姉、神事を終える
ガタガタと車体を揺らしながら賑わう街の大通りを馬車はゆっくり進み、窓から見える街の人達が時折手を振ってくれるので微笑みと共に手を振り返す。
年齢性別など関係無く皆嬉しそうに手を振ってくれるので、街を走っている間はずっと手を振って過ごし、神殿に近づくにつれ、人の波は少なくなるものの祈りと感謝を捧げに無買う人達がいるので、街中と同じ速度で進んでゆく。
「エスメ嬢は街の人達に愛されているねぇ」
どこか嬉しそうに告げるライリー様に
「大変ありがたい事だと思っております」
なぜこんなに自分に笑顔を向け手を振ってくれるのか理由は解らないが、否定の言葉は街の人達の好意を否定してしまう気がし、だが、お礼を告げるのも違う気がし返した言葉に、
「なぜ、自分がこんなに好かれれているのか分からない。と、言う顔だ」
笑い声を噛み殺しながらのライリー様の言葉に、頷く訳にはいかず困ったように眉を下げれば、
「その謙虚さは美徳と思っておくよ」
にっこりと微笑まれ、その会話は終わりを告げ話題を探そうと視線を彷徨わせると
「エスメ様」
ライリーさんの従者さんに名前を呼ばれ、顔を向ける視線が合うとそっと見る様に視線を誘導され見ると小さな子供と紙刺繍工房で働く女性が手を振ってくれおり
「ありがとうございます」
教えてくれた事へのお礼を伝えた後、親子に手を振るとその周りにいた人達も手を振ってくれたので神殿まで手を振り続け、
「手を」
振っていた手をようやく膝の上に置き休憩をさせていたが、馬車を降りたライリー様の言葉に慌て席から腰を上げ、ライリー様の手を借り馬車から降りた。
去年同様、到着を待っていた神官様に挨拶を貰い3人で時間まで待つ様に案内された部屋に入り、紅茶とクッキーをテーブルにセットを済ませると、神官様は部屋から出て閉まった。
じんわりときている筋肉痛に左腕を震わせ、カップの中の紅茶が波打つので零してはと慌てソーサーに戻し
自分の腕を揉み解す。
震えが大きくなり動かしにくくなる腕に焦りが生まれ、力強く揉んでいると
「エスメ嬢、あまり強くすると筋を痛めてしまうよ」
正面に座っていたライリー様が横に移動し腰をおをしたと思うと、揉んでいた腕を持たれ、つけていた肘上まであるロングクローブをさらりと外され、代わりに白いハンカチを腕に乗せられ
「痛みはないかい?」
ゆっくりと痛みを感じない力で揉みほぐし、伺うように尋ねられたので、
「ありがとうございます。大丈夫です」
ゆるりと首を振り返事を返す。
腕をほぐして貰う間は互いに無言でノックの後に時間だと呼びにきてくれた神官様の驚きと戸惑いと困惑の混ざった表情に、
「ありがとうございます。楽になりました」
軽く頭を下げお礼を告げた後、ロンググローブをつけライリー様の手を借り立ち上がりそのままエスコートを受け神事用の屋根の無い馬車に乗り込む。
自分1人乗り込み席に着けば扉が閉められ、ライリー様と従者さんが両脇を占める様に立ち戸惑うも
「エスメ様。皆の祈りの花をよろしくお願いいたします」
ノア様の言葉に、すぐさま淑女の微笑みを作り
「かしこまりました」
小さく頷くと、馬車はゆっくりと動き出す。
微笑む事なく真剣な表情の従者さんとは反対に紳士に微笑みながらもどこか硬い雰囲気の2人に内心困惑し
自分1人だけ馬車に乗っていて良いのかと思うも、声をかけれる雰囲気ではない為にこれが普通なのだと態度で示し1箇所目の受け取り馬車へと到着し
「よろしくお願いいたします」
若夫婦が代表者の様で、緊張している男性の隣にはお腹の大きな奥様と手を繋いだ小さなお子さんが待ってくれており、差し出されたミモザを受け取り
「確かにお預かりいたしました」
両手で持つのがやっとの量のミモザを受け取り、
「健やかで元気なお子さんが生まれてきますように祈っておりますわ」
