父は冷や汗が止まらない
姿を薄くしながら両手に妻の用意した土産物を両手に持ち帰った娘に言いようのない寂しさを感じるも、
自分よりさらに寂しそうにしている息子に視線を向ければ、
先に妻と目が合い、互いに目尻を少し下げ息子を見ると
どこか置いて行かれたような戸惑いと寂しさを纏う息子にどう声を変えるべきが迷うも
「ディラン。エスメの食事はどうだったかしら?」
妻の言葉に息子は瞬きを1度し
「どれも斬新で想像を超える美味しさでした」
普段からしっかりしている息子も娘の事になるとお喋りになるらしく、
「作り方を教えていただきましたが、想像し難くクックに改めて話を聞き改善策が出せればと思っております」
真剣な表情で真面目な答えが返り、
「そうね。でも、お母様はこのままのレシピで良いと思うの」
愛おしそうに微笑む妻に不思議に思うも2人に座るように促しメイドに紅茶入れ直して貰う中
「あの子が生きた証になるわ」
告げられた妻の言葉に、驚き顔を見れば
「そうですね」
息子は言葉の意図が分かったらしく、頷き返すので自分なりに考えてみる。
娘が生きた証。
特殊生まれ、貴族でありがなが貴族籍を持たないエスメは平民だが平民といえる立場では無い。
公爵家に生まれた娘である。
貴族の名を残す貴族名鑑に名前は載らない。
娘が作っている生活魔法道具はルーズヴェルト公爵の名で出しており、最近動き出した紙刺繍も同じ様に家の名で出している。
発案者はエスメだが、名前を表に出すことはない。
今回のじゃが芋料理もその様に扱うものだと思っていたが
違うのだろうか?
「エスメはじゃが芋料理の手順を本にすると言っておりましたので1冊のみ作る許可を出しました」
奥深く考え込んでいたようで妻の言葉に顔を上げると、
「本は屋敷で保管し管理をするのですね」
息子とのやり取りに耳を傾けていると、
「これだけ美味しいでのです。うっかり喋ってしまい広がっても仕方ありませんわ」
ね、旦那様。
何か含みながら微笑む妻の笑顔と言葉に、ようやく答えが導き出せ
「そうだね。うっかり皆に言ってしい気がついたら広まっているかもしれないね」
苦笑いをしながら伝えると、
「ええ。明日、ご招待をいただいたお話好きな侯爵婦人の前では気をつけないといけませんわね」
口に手を当てつつ含み笑いををする妻に、
「そうだね。気をつけないとね。明日の昼食に芋チップスを持って行ってもいいな」
言わんとしている事が分かったと返事を返すと、
「勿論ですわ。ああ。ポテトサラダをサンドイッチに挟んでも良いかもしれませんし、コロッケも美味しいかと思いますわ」
正解だと頷き続く言葉に、
「それは美味しそうだね。早速クックに伝えないとね」
壁側に控えている従者へ視線を向ければ、小さく頷き部屋を出てゆく姿を見送り
そう言えば、方々も大変興味を示されていたので今度の時にお持ちしなければ。
目からの報告と自分からの報告に自領を持つ方々は大変興味を示しており
「飢饉に役立つかは試してみないと分かりませんが良い案かと」
国の財政を預かる方の言葉をいただいている。
ほんのり胃に痛みを感じつつ、特許は取らない事もお伝えしなければと思い出し紅茶を飲み気持ちを落ち着ける。
「僕もお茶会の手土産に持参したいと思います。よろしいですか?」
父の心を読んだのか息子の言葉に、御子息もご興味を引いたのかと思い
「ああ。勿論だとも」
頷き返事を返せば、
「ありがとうございます」
年相応の笑いを見えてくれた事に、今までどこか糸を張り続けていたようにいた息子の気持ちが解れた事もわかり、安堵の息を心の中で落とす。
離すべきではなかった。
だた、このままでは依存してしまう恐れもある。
何より外を知り、同年代の子供達と話、同じ様に話して笑って欲しかった。
昔言われた母親の言葉を同じ立場になりようやく理解ができた。
自分の場合は、公爵としての立場と貴族としての対応を外に出て学んでこいだったが、ディランは逆で年相応の子息と会い子供心を取り戻して欲しいだ。
母の言葉は教育
自分の願いは我儘
同じとは言い難いが、よく似ていると言うことだと自分の中で言い訳をしディランを眺めれば、普段よりも嬉しそうで、
仕事を大急ぎで片付け、帰って来て良かった。
何気ない団欒が皆が嬉しそうな雰囲気が屋敷中に溢れており微笑み紅茶を飲み妻と息子の会話に耳を傾ける
「ええ。姉様はお茶会途中でいきなり姿を表しましたので皆様が大変驚いておりました」
が、聞こえてきた言葉に違和感を感じ持っていたカップをソーサーに戻し、息子に視線を向けると
「令嬢に触れようと手を伸ばしましたので、思わず立ち上がりその場を離れたのですが、冷静に対応ができず情けなく思います」
後悔している表情に、深刻な状態だったのだと背中に冷や汗が落ちる。
「お詫びを申し上げれば、皆様、気にしていないとお許しをいただけました」
眉間に皺を寄せながらのディランに胃に痛みが走り、
詫びをせねば。
ぐるぐると詫びの言葉が頭の中を巡り、落ち着くように紅茶を一口飲み、妻と息子の会話は進んでいたが耳に入らず、
「旦那様、そろそろお休みなられた方がよろしいのでは?」
妻の言葉と手に触れてくれた暖かな体温に意識をとり戻り、顔を上げればいつの間にかディランは居らず、
「ディランは?」
こぼした言葉に
「先に部屋に戻しました」
母親の顔をしながらの言葉にそうかと頷き、
「方々にお詫びをしなければならないな」
ため息と共に落とした言葉に
「そうですわね。ですが方々も楽しんだ様子」
そんなに深刻に考えなくてもよろしいかも知れませんわね。
告げられた励ましの言葉に空笑いをし、妻の手を取り立ち上がり2人で自室まで
「先に寝ていてくれ。手紙を書き終えたら寝るから」
名残惜しく思いながら手を離すと、微笑みと共に頷いてくれたので早めに終わらせるように気持ちを引き締め、机に座り羽ペンを握った。
第231話
寒さで一気に紅葉が色づき出しました。外に出て散歩が楽しくなりますね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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フッと思い付き新しい話も書きました。お手隙の時間ありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お兄様、隣に居る令嬢は誰です?婚約者のお義姉様はどうなさったの?大変!廃嫡とざまぁを回避しなければ!
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