姉、役目を全うした
昨日はお菓子をお貰いに行くミラを見送った後、明日の準備があるのでとルイとミランダにコナーさんと早々に別れを告げた。
準備する事は無いが、屋台を見ていた時にルイがアクセサリーの屋台で何かをこっそりと買っていたのを視界に端に捕らていたので、折角ならと老婆心を出し応援してみた。
上手くいくといいな。
賑やかな音に呼び込みをする大きな声。
人混みに流れるように歩き続けると、本の屋台を見つけ
「こんにちは。拝見してもよろしいですか?」
お父様とよく似た年齢でふくよかな男性の店主に声をかけると、笑顔で
「どうぞ気になる本をご覧ください」
通っている本屋さんとはとは違う人物の出す本を1冊手に取り、題名を見ると
ミランダの生まれた国の文字だわ。
手習いをし、最近では詰まる事なく読み書きができる様になった文字に目を走らせ、表紙を捲れば
王となる人物と平民の女性の身分を超えた愛を真実の愛と人は言うが、
真実の愛とは如何なる愛なのだろうか?
書かれた最初の1文で表紙を閉じ、次の本へ手を伸ばす。
国の成り立ちの本
何代か前の王妃様が書いた日記
平民の暮らしを中心に書かれた本は、通っている本屋さんの店主さんの本をその国の言葉に書き換えた本で
「この3冊をください」
他に手に取った本から選別し買い取り、
「ありがとうございます」
微笑みながらお礼を告げると
「良ければ家までお届けいたしますが」
厚手の本を持つ自分に提案をしてくれたが
「お心使いありがとうございます。ですが大丈夫です」
丁重にお断りをし屋台を後にした。
思わぬ本を手に入れれた事に気持ちが高まり、足早に屋敷に戻るとイルさんに出迎えられ自室に戻る途中に買った本について話すと
「良い買い物かできたみたいでよろしゅうございました」
笑顔で頷いてくれ、テアさんに出迎えられ早々に湯浴みを済ませ買った本を読んでゆくが、
「エスメ様、就寝のお時間でございます」
テアさんの言葉に本の中から意識を戻し、
「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
声をかけてくれた事へのお礼と明日の身支度のお願いを改めてすると1礼が答えてくれ退出をしてゆく姿を見送った。
続きを読みたい気持ちもあるけれど、明日の事を考えベットに入り目を閉じた。
目を開ければ夜明け前で、紺色のメイド服に着替えキッチンとランドリーでの朝の勉強を済ませ、大急ぎで自室に戻り、
「エスメ様、こちらへ」
部屋の中央に引かれた布の上に立ち、メイド服を脱ぎ、コルセットを身に付けドレスに着替える。
街の皆から貰うミモザが映える様に、新緑の色でドレスを作り、布を沢山使うことで膨らみを持たせた。
ドレスに着替えれば髪を結う為に鏡の前に座ればあっという間にハーフアップに編み込みまで行われ
「エスメ様、こちらは今朝ディラン様より届きました髪飾りでございます」
生花であるミモザと同じ色のリボンを鏡越しに見せてくれ
「ディランから嬉しい。ありがとうございます」
手を叩きながら喜んでいると、手早くつけてくれ
「帰ったらディランにお礼の手紙を書きます」
ドレッサーから立ち上がり告げた言葉に
「ご準備しておきます」
ハンナさんが返事を返してくれたのを見届け、向かえにきてくれたイルさんの手を取り玄関ホールへから馬車への乗り込み
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
互いに挨拶を交わし、教会へと向かった。
神官長であるノア様と対面を果たし祭壇にて
今年は1人ですが頑張ります。
あ、のこ髪飾りディランがくれたのです。可愛いですよね。
王都にいるのにお姉ちゃんを喜ばせてくれる良い子なんです。
うっかり世間話に入っていることに気がつき
ディランにも春の神様のご加護がありますように。
全身全霊の祈りを込め、祭壇をか離れると微笑ましそうにノア様から視線をいただき、少し居た堪れなくなるも、
