友人、友のメイドと出会う
エスメさんの落ち込み方から察すると、美容関係は覚えられないのでは無く興味が無いのではと思い、それならばと手を上げた。
筆頭公爵令嬢として、また、思い出したく無い思い出ではあるものの王家の婚約者だった立場から自分の身なりに使用する品々は見極める為に教育を受けていた。
ミラに伝えた通り、流行を作り本物を見抜き経済を回す為に必要だった。
自分には強制だった物だが、勉強の息抜きとして最先端の商品に触れれる為に楽しみにしていた授業でもあった。
十数年にも及ぶ王妃教育が役に立たないやるせなさもあったが、ルイとエスメさんと知り合い、ミラと出会い、役に立ち嬉しくて、コナーといずれ恩を返せたらと話していた。
感謝しても仕切れず、あの時に噂のご息女様に出会えた事は大変運が良かった。
小さな手を握り、ミラの歩幅に合わせ歩き雪降る街を歩く。
教えて貰った店名は大通りにあり、裕福な家の方や旅行や商売で来た方などを相手にする店で、先日、エスメさんお母様からいただいた服を着たので身なりで気後する事は無い。
身なりや動きに気をつけ貴族だと気付かれない様に気を張りつつ歩けば、街の人達から声をかけてもらい微笑んで挨拶を交わし雑談に混じる。
言葉の裏を探ったり、雰囲気を読んだりしなくても良い会話はとても楽しく、ご婦人達の話を聞いていると、
「ミラお姉ちゃん」
繋いだ手を引かれ、呼びかけられ、
「すみませんが、お暇しますね」
途中で中座する事を詫びれは、快く見送ってくれ店を目指し歩いてゆく。
「もう。ミラお姉ちゃんはどうしてこうお喋りが好きなの」
どうやらご機嫌を損ねてしまった様で
「ごめんなさい」
申し訳なく思い謝ると
「お母さんもそうなのよ。大人になるとお喋りが好きになるの?」
不満と疑問の言葉に、
「情報交換は大切な事だもの。皆、生きて行く為の必要な事なのよ」
貴族だろうと、商人だろうと、平民だろうと、情報は身を守る為の行動であることは変わりない。
どの身分でもご婦人は夫の話が多いのは、無意識に仲間意識を持ちたいからだと習ったが、
「流行や疫病など、人伝に伝わるわ。勿論、本当か嘘かを確かめる必要があるわ。その知識も人から人へ伝わるものなのよ」
付け加え伝えるも、不思議そうに首を傾げるので
「噂や嘘を信じない為に勉強と情報が必要ということよ」
簡単に伝えると、理解ができた様で頷きが返ってきた。
それを操舵するのが貴族だけれども。
心の中で呟き、時折吹く風に身を震わし歩けば、目的の店を見つけ飴色の扉を開ければ先客がいた様で店員らしき人と楽しそうに話に花を咲かせており、
「ミラ、少し商品を見ながら待ちましょう」
邪魔にならないように小さな声で話しかけつつ、ミラの防寒具を取り自分のコート脱ぎ片手に持ち商品を眺めてゆく。
ガラスの瓶に入った化粧水
香りの良い白粉
数十年前は真っ白になるまで蜂蜜を混ぜた白粉を塗ったらしいのだが、今は真逆で白粉は薄くのせ、口紅は薄く乗せ、時にご年配のご婦人が黒いシルクを顔に乗せ黒子を作る。
過去の経済的理由で流行り出した化粧方法だが、これもその時代の王妃が率先して行い、高位貴族が続いたからにならない。
頭の中で化粧の歴史を思い出しながら、1品1品じっくり眺めていると、
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
落ち着いた女性店員に声をかけられ、
「実はエスメ様の代理でお邪魔しているのですが、ご店主様をお見えでしょうか」
エスメさんの話を出すと先程楽しそうに話していた2人がぴたりと話を止め、こちらを見ている姿を視界に入れつつ微笑みを崩さないでいると、
「申し訳ございませんが、我が主人とどういったご関係でしょうか?」
