弟は姉の案に乗る
白昼堂々と起こされた出来事は僕達の気に緩みを突かれた出来事だった。
王都からさほど離れておらず、今後の予定の話をする為に騎士団長と話をしながら数歩離れた所で姉様とフレディがお茶の準備をしているのを視界に入れていたし、見栄えと臭いの為に馬車が少し離れた所で待機する為の移動も視界の端に捉えていた。
だから、馬が姉様とフレディに真っ直ぐ向かってくるのも見えていたので、2人を助ける為に手を伸ばし駆け出すも、横飛びをした騎士団長に抱き込まれ地面に倒れ込んだ。
すぐさま状況を把握する為に起き上がり見えたのは、賊がフレディの首元に剣を近づけており思わず
「姉様!フレディ!」
声をかけ、意識の有無を確認すれば周りを囲まれ、僕と騎士団長にも警戒しながらも剣を向けていた。
「大人しくして貰おうか」
姉様とフレディに剣を向けている賊からの言葉に睨みつければ、騎士団長が素早く背中で隠される。
「無駄な抵抗はせず、立ち上がって貰おうか」
騎士団長の背から出ない程度に首を動かし見れば、言葉と同時にゆっくりと剣先を
フレディの首元へ近づけのが見え、奥歯を噛み締め拳を握り込めば
近くにいた賊達の警戒が強くなり、騎士団長の緊張感が強まる中、
「フレディ、言う事を聞きましょう」
普段より少し大きな声で告げてくる姉様に意識がある事が分かり心の中で安堵の息を吐くが、
姉様を抱き抱えたままフレディが立ち上がった事で姉様に怪我でもあるのかと見つめると
「貴方達の目的は何かしら?」
少し首を傾げながら賊に問いかける姉様の行動に一抹の不安を覚えるも、
「そうさな、金品とあんた達貴族様の身代金だな」
あっさり姉様の疑問に答えた賊にそうだろうなと納得する。
「貴方が1番上の人かしら?」
表情を強張らせながら話を続ける姉様の行動に周りの賊の視線が姉様に集まるのを感じ
騎士団長を見上げれば、何かを探すかの様に姉様と賊を見つめている、
「ま、上ちゃ上だな」
賊の不可解な返事にひっかかりを感じた。
まだどこかに賊の仲間が潜んでいると言うことか?
彼が1番上では無いと言うことは、他に居るのか?それとも雇い主がいるのか?
姉様を狙っての賊と考えるべきか。
様々な考えが浮かぶ中、姉様は反抗する意思はないと告げるも賊はその意見を跳ね除ける
「だったらそこのおっさんから剣を捨てて貰おうか」
首を動かし騎士団長を指し剣を手放す様に告げてくると、
「分かった」
その一言で腰から剣を鞘ごと抜き、手の届かない場所へ投げ捨ててしまった。
騎士としての誇りで命と同様の存在であると教えてくれた騎士団長自らが迷い戸惑う事なく剣を投げ捨てた事に動揺し、投げ捨てられた剣を賊が拾う姿に怒りが生まれる。
「子供だけこっちに来い」
賊の要望に腹正しく思いながら、僕に向かって手を伸ばしてくる賊に睨み
「僕に触るな」
一喝した僕に賊の舌打ちの音が聞こえるも、自らの足で歩き姉様の元まで行けば
「まさか、このわたくしに地面を歩けとおっしゃるの?」
突然の姉様の棒読みセリフの言葉に呆気に取られかけるが、
「これだから貴族は嫌いなんだよ」
何も知らない賊は姉様の言葉を信じたのか
「下手な考えを起こしてみろ、その後はどうなるか分かるだろ?」
僕の首元に剣先が向けられ、青ざめ震えながらも
「わたくしに何度も同じ事を言わせるつもりの?」
大根役者並の棒読みでも、恐怖で震えた声と表情で満足できたのか
「そう言う事だ。良い子にしていれば良い」
姉の恐怖が賊に優越感を与え下品にニヤつきながら歩くように指示を出してくるので素直に従いつつ、
後ろに居る騎士団長に視線を向ければ、目礼をされる。
とりあえず姉様の考えに乗りつつ、隙を見て逃げる機会を伺う。
あの場所で大立ち回りをしても、結局は姉様とフレディを人質に取られ現状より悪化していたか、同じ様な話の進みになったはずだ。
多分、姉様に作戦は無い。
思い付きか、閃き、それか言葉は悪いがその場凌ぎだ。
だが、姉様のこう言った考えと行動で悪い方向に進んだ事は1度も無い。
生活魔法道具も箒で空を飛んだ事も、思い付きであり閃き行動した結果だ。
何を思いフレディから降りないのか分からないが、逃げる際に走れる体力の温存していると思えば良い案だと思う。
姉様に魔法を発動させる訳にはいかない。
姉様も魔法を使う事はしないだろう。
自分より高い所に居る姉様は時折、後ろに居る騎士団長と僕を心配そうに見ている気配を感じる。
だからと言って姉様に視線を向ければ賊の警戒心が上がるのは目に見えているので、真っ直ぐ見つめたまま歩き続ける。
どれだけ歩いただろうか、少し息が切れ初めて来た頃に小屋が見え、
「おい、降りろ」
姉様に向かって言う言葉に、姉様は何故か渋々と降り地面に足がつけば、僕と2人して腕を掴まれ小屋の中に放り込まれた。
タタラを踏みながら、壁に当たる前に止まる事ができたが
「大人しくしてろよ」
両手を後ろに回され手首を縛られ座る様に言われると姉様がすぐさま僕の横に座り、
「わたくし達の従者をどうするつもり?」
目の前に立った賊に姉様が聞くと
「さあな?どっかに縛られてるんじゃねぇか?」
関係ないとばかり適当に返されるも、
「乱暴な事はしないで頂戴。わたくしあの2人の顔と体が気に入っているの」
棒読みながらも高飛車な物言いに思わず首を傾げたくなるも、
「傷物にお金を払う価値が無いわ。少しでもお金が欲しいならそのまま屋敷に返す事ね」
わざとらしく鼻での笑いと言葉にあの2人を心配しての言葉だと理解できたので
「そうですね。衣服に乱れがあれば屋敷に入れませんし、顔に傷があっても同様ですね」
一応、姉様の案に乗って発言すれば、信憑性が出たのか賊の1人が小屋から出て行く姿が見えた。
なるほど。あの2人は案外に近くに居るのか。
走る事なく出て行った姿になんとなく当たりを付ける。
無事であって欲しい。
口を閉ざした姉様と引っ付いた腕の暖かさを感じ、願うことしかできない自分の非力差に悔しく思い口を閉じた。
第31話
進みが亀の如しで申し訳ないです。
シルバーウィークですね。全日秋晴れたど良いですね。
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誤字脱字報告、感謝いたします。ありがとうございます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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