「では、行ってきます」
祈っていた時間が長かったようですぐさま出発なり、屋根のない馬車に乗り込んだ。
今年は隣にいてくれたディランも居なければ、こっそりついて来てくれたフレディも居ない。
本当に1人で行う事に実感が湧き、寂しさが膨らんでゆくも表に出せるはずもなく
貴族らしい微笑みで街の人達に手を振り、時にかけてくれた声に反応を示し目的地へと辿り着く。
街を十字に分け、4箇所代表者の家へ行き街の人々の願いが込められたミモザを受け取り代理人として祭壇に捧げる。
領主の仕事を街の人達の要望で自分が行う名誉ある事。
ディランとフレディが居ない事を寂しいとは言えないわね。
ゆらゆらとゆらめき心を占めてゆく寂しさを押し込め、気持ちを切り替え最初の家に到着をし
「こんにちは」
去年ディランが行っていた事を思い出し真似をしミモザを受け取る。
「確かに受け取りましたわ」
微笑みを深くし告げると、
「よろしくお願いします」
返事を返してくれた。
同じ家にならない様に持ち回りらしく、去年とは違う家を周り途中休憩を挟み残りの2箇所に向かうと、どうやら紙刺繍工房が今年の担当らしく、
代表者としてコナーさんとまとめ役の女性が立っており、驚きが表情に出そうになるも顔に力を入れる事で誤魔化し
「お待たせし申し訳ございません」
気心知れる人物達に微笑みながら詫びを入れると
「お気遣いなさいませんよう」
コナーさんからの言葉に、
謝る事では無いと意味を含んだ言葉がかけられ、
「よろしくお願いいたします」
手に持っていた沢山のミモザを手渡されたので、集まってくれた人達を見ようと首をゆっくりと動かすとミランダとルイが居り、
心の何処かから安堵感が広かった。
大丈夫。頑張れるわ。
心の中で頷き、
「確かにお預かりいたします」
両手いっぱいのミモザで顔が覆われそうになるも微笑みと共に返事かえし、馬車に乗る手前で神官様に手渡し馬車に乗せて貰ったのを見届け、自分も乗り込んだ。
3箇所も回ると馬車の中はミモザに囲まれるように溢れるも、残りの1箇所もそつなく終わらせ神殿へ向かうう。
一緒に回ってくれた神官様へお礼を告げ、案内された部屋で暖かな紅茶をいただき、神事の動きを頭の中で反復してゆく。
去年はディランがいてくれたから何かあっても大丈夫と安心できた。
でも、今年は1人。
隣にいてくれrたディランがいないだけで身を震わす程の緊張が出始め、不安の気持ちが心を支配し出す。
大丈夫。だいじょうぶ。
何度も自分に言い聞かせ、心を落ち着かせるために紅茶を飲む。
自分以外誰もいない部屋は寂しく、不安を増殖させてくる。
聞こえたノックの音に深呼吸をし、返事をすれば時間だと告げ、
1人、ミモザを手に祭壇に向かう。
去年の行動を思い出し、体を動かせは失敗はなかった様でノア様が微笑み視線を合わせてくれた。
ノア様がステンドガラスの光に包まれ、近くにいた自分の光が当たる中ノア様の話が終わり、
「では、エスメ様。皆にお言葉をお願いします」
促された言葉に振り向けば、ざわめきが起こるもののすぐさま静かになり
「新たな季節が始まります。今年も沢山の苦楽が訪れるかと思います。皆で力を合わせ助け合い乗り越えて行ければと思います」
ディランの様には行かないものの自分なりに考えた言葉を告げる終えると拍手に包まれ、なんとか最後まで勤め上げたのだと心の中で重い息を吐き出した。
皆の退出と馬車が動けるまで待ち、屋敷に戻れば空は1番星が輝いており、
「少し疲れましたので、このままで座らせてください」
出迎えてくれた3人に告げると頷きと共に壁側に控えてくれた。
慣れないドレス
身を強ばらせる程の緊張が解かれ
ぐったりと体をソファに預けると、いつの間にか寂しさが心をしめ、
ディランに会いたい。
会って抱きしめたい。
癒されたい。
頭と心がディランの事しか浮かばなくなる。
ディランに会いたい。
体が揺らいだ気がした。




