父は子供の成長を嬉しく思う
夜も更け、日中は絶え間なく人が到来し誰もが己の仕事の為に働くこの場所も
今ではひっそりと静まり返り足音1つが響く程の大きく聞こえてくる静寂の中、
「以上が、昨日までの報告になります」
小さな部屋に集まり蝋燭が揺れる中、直前まで考え抜き選び取った言葉で
報告を終えれば
「まずは、何事もなく過ごされている様子で良かったです」
隣に座っている宰相様のお言葉に礼を告げると、
「入学式の件は様子を見る事にしたと聞いたが、隣国の事もあるからなぁ」
斜め前に座る騎士団長の言葉に小さく頷き
「注意する様にと送られてきた手紙には書かれておりました」
この事がきっかけで我が領に来た本人から娘に宛てた手紙の一部を伝えると
「その隣国も世論を操作し表面上はうまく収めているものの
内部の均等は綻びを見せております。交代時に大きく動きを見せるかと」
宰相様とは逆隣に座る外交官長からの言葉に眉を顰めると
「現時点ではご息女には影響は無いとは思いますが、愛しんでいる彼に
害があると判断すれば動くでしょうから注意はするべきでしょうね」
騎士団長の隣に座る魔術長の言葉にため息を落としそうになるグッと堪えた。
エスメは自分の事には無頓着すぎるがディランの事になれば素早く動いてみせる。
殿下達とディランのお茶会の時の様に、奥の人の目を掻い潜り当人達に会いに行くし
さらり好感度も上げてしまう人たらしの為に相手に好印象与えやすい。
自分の為かと思い観察すれば最終的にディランへと縁を繋ぐ動きで思わず
「エスメはディランの事しか考えてないのだろうね」
妻であるリリーに伝えると
「多分エスメは思いついで動いただけで何も考えていませんわ」
困った様に微笑み返ってきた言葉に首を傾げると
「旦那様と義理お父様と良く似ておりますもの」
さらに帰って来た言葉は嬉しい気持ちと複雑な気持ちが混ざり合い
会話を終えた事を思い出し体の中に重い息を落とすと、
「警戒せよと話はした後は本人がなんとかするだろう」
俺よりも奥まった席に座る国王様の言葉に全員が頷き返す。
自分達親が口煩くしても度が過ぎれば煩わしくなり反抗心が生まれ
好奇心が出てしまうのは悪手。
程々の距離を取りつつ見守り、
当人達はどう考え対処をするのかを見守るしかない。
学園の内に様々な成功と失敗の経験し回数をこなさなければ貴族社会で
無事に生き抜くことはできない。
特に高位貴族となれば小さな事で噂の的になり真実を歪められ噂されれば
どれが本当か分からなくなり真実が消えてしまう。
ギリギリと痛み出した胃にそっと手を当てると気遣いの視線を両隣からいただき
慌て背筋を伸ばし腹を撫ぜた手を膝の上に置いた。
「それと、校舎裏の件はご息女はなんと?」
魔術師長からの質問に、眉間に皺をよせ
「本人はなるべく人目につきにく居場所で貴族と平民の身分の事を
心配してくれたのだと言っております」
エスメから直接告げられた事を伝えると、魔術師長ににっこり微笑まれ
「さすがおおらかでいらっしゃる」
鈍い自分でも言葉と感情が真逆だと分かる程の言葉と態度に
「はい。ディランがそうでは無いのだと説明したのですが、当人は
貴族と平民に差がるのは当たり前でそこを自分が怠ったのだから。と、申しまして」
背中に冷や汗を流しながら伝えると
「両者の意見は合っておりますし、ご息女が良い方向に捉えてくれたなら
こちらは何もいう事はありません」
宰相様からの助けに
「そうですね。女性社会には女性特有のルールもある。
大事にならず良かったと思うべきですね」
外交官長の言葉に心の中で礼を伝え、
エスメから付け加えられた
「もっと彼女達からディランの事を聞きたかったのに」
と、こぼされた本音は目からの書面で報告はされているであろうが
絶対に口にしないと決意していると
「なんにせよ、ご子息も対応したんだこれから呼び出される事は無いだろう」
家名と爵位で無いものとしたディランの対応は賛否あれど
これも成功と失敗の経験の1つとして咎める事はしなかった。
ディランなりにエスメを守ったのだ。
悪手だったかもしれないが動けた事を褒め、次回は違う方向で収める方法を
考えようと告げある。
フレディと相談し合い成長してくれれば思う。
成長してゆく子供達を見るのは驚きもあり誇らしくもあり寂しくもある。
いずれ自分達夫婦の庇護から離れてゆくのだろう。
ぼんやりと現実逃避とも言える感情に浸っている間に話は進んだようで
「間も無く魔術の披露と見学の時間が作られるでしょうから、気を引き締めねばなりません」
宰相様の言葉に深く頷き、
「屋敷の者達には一層注意して見るように伝えております」
魔術を習う貴族のクラスと習うも基本のみで終わらせる平民クラス。
この違いをどうエスメ取るのか、また知ってどう動くのかを監視される。
エスメの事だ。力の多さ少なさは気にしないとは思うが周りは違う。
それにどう対応するかで今後のエスメの人生が変わるかもしれない。
痛む胃と重くなる気持ちを自分は父親なのだと振るい払い
考えられる対策をリリーと話し合う事を決め、
何かあった時の為に魔術師長が授業に参加してくれると聞き
安堵の息を見付からないように落とした所で、雑談の流れと入り
振る舞われたワインをいただいた後、屋敷へと戻った。




