弟は姉の為に動く
2回目のピクニックなのだと嬉しそうに笑い張り切って
出かけて行った姉様を見送り、
「こちらで失礼いたします」
玄関を潜ったと同時に聞こえたマルチダの言葉に頷き
「ありがとう。流石の手腕だった。夜からも姉様を頼む」
前日からキッチンへ入り時間の限界まで釜の前でスコーンを
焼いていた姉様を入浴から身支度まで済ませ、朝食からの見送りまで
遅れる事なく送り出したマルチダの手腕に感謝の気持ちを伝えると、
見本と評される乱れの無く腰を折り礼と共に
「ありがとうございます」
礼の言葉が返り、顔を上げた後は自分の持ち場へ戻って行く背中を
見送り、
「この後はエスメ様の寝室のご準備などをされるのだと思います」
フレディの言葉に視線で頷き、
「昼食までに仕事を終わらそうと思う」
玄関ホールを抜け自室へと向かう為に階段を登りながらの言葉は
休憩は取らずに仕事を続けるとの意味を込め伝えると
「かしこまりました」
フレディは頷き、言葉の中に込めた意味を汲み取ってくれ、
自室に戻った後はそのまま机に向かい、フレディと共に
生活魔法道具の販売経過や実績に王都にて紙刺繍の販売店の
候補地に販売経路などを書類を済ませ、
気分を切り替えるために深呼吸をしたのち、
姉様の日頃の行動報告書を書き上げてゆく。
学園に行き始めてからは自分の目の届かない時間が増え
陛下の偵察部隊である目からの報告書が日に日に枚数が
増えている事に、心の中で首を傾げる。
授業を受けているはずなのに、報告が増える事があるのか?
事細かく書かれている報告書に思わず顔を顰めるが、
息を吐き出すことで感情を抑え込み、書かれている文字を
読み込んでゆく。
休憩時間や昼食などの会話やノートに書いている落書きなど
事細かな記入に、
どうやらこの報告書を書いた者は姉様の事をずいぶん
警戒しているのだな。
独断で連れ去られはしたもののそれからは大人しくしている
姉様のどこを危険と判断したかは分からないが、
公私ははっきり分けて貰わないとな困るのだか。
物申したいが、陛下のみが指示を出し従わせている特殊部隊。
もしかすると陛下が指示した可能性もあるのか。
行き着いた答えに目を閉じ、蠢く感情を鎮めようとしていると
「ディラン様、いかがされましたか?」
隣で書類の仕分けをしてくれていたフレディの声に閉じていた
瞼を開け、
「いや、姉様が楽しそうだったと報告書に記載があって」
行き着いた答えを言葉にする事は反意ありととられる訳には
いかず、適当な言葉で返すと、
「ああ、その書類ですね」
椅子から立ち上がり隣に立ち、手元の書類に視線を落とした
フレディの言葉に頷くと
「エスメ様の行動が手に取るように分かりますよね」
どうやらフレディも自分と同じ気持ちだっただと思ったが
「場所によっては配慮して欲しいのが希望です」
続けられた言葉は怒りを含んでおり、確かにその通りなので
「そうだな」
言葉と共に頷くことで返し、
「そろそろ、昼食に行くか」
気分転換も兼ね少し早いが提案をすれば、にっこりと微笑まれ
「かしこまりました」
その言葉の後フレディは敷物を持ち、自分は姉様からの2人分の
お弁当を持ち庭へと向かって自室を出て歩き出した。
寒さを感じるが日差しがあれば暖かな陽気に、季節の移ろいを感じ
「エスメ様は公園でお喋りを楽しんでる頃ですね」
フレディが引いてくれた敷物の上に腰を下ろしバスケットから
蜜蝋が塗られた紙に包まれたサンドイッチを取り出しつつ
「そうだな。公爵家の公園だスノードロップを始めウィンタージェムの
花々を楽しんでいるだろう」
初回のピクニックはよほど楽しかったらしく笑顔で話した人物に内容、
との時に見た花など嬉しそうに身振り手振りで教えてくれたのを思い出し
ながら返事を返すと、
「アメリア様の公園ですよね?素敵なウィンターガーデンなのでしょうね」
行った事の無い場所に思いを馳せるフレディに
「アメリア嬢ではなく公爵家の公園だ」
誤解が無い様に訂正を入れれば
「ですが、話題のダリオルを売るカフェはアメリア様の店」
もう、アメリア様の運営と言っていいのでは?
そう意味を込め含ませてきた言葉に訂正する様に視線を強め返せば
「出過ぎたことを言いました」
すぐに謝罪は入ったものの、自分達についている目から報告される
だろうと思うと、気が重くなりつつも姉様からのサンドイッチを食べようと
紙を開けるとローストビーフが沢山挟まれた2つのサンドイッチが出てきて
驚きすぎて言葉を失う中
「さすがエスメ様ですね」
手に持ちやすく数枚のローストビーフを挟むのが基本とされる中、
その数十倍のローストビーフの枚数に、フレディも驚き思わず言葉を溢した様で
互いに数十秒ほど沈黙した後、
「せっかくだ。いただこう」
どう考えても大きな口を開けて食べなければならない事に覚悟を決め
食べる事を促した後、1口齧り付くと肉肉しい味が口の中で広がり
「食べ応えがあり美味しいですね」
大きく口を開けることに抵抗がないのかフレディはすぐに2口目へと進め
る姿に、習う様に食べ進めた。
残す事なく食べ終えるとお腹も膨らみとても充実感が広がり、
姉様に改めてお礼を言わなければ。
マナーには欠けるが、とても食べ応えがありまた食べたいと思える程
気に入ってしまっていると、
「ディラン様。とても幸せそうなお顔をしている中、大変申し訳のですが
ご報告させていただきたい事がございます」
改めて告げられた事に、表情を引き締め頷くと
「以前、ご依頼がございました彼の報告が纏まりました」
小さな声で、あまり唇を動かさず告げられた言葉に身を引き締め
聞く体制に入った。