ご夫婦にお祝いの言葉を告げれば、嬉しそうの微笑み合う姿を見せてくれ、集まった皆の顔を1人1人しっかり目線を合わせ、微笑み返し馬車へ戻り預かったミモザは神官様へと手渡し、ライリー様のエスコートを受け馬車に乗り込む。
横には先程預かったミモザが置かれ、手を振る人達に別れを告げ次の場所へと移動し、
待っていた、老夫婦と孫夫婦からミモザを受け取り
「いつまでもお元気で仲良く過ごしてくださいね」
言葉を交わし、1箇所目と同じ様に全員を視線を合わした後、馬車に戻り、
3箇所目はギルト前だったが、待っていたのはいつもチーズと牛乳を買う屋台のご夫婦で
「いつも美味しいチーズや牛乳をありがとうございます」
お礼を込め伝えると、旦那様は照れくさそうに微笑み奥様は目を潤ませお礼を返してくれた。
街の中心部という事もあり沢山の人達が集まり1人1人と目を合わせるのは時間がかかったものの、笑顔で交わし最終のぬくもり亭へと馬車を走らせる。
人の多さと比例してライリー様と従者さんの雰囲気が固くなり、何かを警戒しているような視線を向けているのをミモザに埋もれながら心の中で首を傾げつつも、
名前を呼ばれるので手を振り微笑み返す。
ぬくもり亭は街と街道をつなぐ最初の場所に立っており、初め見る人達が多く
旅の人か祭りの為にやってきた商人の人達がぬくもり亭の部屋を埋めているのだろう。
待ってくれていたのは、自分とよく似た年齢の男性で、
「エスメ様。お待ちしておりました」
集まる人達の中で誰よりも質の良い服を見に纏う青年に、微笑み
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
言葉と共にミモザを受け取る為に手を伸ばすも、足元に何かが転がるのが見え動きを止め顔を向けると、群色のコインが視界に入り、拾おうと膝を折りかけるも
「エスメ嬢」
小さな声で呼びかけられ姿勢を戻し声の主を見ればライリー様が微笑んでおり、首を傾げるも
「こちらを」
従者さんから手渡された銀色のコインを受け取り周りを見渡すと、慌てた様に人の間を縫い前に出てきた少年に、
「貴方のかしら?」
コインが見える様に差し出し尋ねると、白銀の髪が視界に入り驚きを誤魔化す為に1歩前に出ると
「は、はい。僕が先程落としました。拾っていただきありがとうございます」
おどおどとした動きの中でもどこか品性の良さを感じ、
貴族の子だと思うけれど旅かしら?
見慣れ親しみのある白銀の髪に親しみを感じ
「無くさないように気をつけてね」
手を伸ばし差し出すと、
「ありがとうござます。気をつけます」
つまむ様にコインを受け取り、そこで別れ待ち人と合流できるまで見守ろうとするも、
「エスメ様、ミモザを」
神官様の言葉に現状を思い出し、
「お待たせいたしすみませんでした」
失礼のない様に受け取ると、
「あ、あのエスメ様。この後ですが」
緊張しているのか頬を赤くし告げる青年に
「ごめんなさい。この後は神事がありますので」
眉を下げ断りの言葉を曖昧ながらも告げれば、
「い、いえ。こちらこそすみません」
意味が伝わった様で、1歩後ろに下がりながら誤りをくれた。
沢山の初めましての方と先程の少年とも視線を合わせ、ぬくもり亭を後にし教会へと無事の届け、
初年度にディランと沢山練習した神事もお祖父様とお祖母様、ライリー様と従者さんが見守る中で間違う事なくやり遂げ、
無事、春を祝い神事を終えることができた。
第287話
寒さが戻ってきおりますね。お体に気を付けお過ごしください。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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