姉、別れの挨拶をする
忙しなく過ごした数日が終わり少し物が少なくなった部屋に別れを告げ、マルチダと共に歩く。
昨日の晩餐後にお父様の書斎に呼ばれ夜明けと共に出発すると告げられた。
急な事だが旅の行程を考えての事なので協力してほしい。
心配そうに目尻を下げながらの言葉にディランと共に頷けば、2人同時に頭を撫ぜてくれ
嬉しくなってもっと撫ぜて欲しくてお父様の手に頭を押し付ければ、ほんの少し手の動きが止まった後、
力強く撫ぜ続けてくれ嬉しくてディランの顔を見れば、目を瞑り真っ赤な顔で恥ずかしそうにしており、
「ディラン」
名前を呼べは、ゆっくりと瞼を開け目を合うと、
「嬉しいね」
お父様から撫ぜてくれる事が嬉しくて笑顔で問いかければ、
「はい」
小さくて掠れそうな声の返事の後、大きな何かに体ごと包まれ何事かと思えば、
お父様の腕にディランと共に抱き込まれて、
その後、直ぐにお母様からも抱き込まれ、前にお父様、横にディラン、背中にはお母様の暖かさに
更に嬉しくなり横に居たディランに抱き付いた。
家族で過ごした時間はあっという間に終わり、右頬にお父様からキスを貰い、左頬にお母様からのキスを貰い、自分はマルチダにディランはフレディを伴い自室へと戻りそれぞれの夜を過ごす。
「マルチダ、今までありがとう」
しばらく会えなくなるのでお礼を告げれば、
「こちらこそ、数年でしたが貴重な体験を沢山させていただきました」
普段は中々表情表に出さないマルチダが小さく微笑んでくれた事が嬉しくて、
「楽しかったでしょ?」
笑いながら問い掛ければ、
「いつか心臓が止まるのでは無いかと思っておりました」
苦笑しながらの言葉に
「いつも心配かけてごめんなさい」
ほんの少し茶化しながら伝えれば
「主人の行動を心配する事ができるのは専属メイドの特権ですのお気になさらずに」
先程まで下がっていた眉がいつもの位置に戻り、少し胸を張って誇らしげに言うマルチダに
「私もマルチダが一緒に居てくれて嬉しかったし楽しかった。
魔法の実験に付き合ってくれるのも嬉しかったの」
一瞬驚いた表情を見れたが直ぐに元の表情に戻り
「想像できない驚きと貴重な体験でございました」
告げられた言葉に思わず抱き付き、
「そう思ってくれて良かった」
マルチダのお腹に顔を埋めながら言えば、優しく抱き締めてくれた。
ほんの少しだけ抱き締め合った後、顔だけ動かしマルチダを見上げ
「マルチダに叶えて欲しいお願いがあるの」
明日から自分専属では無くなるのだと先程お母様から伝えられ、断られるのでは無いかとほんの少し
怖くなりながらも意を決し言葉にする。
「なんなりと」
優しく柔らかい声に勇気を貰い
「明日もマルチダに起こして欲しいの」
お願いを告げれば、
「かしこまりました」
頷き了承をしてくれたので、
「朝の準備もマルチダが良いな」
次を伝えれば、
「ご準備しておきます」
次も頷いてくれるので、
「髪も整えてほしい」
嬉しくなり、次のお願いもしてみれば
「長時も間馬車に乗りますので背凭れにもたれても良い髪型にしますね」
当たり前のように頷いてくれたので、
「馬車まで見送りに来て欲しいの」
最後の絶対かなえて欲しいお願いを告げれば
「主人様の旅立ちに立ち会えるなんて光栄です」
微笑みながら頷いてくれた事が嬉しく
「ありがとう。大好き」
精一杯の感謝の気持ちを言葉に表し、想いを告げれば
「ありがとうございます。メイドとしてこれ程の喜びと誉はありません」
ゆっくりと、力強く抱き締めてくれた後
「別れを惜しむのは明日にして、今日はゆっくりお休み下さい」
回されていた腕が解かれ、ベットに横になる様に告げられたので体を横にすれば、
ふんわりと布団がかけられベットの横に置いてあるサイドテーブルにハーブと果実が入った
ピッチャーとガラスのコップが置かれ、
「明日の明朝にお越しに参りますのでそれまではゆっくりお休み下さい」
マルチダの言葉に頷き
「おやすみなさい」
挨拶を告げれば、
「おやすみなさいませ」
魔法石の付いたランプが消され暗くなったと同時に目を閉じればあっという間に夢の中に入って行った。
気が付けばマルチダの声で起こされ、なぜかお母様の部屋に案内されドレッサーの椅子に座り
マルチダに髪を言われている。
どうして?なんで?
