姉、用意周到の交渉席に着く
人の行き来の多い扉をくぐり、中に入れば以前来た記憶のままの風景が広がっており、取り継ぎをして貰うためにカウンターに向かう中、様々な方向から視線を感じるも
「ギルト長へ取り継ぎを」
イルさんの誘導でよそ見する事なく、また約束を取り付けていた為に直ぐにギルト長の居る部屋へ案内をされ
「お久しぶりでございます。見違えるように美しくなられましたな」
出迎えてくれたギルト長の言葉に驚きつつも
「そんなに変わりましたか?」
普段着飾ること無くミランダへ会いに行き、毎日食品の買い物をしているので早々変わる事は無いが、今日はハンナさん達が見立て着飾って、化粧も本格的にしてくれた、
変わって見えることもあるだろう。
そう思いながらも、どこが変わったのか好奇心で尋ねると、
「小女から淑女へと変わられて、今まさに大輪の花が綻ばんとしている時期かと」
ギルト長のお世辞に、言わせてしまった申し訳なさと、恥ずかしさに
「まぁ。過度なお褒めの言葉をありがとうございます」
お祖母様の代理なので貴族らしく微笑み返し礼を告げると、挨拶はそこで終わりソファに座る様に促され腰を下ろし、ギルト長と正面に向き合う。
挨拶時とは変わりどこか空気が張り詰めるのを感じ
「伯爵夫人からお話はいただいております。ようやく紙刺繍工房を本格的に稼働させるそうで」
鋭い視線に微笑みを崩さない様に心の中で気合を入れ、
「ええ。前に行った技術者選定でそれぞれの技術も分かり、教育者の選定もできました」
お祖母様から話は聞いているとギルト長は告げたが自分の口からも行った方が良いと判断をし、
「数名、販売できる程の高度の技術を持つ者がおりますので、個数は少ないですが販売しても良いと判断いたしました」
名前は伏せているが明確かいた資料をイルさんから受け取り、ギルト長に手渡すと、素早く目を通してくれ
「最初は貴族に向け売りだし、ある程度で払った所で値を落とし教会での販売ですか」
「ええ。貴族は特別と言う言葉がお好きでしょう?と言いたい所ですが、まだ貴族向けに刺繍を刺せる者が少ないのです」
余裕がある様に少しおどけながらも、本音を混ぜ
「高度な技術は無ければ収入が得られないのでは、生活ができません。ですので練習用として刺した物をや少し値を下げ、一部教会への寄付として販売を考えております」
人を雇うには給金が必要になってくる。
いつまでも生活魔法工房の売上から賄い続けるのは良くない。
赤から黒に変えなければ商売とは言えない。
何より従業員にも技術を上げれば自分の刺した刺繍の値が上がり価値が生まれるんだと実感して欲しい。
実感がえれば技術の向上と給金の向上に繋がる。
勿論、全てが良くなるわけでは無い。
器用、不器用があるのでそれに対応できる様に販売する場所も増やしたい。
自分の我儘を出してできた案だ。
自分の気持ちが伝わるように普段より少し声の高さを落とし、自信があるよに見せる為に微笑み、ゆっくりとした速さで話し続ける。
「なるほど。誰にでもある程度の収入が得られるようにする。と言う事ですな」
理解してくれたようで、ゆっくり頷き返事をすると、
「働き方は生活魔法工房と同じ、他領から働きたいと申し出があればギルトで調査後受け入れるでお間違いありませんか?」
「ええ。ある程度の認知が広まった所で、受け入れたいと思います」
主体は自領。
だが、技術を独占すれば必ず争う事が起こる。
現状、魔法工房では問題なく他領からの働き手を受け入れている。
前例がるので、少し時間は貰えるはず。
「畏まりました。お受けさせていただきます」
探る様な鋭い視線と表情から一変し、穏やかに微笑んだギルト長に心の中で息を吐き、
「生活魔法工房と共にご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
微笑みは崩さないまま、普段の声で告げると
「それにしても、交渉が大変お上手とみえる」
にやりと笑いながらの言葉に、内心首を傾げつつ
「ギルト長に、そう言っていただけると自信が持てますわ」
意味が解らないものの微笑みと言葉で誤魔化しつつ返事を返せば
「ええ、以前お会いした高位貴族のお方の様でした」
この領の次世代も安泰ですな。
告げられた言葉に、
お世辞が上手だなぁ。ギルト長ともなると様々な人と話す機会もあるよね
ぼんやり考えながらもチラリと斜め後ろに控えているイルさんの様子を伺えば、笑みを深めることで
上手く交渉成立できたことに
返事を返してくれた。
その瞬間、安心して気が抜けそうになるも、まだギルト長の前だと叱咤し背筋を伸ばし
「また、何か変更すべき事がありましたら報告させてますね」
どこか機嫌の良さそうなギルト長にそろそろ終わりにしようと雰囲気を出し伝えると
「こちらからも問題が起こりましたら即座に知らせを出しますので、その時はご対応をよろしくお願いします」
空気を読んでくれ、互いに確認し合い立ち上がれば同じくギルト長も立ち上がり、部屋を出て屋敷の外まで見送りに出てきてくれた。
「今日はお忙しい中、だったにも関わらずありがとうございます」
外に出て事に油断しついいつもの口調でお礼を告げてしまい、誤魔化す為に微笑みを強くするも
「いいえ。良いお話をいただき光栄でございます」
気づかなかったフリの口調ながらも、小さく笑うギルト長に少し恨みがましく視線を向けるもイルさんに促され待機していた馬車へと乗り込んだ。
第245話
雨の後から一段と冷えが強くなった気がします。乾燥も酷くそろそろ静電気の恐怖がやってきますね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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