姉、突然の訪問客に驚く
朝の勉強を終え、テアさんにマッサージを施してもらい自室の扉を開けると、ボアさんが手に布を持ち、とても良い笑顔で迎え入れてくれた。
「エスメ様、こちらへ」
戸惑いながら五指で刺された布の上に立てば、手早くコルセットが胴に回され、
「合図を出しましたら息を大きく吐いてください」
テアさんの力の篭った声に返事を返し、合図と共に息を吐き出すと容赦無く閉められ、数回繰り返しようやく完成となり、ドレッサーへ移動し化粧と髪を結い上げ、
今度はボアさんが持っていたパニエを装着しドレスを着る。
「今日は何か予定がありましたか?」
お茶会へと出掛けてゆくお母様とよく似た格好に、大事な予定があっただろうかと首を傾げ尋ねるも笑顔で交わされ、
答えが貰えなかった。
大事な予定があったかしら?
ミランダとミラに遅くなる事を伝えないと。
アクセサリーをテアさんの手で付けてもらい、白色の長手袋をボアさんにはめてもらう。
着飾る程、大切な予定があるのに思い出せない。
内心焦り、縋るようにテアさんとボアさんを見つめるも、
「エスメ様なら簡単にこなせる事ですわ」
「そう、ご心配なさらず」
笑顔で交わされてしまい、
考えてしまっても仕方ないわ。不安な想像はほぼ当たらないって聞いた事あるから大丈夫ね。
不安になっても仕方ないと割り切り、顔を上げ横にある姿見を眺める。
ミモザ色のドレスは今年の神事で来たドレスで、正式に着ると雰囲気が変わり上品に見え、髪は硬く結い上げられ、首には以前お祖母様から手渡された、ネックレスとイヤリングがついている。
1つのブラウンダイヤモンドを家族皆で分けて作ったと聞き特別な日に付けると伝えてあった宝石が身につけられている。
深呼吸をしゆらめいた心を落ち着かせる。
タイミングを見計らった様にされたノックの音と出迎えてくれたボアさんにイルさんの声と姿が見え、
「エスメ様、お迎えに上がりました」
家令の立場として礼をし告げられた言葉に返事を返し、差し出された腕に手を乗せればゆっくりとした歩調で歩いて行く。
あ、前に、確か領に来てすぐだったかな?ドレスを着てディランのエスコートでお祖母様主催のお茶会に招待頂いた時がこんな感じだったわ。
あの時も今みたいにピンヒールで歩きにくくディランに迷惑かけたなぁ。
思い出した出来事に忍び笑いをし、階段をゆっくり降り玄関ホールが見えた頃、来客が来たのかフットマンが玄関を開け入ってきた人物達に驚き立ち止まった。
「ミランダとミラ?」
フットマンの対応に微笑んで受け答えをしているミランダに不安そうにしミランダの手を握っているミラの姿に、何かあったのだとイルさんの腕を離し、階段を駆け降りようとするがピンイールで思うように動けず、
風魔法を発動させ、思い切って両膝を曲げジャンプをし風に身を任せミランダ達の元へ飛び、
風魔法を調整しふんわりとホールに着地したのち、
「ミランダ、ミラ。どうしたの?何かあった?」
前回ルイが来た時の様に何かあったのだと思い、早口で問いかけるも
「エスメ様。おはようございます」
ミランダの微笑みと挨拶に
「おはよう。急いだ方が良いよね?箒、持ってくるから待ってて!」
身を翻し自室の本棚に立てかけている箒を持ってこうと駆け出すも
「落ち着きなさい」
階段上からお祖母様声が聞こえ、動きを止め見上げると扇で顔を半分隠し
「わたくしが2人を呼びしたのよ」
どこか圧を感じる声と言葉に
「それならば、私が2人をお連れしましたのに」
今日の訪問を知らなかった事に感情が揺れ動き、硬い声で返事を返せば
「エスメに頼むと彼女に言い包められるのは分かってるから、こうして呼んだのよ」
ため息と共に告げられた言葉に首を傾げれば、
「貴方が彼女達にあかぎれのクリーム探しを手伝ってくれる様にお願いしたのを忘れたの?」
呆れたと告げる言葉に、
「覚えております」
居心地が悪く感じつつもお祖母様を見上げ返事を告げれば
「親友だから無給という訳にはいかないわ。それに進行報告も聞きたいもの」
上に立つ者としての言葉に、返事を返せず恐る恐るミランダの顔を見ると微笑んで小さく頷いた姿に
自分の早とちりだったと分かり、安堵の息を零し申し訳なく思い謝ろうと口を開きかけると
「客人が到着したと聞いたが、エスメが出迎えてくれたのか」
同じく階段上からお祖父様の声も聞こえ、お祖母様に腕を差し出しエスコートをし降りてくる。
お祖母様とのやり取りは聞こえていなかった様で、玄関ホールまで降りるとミランダ達の元へ歩いてくるので1歩半ほど離れると、
「家名は省こう。エスメの祖父でこの領主であるライアンだ。横にいるのは妻のシエナだ」
お祖父様が微笑み自己紹介をすると、
「わたしくしはエスメの祖母のシエナよ」
品良く微笑み名前を告げるお祖母様に、
「御当主様夫妻にお会いでき光栄でございます。私はミランダと申します。こちらは友人のミラと申します」
ミランダはお祖母様と良くに微笑みをしているけれど、視線を下げ、腰を曲げ挨拶をする。
同じく
「ミラと申します」
緊張した面持ちで自己紹介を交わし、
「ここは寒いだろう。移動しよう」
お祖父様の言葉に、慌て引き止め
「ミラ、頭に雪がついてる」
両手を伸ばし、抱き締め火魔法と風魔法を発動させ濡れて冷えた体を温め服を乾かし、
「雪が降る中、来てくれてありがとう」
頬に触れる程のキスを送り、立ち上がりミランダに抱き着き同じ様に魔法を発動させ
「積雪してるけど滑らなかった?」
同じ様にミランダにも魔法を発動させ冷えた体を濡れた服を乾かし
「足場が悪い中、来てくれてありがとう」
舗装され雪かきがされていると言え、歩けば足は濡れて冷えてくる。
このボタン雪が降る寒い中、街の端にある屋敷まで来て暮れた事に申し訳なさを感じながら礼を告げると
「大丈夫よ」
背中を数度撫ぜてくれ諌めてくれるミランダにお返しだと力一杯抱き締め返し、頬に唇を当てた後腕を解き
「申し訳ございませんでした」
お祖父様とお祖母様に謝りを入れると
「いや。こちらこそ気付かず申し訳なかったな」
お祖父様の言葉にミランダは小さく首を振り返すと、お祖母様に視線で促されホールから移動をし応接間へと入った。
暖炉の火が入っており部屋が十分温められており、座るように告げるお祖父様の言葉にミランダの視線をもらうが、長ソファに座る様に促し、自分はどこに立とうかと視線を彷徨わせると
「エスメ。貴方も座りなさい」
お祖母様の言葉に頷き、ミランダとミラが気を利かせてくれ開けてくれた場所に腰を下ろした。
第254話
クリスマスソングに視線を動かせばお正月飾りが売られており、目も耳も忙しくなる季節ですね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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