姉、1回目のピクニックに行く
楽しい計画と準備をしていると時間はあっという間に過ぎ、
クラスメイトとの1回目のピクニックの日となった。
計画を立てたその日にお母様へ手紙を書きキッチン使用の
許可を貰いピクニック前日から仕込む為にクックにお願いをし
1人で仕込みをし、いつもより早く起き誰も居ないキッチンの
釜に火を入れ、井戸から水を汲み、前日に仕込んだスコーンを
焼いてゆく。
今回のスコーンは酵母で発酵させたスコーンなので時間が
どうしてもかかってしまうのが難点だが、
ざくざくとした食感で食べ応えのあるスコーンはとても美味しく
ディランもフレディもお父様もお母様も屋敷で働く皆からも
好評をいただいているので自信を持って、手土産にできるし
時間はかかるけれど、誰にでも作れる材料なので作り方を聞かれても
答える事ができる。
1人2つと考えると中々の量になるが、釜を全部使って焼けば
数回で終わるはずなので、手伝いは不要とクック長には伝えてある。
自分以外いないキッチンは久しぶりで、高揚する気持ちの中
火加減を見ながら薪を調整しつつスコーンを焼いてゆく。
焼き終えた頃にはキッチンは汗が出るほどに暑くなっており
「入浴の準備はできております」
キッチンへやってきたマルチダの言葉と共に自室へ連れて行かれ
焼き上がったスコーンを冷ましている間に入浴を終え、身なりを整え
終われば部屋には熱がとれたスコーンが運ばれ、
「エスメ様、あまりお時間がありません」
その言葉にマルチダに手伝をお願いし、様子を見に来てくれた
ディランとフレディにも手伝って貰い予定の時間内に終わらせる事が
できた。
「みんな、ありがとう」
葡萄の枝で編み上げた2つのバスケットの1つに入れながら
お礼を伝えると
「お役に立てて良かったです」
ディランの優しい言葉に改めてお礼を伝え、軽めの朝食をいただき
見送りに来てくれたディランの手を借り馬車に乗り込み、
「行ってきます!」
ディランとフレディにマルチダと見送ってくれた3人に手を振り
待ち合わせ場所の公園へ向かった。
初めて見る公園の入り口は寒い中でも人がおり、楽しそうに話す
声も聞こえ、まだ誰も来ていない待ち合わせ場所である公園の
入り口に立っているだけでも楽しく、
チラリと公園を覗くとスノードロップの白い花が目に入り、
楽しませてくれる。
少し遠い場所には黄色い花が咲いている様で、早く散策してみたくて
視線を彷徨わせていると、
「エスメさん」
「お待たせしてしまい、すみません」
2人のクラスメイトが小走りでやって来たので
「気にしないで。私が楽しみすぎて待っていられなかったの」
少し息を切らせやって来た2人にそう伝えると、顔を見合わせた後
「私達も楽しみで早く来てしまったのです」
恥ずかしそうに微笑む2人に
「私と一緒ね」
同じ様に笑い合っていると次々にクラスメイトが集まり、
「エスメさん、皆さん。おはようござます」
マリーもやってきて全員集まったのでそれぞれに会話をしながら
公園の中へと足を進めて行く。
マリーとは離れて歩き、近くに居るクラスメイトと会話を楽しみながら
足元に咲く黄色い水仙や頭の上に咲く蝋梅も開花しており、
時に歓声を上げ足を止めながら公園内を歩いてゆく。
「エスメさんの襟の刺繍はいつ見ても素敵ですね」
今回は知らない間にマルチダが用意してくれており言われるまま身につけた
白色のブラウスの袖にはミモザの刺繍がされており、
「ありがとう。領のお針子さんが刺してくれるのよ」
お礼と共に製作者の事を話すと
「確か、紙刺繍の生産地でしたよね」
「1枚は欲しいと皆、憧れております」
「薔薇の刺繍が入ったメッセージカードを送られたいなぁ」
周りからの言葉に、微笑みながらも
まだまだ生産が追いつかず貴族中心でしか手に入らないのは
心苦しいわね。
クラスメイトの夢を叶えてやりたいと思うもどうしても手作業の為、
数も少なく、高級品として扱われており
「高級だけど紙刺繍をプロポーズに貰えたら嬉しいわよねぇ」
そこか浮き足立っている言葉だが、作品を作る良い案も貰えたので
帰ったらミランダに手紙を書いて伝えよう。
そう決めながらクラスメイトの話に耳を傾け、恋愛の話や仕事の話
と話題は尽きる事なく、昼食を取る場所へと到着しそれぞれが
お弁当を広げる中
しまった。お弁当のことをすっかり忘れてた。
スコーンの事しか考えておらずお弁当を作り忘れてしまったものの、
自分のスコーンがあるから良いかと思い、
「実はね、皆にスコーンを作ってきたの。良かったら貰って欲しいわ」
予定より少し早いけれど皆に気を使わせるよりか良いだろうと、
1人1人に配ってゆくとバスケットの奥から包み紙が出てきて、
首を傾げながら開ければ、ローストビーフが挟まれたサンドイッチが
出て来て、
ディランかしら?
フレディかも?
いや、マルチダかもしれないわ。
帰ったらお礼を言わないとね。
3人の行動と気持ちに心の中でお礼を言いつつ、全員で弁当を食べ
そのまま、会話を楽しんでいると黒服を着た中年男性とメイド服を着た
女性数人がこちらに向かって歩いてくるのが見え、皆が緊張する中
年長者として立ち上がり、数歩前に出て
「こんにちは。何か誤用でしょうか」
先頭に立つ黒服の中年男性に声をかければ、
「公爵令嬢様より皆様へお配りするようにと仰せつかりまいりました」
その言葉にマリーを見ると首を振ったので
「申し訳ありませんが、人間違えではありませんか?」
失礼にならない様に言葉を選び帰ってもらおうとしたが、
「いいえ。王立学園の平民クラスの皆様がピクニックをしているので
差し入れを。と、申しつかっております」
改めて告げられた言葉は自分たちの事で、
「失礼ですがアメリア様からですか?」
男性だけに聞こえる様に小さな声で尋ねるとにっこり微笑んでくれ
答えてくれたので、
「私たちの事で間違いはありません。せっかくのご好意ですし
皆でいただきます」
いつもの声量に戻し伝えると、メイド服を着た女性が一斉に動き出し
カップに紅茶を淹れてくれダリオル手渡してくれた。
突然の事に皆が喜びの声と感謝言葉をメイド服の女性に伝えると、
微笑み返してくれ、給餌役までかって出てくれ、
「公爵令嬢様にお礼を伝えたいのですが」
日にちなどを取りまとめてくれた彼女の言葉に皆が一斉に頷き、
黒服の男性を見つめると、頷き言葉を促しくれたので、
「お心使い感謝しております。ダリオルが流行る事を楽しみにております」
代表として伝えてくれた言葉に少し引っかかったものの、
黒服の男性はにっこりと笑い
「お伝えさせていただきます」
そう言ってくれた事に心の中で安堵の息を落とした。
その後も紅茶の給餌などをしてくれ、最初は申し訳なく思っていた
クラスメイトも最後の方は女性達とも仲良くなっており、私が渡した
スコーンをお礼として渡したりと仲を深めたようで、
楽しくピクニックを終える事ができ、皆を見送った後
待ってくれていた馬車に乗り込み屋敷へと戻った。
第430話
あまりの寒さに電気毛布と炬燵を出しました。寒さを乗り切っていきたいと思います。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/
フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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