頭の中に疑問ばかり浮かぶも、鏡越しから見えるお母様が楽しそうに見つめているので変に緊張し
どこかぎこちない動きになったけれど、
「さすがマルチダね」
洋服を選んだ時も髪を結い終わった時もお母様のマルチダを褒める言葉に誇らしく思うも、
「今マルチダが行った事をこれからエスメが1人で行う事になるのよ」
立ち上がり、自分の隣まで来ると視線の高さが合わせるように腰を曲げ、
「エスメ良く聞いて。マルチダは貴方が1人でも困らない様に真ん中から分け、耳元でリボンで結んであるの。これなら貴方でもできるだろうとマルチダからの知のプレゼントよ」
鏡越しで目を合わせ告げられたことに改めて鏡を見れば言われた通り左右耳元にリボンで髪が結ばれておいる。
改めてマルチダを見れば、目を細め頷いてくれた。
不器用な自分でも髪を結う事ができるようにと思ってくれた事が嬉しく
「ありがとうマルチダ」
礼を伝えると、腰を折り礼をくれる。
いつものマルチダのはずなのに何処か距離を感じ、見つめていればノックの音と共に
「奥様、お嬢様。出立の準備が整いました」
お父様の従者の声にお母様の専属メイドが対応する。
「これ以上お父様とディランをお待たせするのは良く無いわね」
お母様のどこか硬い声に頷き、椅子から立ち上がりお母様の共に玄関ホールへ向かえば
お下働きの人達が集まり、自分達が来るのを待っていたのだと言う。
見習いの子達に始まり庭師の人達、御者に下僕、料理長とキッチンメイドに
ランドリーメイド、メイド長に家庭教師に乳母、副騎士団長に執事に家令と
皆揃っている事に驚いていれば、
一斉に腰を折り
「ご迷惑かと思いましたがエスメ様とディラン様の御見送り参りました」
執事の言葉に更に驚くものの
「まだ朝も早いのに来てくれてありがとう。とても嬉しいです」
笑顔で礼を告げれば、皆顔を上げ笑ってくれた。
本当は1人1人と言葉を交わしたいが時間もないとの事で、左右1列に並び
「行ってらっしゃいませ」
声を揃え、乱れぬ動きで一斉に腰を折り屋敷の中で見送ってくれた。
気持ちゆっくり歩いて、家令と執事が開けてくれた扉を出れば馬車が待っており、
「お待ちしておりました」
騎士団長の言葉にお父様が頷き、
「2人を任せたよ」
当主らしく硬い声で告げれば、
「命に変えてもお守り致します」
胸に手を挙げ騎士の礼をとって答えた騎士団長にお父様もお母様も頷きで応える。
馬車の中へ様に促される、振り返り周りを見れば、約束通り
マルチダが数歩後ろに控えて見送りをしてくれている。
大丈夫。
立派に独り立ちして王都に戻ってくると。
鼻の奥がツンと痛くなり涙が溢れてきそうになるもマルチダが頷く姿が見え、
息を少し多めに吸い込み寂しく悲しい気持ちを外に出し、
馬車に乗るのに手を差し伸べてくれるフレディに手を借り乗り込むと、
ディランに続きフレディも乗り、出入り口の扉が閉められた。
馬丁の出発の合図がある、慌て窓を見ればお父様がお母様と並んで見送りをしてくれ、
その少し後ろに家令とマルチダが見送りをしてくれている。
ゆっくりと離れていくのがもどかしく、寂しく感じると
「姉様、寂しがってばかりではいられませんよ」
ディランの言葉に体を動かし正面に向かい合えば、
「僕達にとっては初めての領地です。知識無くして帰るなどあり得ません。
道中、姉様には僕から領地について勉強をしていただきますので、
その心積もりでいてください」
真剣な眼差しと表情に戸惑いながら頷くと
「だからと言って直ぐには致しませんので、今はゆっくりしてください」
肩の力を抜いたのか、少し穏やかな雰囲気になったディランに釣られ硬っていた体の力を抜き、
視界の端に見える街並みと馬の足音を聞きながら過ごすことにした。
第28話
切り所が解らす長くなりました。
鱗雲を見ました。朝晩の気温差が大きくなりましたね。体調にご自愛ください。
ブックマークに評価と星を押してくださりありがとうございます。
また誤字脱字を教えていただきありがとうございます。
大変嬉しくまたありがたく思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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