弟は姉が大好き
細く深呼吸をする姉様の横顔を見つめていると、自分の視線に気がついたのか笑みが返され手を伸ばしかけるもノックの音が聞こえ、入室の許可を出すと姉様は立ち上がり扉を正面にし姿勢を正す姿にならい
同じ様にソファから腰を上げ、入室してくるはずの両親を出迎える体制を整えれば、ゆっくりと扉が開けられ、姿を現した両親に姉様か綺麗にカーテシーを行った。
ゆっくりと斜め後ろに足を引き、腰を曲げないようにもう片方の膝を曲げたその姿に、どの茶会でもここまで綺麗に優雅にカーテシーをする人物を見たことのない自分は、見惚れ両親への対応が遅れ、
お父様の戸惑い震えた声で名前を呼ばれた姉様は、話す許可が出たと判断した様で
「ルーズヴェルト伯爵様、夫人。お久しぶりでございます」
今まで聞いたことのないような他所行きの声に驚き、姉様の背中を見つめていると
「まぁ、カーテシーが前より良くなっているわ。お友達の教えが良いみたいね」
朗らかに褒めるお母様の声で我に返り、慌て姉様と両親を見ると微笑み姉様の挨拶に喜んでいるお母様とは対照にか、顔色を悪くし姉様を凝視しているお父様
今まで見た事の無い雰囲気の姉様は
「ミランダのおかげなの。お話聞いてくださる?」
自分の知らない人の様に感じ、戸惑い困惑していれば、
「エスメ、すまなかった」
謝りの言葉と抱擁をするお父様に対し
「お父様。ただいま」
先程までの知らない姉様は居なくなり、見慣れた姉様の雰囲気と声に安堵の息を心の中で落とし仲直りをした2人を見つめていると、
「旦那様。そろそろ離してくださいな」
お母様の声に我に返ったのか申し訳なさそうな表情のお父様と、嬉しそうな姉様の表情を見ながらソファへと腰を下ろした。
心の中に蟠りがあるものの、感情を抑えるのは貴族の常識であり教育でも初歩に習った事を思い出し、紅茶とティーフードが出揃い、姉様の友達であるミランダ嬢の話に耳を傾ける。
出会いから今日行われた春の神事まで、楽しそうに笑い時に眉を顰め話す姉様に
親友ができて良かったと思う気持ち
自分の知らない人物への言葉にできない気持ち
姉様の語る日々が知らない事への寂しさ
モヤモヤする気持ちを隠し、
「ミランダ嬢はとても素敵な方なのですね」
沢山の褒め言葉を並べミランダ嬢を表す姉様に言葉を返すと、
「とても素敵なのよ。でも、ルイがいるからディランはダメよ」
嬉しそうに笑いながら告げた言葉に
「そう手紙に書かれていましたね」
日々届く手紙の内容を思い出し伝えれば、
「そうなの。ルイも頑張ってるしミランダも嬉しそうにしているから時間の問題だと思うわ」
握り拳を作り、力強く伝えられた言葉に
「お互いの気持ちが合わさっての事です」
遠回しに、あまり茶化さないようにと伝えれば正しく伝わった様で
「勿論、見守る体制はできているわ」
頷きながら返事を返してくれたが何かに気づいようで、自分から視線を外しフレディへと向け
「ところでフレディはどうなの?」
3人の時に出た話題を改めて口にした姉様に止めようとするも、
「わたくしも気になっていたのよ。どうなの?フレディ」
お母様の言葉に止めることができなくなり、横目でお父様もを見れば興味津々だと視線と表情で告げており、申し訳ない気持ちでフレディに視線を向けると、
「歳の離れてた妹の様に思い、微笑ましく手紙を拝読しております」
両親の好奇心に耐えきれなかったのか、当たり障りのない言葉で返事を返したフレディに
「まぁ、そういう事にしておいてあげるわ」
お母様が意味ありげに微笑み返した言葉に
「お母様、そういう事ですか?」
主語の無い姉様の言葉にお母様は品良く微笑み