人当たりの良さそうな柔らかい微笑みの中に疑い探る雰囲気を秘めた、紺色のショールを手に持ち、同じ色のワンピースを身に纏う女性に話しかけられ、
ミラが空気を感じとったのか握っていた手に力が込められたが、昔の日常によく似た雰囲気に自然と貴族の微笑みを作り、
「私はエスメ様より化粧品の視察を頼まれたミランダで、こちらは私の親友でミラと言います」
彼女も私と同様にエスメ様より言いつかりました。
互いに微笑み探りを入れる。
つい癖で裏の意味も込めそうになったがそれは今では無い。
感情を悟らせない微笑みを作り、相手の言葉を待つと
「ミランダさんとミラさんですね、失礼いたしました。私はハンナと申します。我が主人がお世話になっております」
すんなり自分達の事を認め、拍子抜けするもエスメさんの立場を思い出し
「こらこそ大変お世話になっております」
同じ様に言葉の応酬を起こす前に引き、先程話していたご婦人達と同じ様に雰囲気を柔らげ挨拶を交わし、
先程声をかけてくれて店員へ視線を向けると、
「わたくしが店主でございます」
ハンナと名乗った女性と話し込んでいた男性の声に視線を向ければ、
「ハンナ様よりお伺いをしております。なんでも安価であかぎれに良い物が欲しいとの事」
品の良い細身の男性の言葉に、ハンナさんに視線を向けるも微笑んでいる姿に、
彼女は侯爵か伯爵の出なのね。と、するとこの領主に昔から仕えるのでは無く募集で採用されたのね。
立ち振る舞いから色々察し、
もしかすると、監視者の1人かしらね。
悟られない方に店主と話ながら頭の片隅で考え、
エスメさんの話では3人専用メイドが居る中の1人でしょう。
生まれてから貴族社会に身を置いてきた者に貴族籍のないエスメさんは言葉の裏や本心を探る技術は足らないはず。
エスメさんの事を我が主人と言うけれど、本当の主人は違うのでしょうね。
大方エスメさんの希望を伝え終え、商品の選別をして貰える事となり
「エスメ様のご提案をお聞きし心が躍るほど楽しみにしておりました。ご協力できる光栄でございます」
頭を下げ、商人の顔を表に出し告げた言葉に
「ご協力感謝いたします。これからよろしくお願いします」
同じ様に頭を下げ伝える。
店主と話をしている間、こちらを観察していたと言う事は、相手も自分同様に観察し報告されると言うこと。
時折、ミラが不安そうしたが、慣れない店という事もあり大人しくしてくれていた。
店を出たら褒めて、ご褒美に何か買ってあげよう。
小さな手を少し力を入れ握り返すと、同じ様に握り返してくれ勇気づけてくれる。
説明の中で特におすすめと話してくれた商品を一式購入し、会計を待つ間、ミラに話しかけようとすると、
「ミランダさん」
ハンナさんから声をかけられ、
「私はそろそろお屋敷に戻ります。後程、主様がそちらにお伺いしますのでよろしくお願いいたします」
別れの挨拶に
「お力添えをいただきありがとうございました。エスメ様のご訪問を楽しみにしております」
無難な返事を返すと、身を翻し店を出て行った。
探りに来た。と、見ていいわね。
店主より手渡された商品を受け取り、ミラに上着を着せ自分も上着を羽織り店を出る。
いつか来ると思ってはいたけれど、絶好の機会だったわね。
何か聞きたげのミラに
「寒くなってきたわね。急いで帰りたいけれど、折角だものティーフードを買って帰りましょうか」
気づかないフリをし、先ずは店で良い子にしていた褒美を買う事に決め歩き出した。
第253話
何気なく夜空を見上げたらオリオン座が瞬いておりました。天体観測に良い時期になりましたね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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