がり、差し出されている手の上に手を乗せ馬車から降りる。
視界には初老の黒い服を着た男性が立っており、胸に手を当て腰を折り
「王都よりの長旅さぞお疲れになりましたでしょう。私は家令を勤めさせていただいておりますイルと申します」
「出迎えありがとう。僕はディランそして姉のエスメだ。今日から何かと迷惑をかけるがよろしく頼む」
いつものように代表してディランが挨拶をしてくれるのを横で淑女らしく微笑みながら眺めるもディランから視線を受け
「姉のエスメです。今日からよろしくお願いします」
道中しなかった自己紹介を初めて自分の口から行うとさらに緊張が増しどこか淑女として間違っていないか不安になってくるも、
「何かお困りの事があまりしたらご遠慮なくお申し付けくださいませ」
微笑ましそうな優しい雰囲気と言葉に頷き返すと家令のイルが横に移動をすると初老の男女が立っており
「良く帰って来てくれた」
男性の声がお父様の声とよく似ており
「会えて嬉しいわ」
微笑んだ表情かお父様に似ておりこの人達が祖父母なのだと理解できた。
「はじまして。嫡子のディランと申します」
胸に手を当て腰を折るディランから不自然にならないように手を離し、左手のみスカートを摘み上げ
「不作法をお許し下さい。長女のエスメと申します」
片足を後ろに引き、もう片方の膝を曲げカーテシーをし挨拶を行う。
右腕は固定をしているため動かす事ができず片手のみスカートを掴み上げた非礼を詫びつつになったがどうにか形はできたことに心の中で安堵の息をついた。
「楽にしなさい。道中の事は報告受けている無事で何よりだ」
お祖父様の言葉に2人同時に挨拶の型を時顔を上げると
「いつまでも外にいては怪我に障るわ。中に入りましょう」
お祖母様の言葉に家令が動き扉を開け祖父母を先頭にディランのエスコートで中に入れは、
「お帰りなさいませ」
全使用人から頭を下げられ挨拶を受けた。
「私達の愛する孫の帰りだ。皆盛大に祝ってくれ」
お祖父様の声に使用人が一斉に動き出し
「さ、まずは荷解きと着替えね」
お祖母様の言葉にメイド動き案内をされ自室となる部屋へ入る。
日差しが柔らかく入った部屋に入り、お風呂介助と着替えに髪の結い直しを受けソファーに座り一息つく事ができた。
今日からこの部屋で生活が始まるのね。
見慣れない風景と雰囲気にこっそりため息を落とし用意された紅茶を一口飲み込んだ。
第44話
ようやく到着しました。長くてすみません。
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大変嬉しく思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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