「わたくし達は見守りましょう」
姉様に伝えた言葉は意味深げで、言葉にしていない意味も理解できたので口を挟まずいることしかできなかった。
何か進展があれば姉様が手紙で教えてくれるはず。
個人の好奇心を従者の為と言い訳にし、自分は時折尋ねる事を決め紅茶を一口飲み、今度は今日行われた春の神事についての話が始まった。
姉様かいるだけで、話すだけで部屋が明るくなり柔らかな雰囲気になる。
姉様の存在もあるが、見守る両親や使用人達の気持ちが解してゆくからだと分かると、
離れなければ解らない事もあるのだと実感もできた。
だが、どうも心の騒めきが治らずにいるが、
「ディランにも食べて欲しいの」
思考が囚われかける瞬間、姉様に名前を呼ばれ意識を切り替えることができ
姉様の観察力の凄さに感心もあるが何より、自分の事を置き去りにされて居ない事が分かりホッと安堵した。
1人で儀式に臨んだ時、自分と練習したことを想像しこなしたのだと告げる姉様の中にまだ自分という存在がいるのだと、
時折、手を握ってっくれ目を合わせてくれる姉様に嬉しくなり、
「姉様はいつも頑張っておられますよ」
毎日、イルや専属メイド達に教えて貰っているのだと言う姉様に尊敬の念を込め伝えれば、嬉しそうに微笑んでくれ、
「ディランはこれ以上頑張ってはダメよ」
すぐ、頑張りすぎてしまうからお姉ちゃん心配だわ。
目尻を上げ労りの気持ちを伝えてくれる姉様に嬉しさと恥ずかしさに
「はい。気を付けます」
短い返事しか思い付かず、言葉にした後に後悔をしたが
「約束ね。本当に頑張りすぎないでね」
両頬を姉様の手に挟まれ、互いの額を当て優しく労りの色を濃くした言葉に目を閉じ
「はい。約束いたします」
吐息を吐くように小さな声で告げると、額に柔らかな感触がありキスされたのだと理解すれば、心の中にあった蟠りは消え去り、先程まで燻っていた言葉にできない感情も消え
「姉様も、無理をせずお過ごしください」
するりと姉様を気遣う言葉か出てきた。
自分の言葉に嬉しそうに笑う姉様と微笑ましく見守る両親と使用人
昔に戻ったように気持ちになるも
「そろそろ帰らないとお祖父様とお祖母様が心配するわね」
名残惜しそうに告げた言葉に、同じ気持ちになったものの祖父母の気持ちも理解でき全員で立ち上がり
「お祖父様とお祖母様によろしく伝えてね」
お母様の別れの言葉と同時に姉様を抱きしめ頬にキスをし
「元気で、あまり根を詰めないように」
お父様も姉様を抱きしめお母様とは逆の頬にキスをし
「姉様、手紙お待ちしております」
両親同様に抱きしめると記憶より姉様の身長が伸びている事に気づくも、
僕だってもう少しすれば成長期がきてお父様やフレディの様に大きくなれるはず。
気持ちを前向きに持ち、背伸びをし姉様の額にキスを送れば、勢い良く抱きしめられ
「ディラン大好き」
大きな声の叫びに驚くも、姉様の頭を撫ぜ、
「知っております。僕も姉様の事が大好きですよ」
力強く抱き返すと
「満タンになったから暫くは生きていけるわ」
目一杯抱きしめられたと思ったら、名残惜しそうに離れ
「フレディ、会えて嬉しかったわ。ありがとう」
数歩後ろに控えていたフレディは嬉しそうに微笑み一礼をし返事を返し、
「また、会いに来るね」
行ってきます。
その言葉を残し姉様は姿を消した。
第217話
ふんわりと風に乗って金木犀の匂いを感じました。秋ですね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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