姉、父と帰路につく
重厚な扉から通路に出て数歩進んだ所で横を歩いていたお父様の足が止まり、不思議に思い見上げれば困った雰囲気と悲しいそうな表情をしながら節々の太い指が目尻に触れ思わず目を瞑れば瞼を撫ぜてくれた。
くすぐったくて、泣いてしまった事に気付かれ恥ずかしくて顔を伏せれば、髪を梳く様に撫ぜてくれ嬉しくなり目を上げれば再び頭を撫ぜてくれた。
嬉しい気持ちを言葉にしたくて口を開けると、唇にお父様の人差し指が触れ開けた口を閉じた。
今日は不思議な事ばかりがある。
どこが緊張をしているお父様を始め、今まで無表情で話もした事ない魔術省の役人さんがあんなにお喋りだったなんて知らなかった。
ここがどこにある建物なのかも分からない。
何より一緒に居たお兄さんとお爺さんが今どこに居るのか知りたいし、どうして王都まで一緒に来た事を教えてくれなかったのかも知りたい。
帰るなら挨拶もしたい。
聞きたい事が沢山あるのに話すことを止められどうする事もできず連れられるまま歩けば、建物から出て待っていた馬車に乗せられる。
馬車の中にはマルチダも魔術省の従者のお兄さんも居らずお父様と2人きりで馬車に揺られどこかに向かっていた。
ガタゴト揺れる馬車に馬の足音を聞き、視線を横に動かすも窓は黒い布の覆われ外を見ることができず正面に座るお父様に視線を向けると、閉じていた目を開け、
「おかえりエスメ」
微笑みながら手を広げてくれるので、
「ただいま帰りました」
挨拶と共に腰を浮かせ勢い良くお父様の胸に飛び込んみ抱き付くと背中に腕を回し抱き返してくれる。
久しぶりのお父様の体温と安心感に嬉しくなり、
「お父様、村での事、道中の出来事など、いっぱい聞いて欲しい話があるの」
弾んだ声と共に顔をお父様に向ければ苦笑され、
「楽しい事が沢山合ったのは良い事だけど、お母様やディランを始め屋敷の者達が心配していたよ」
背中をあやす様に数度叩かれ告げられる言葉に、マルチダと会った事を思い出し、
「勝手な事をしてごめんなさい」
何より先に言わなければならない言葉を思い出し伝えると
「そうだね。エスメは謝らなければならない事をした。その事は理解しているね」
真剣な表情でも抱きしめてくれている腕は緩む事はなく、頷き返すと
「では、屋敷に着いたらお母様や出迎えてくれた屋敷の者に謝ろう」
「はい」
真剣に頷き返せば、
「ディランは寝ているだろうから明日きちんと謝るんだよ」
「朝一番に謝りに行きます」
握り拳を作り勢い良く告げれば、微笑み返される。
そうか。馬車が向かっているのは屋敷なのか。
行き先さえ分かれば怖いものは無くなり、お母様や屋敷の者に会えるのが楽しみになってくる。
後少し、もう少しで屋敷に到着する。
お母様に会えたらごめんさないと謝ろう。
第22話
長くなりそうでしたのでキリの良い所で切りました。
怒られる?話は次回になります。
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急に秋めいて寒くなりましたね。体調にお気を付けください。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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