姉、尋問される
「娘を連れ去った理由を知りたい」
初めて聞くお父様では無く公爵としての威厳ある声に驚き身を硬くし恐る恐る見上げるが、視線はお兄さんとお爺さんから動かずにいる。
先程まで立っていたお兄さんもお爺さんも膝を付き腕を後ろに回されており時折窮屈そうに身じろいでいる。
窮屈そうで時折痛そうに顔を顰めているので離して欲しいそう言いたいけど、お父様の雰囲気に周りの大人達の表情が怖くて言い出せないでいる。
私を連れ去った?
私が自分で決めて着いて行ったの。
だからお兄さんもお爺さんも悪くない。
違う。私が自分で決めて着いて行ったの。
その言葉を告げようと口を開くも周りの雰囲気が怖くて口を開けたり閉じたりを繰り返す。
言わなければ。伝えなければ。
思えば思う程気持ちがだけがから回ってしまう。
「お嬢様を連れ去ったのは長い事雨が降らず作物が育たなくなって来たので魔法で雨を降らせて貰おうと思ったからです」
意を決したように下を向いていた顔を上げお父様を見つめ堂々と告げたお兄さんを見つめれば、
「なら何故、親である私達に話を通さなかった?」
お父様の言葉に
「貴族様は俺達平民の願いなんて聞いてくれない。だから強硬手段に出ました」
すぐさまお兄さんが返事を返す。
お父様と同じ問いかけをしたら同じ答えが返ってきた。
嘘を言ってはいない。
「エスメ。連れ去られる時にこの人達は困ったことがあって私に助けを求めに来てくれたと言ったと聞いている。間違いはないかい?」
名を呼ばれお父様の顔を見れば、見た事も無い表情での問いかけに
「はい。屋敷の裏門で同じ事を聞きました。だから私、自分で助けに行くと決めて着いて行きました」
緊張しながら返事を返せば、
「脅迫されたり強制されたりはしていないと言うのだね」
問われた言葉に
「ありません。自分で決めて着いて行きました」
意味が間違って伝わらないように同じ言葉を繰り返すと
「分かった」
お父様の言葉に安堵の息を溢し、お兄さんを見ればぎこちないながらも微笑んでくれた。
良かった。
無意識に握っていた手から力を抜いて広げたり握ったりしていれば、
「これから個別で執務応答をするので部屋を変える」
この言葉と同時にお父様とお兄さんとお爺さんが騎士達に促され立ち上がり部屋から出て行く。
1人取り残され、慌て立ち上がりお父様の後について行こうとするも、
「貴方はここで私と話をします」
魔術省の役人に止められ、再び腰を下ろし顔を上げれば、
「お父様と離れて不安かもしれませんが今回の事で聞きたい事があります」
初めて聞いた声に驚くも、返事を返せば
「ゆっくりで構いませんので、貴方が彼らから助けを求められた事。そして貴方が彼らを助ける為にした事を教えてください」
優しそうな音で告げられ、数日前の出来事を思い出しながら話を始めた。
屋敷で空を飛んでいたら裏門にお兄さんやお爺さんが居るのを見つけ話かけたら、
助けて欲しいと言われ、着いていった。
村までは馬車で移動して途中、森の中でフクロウの鳴き声を聴きながら野宿したこと。
村に着いたら、お兄さんの家に泊まり、夫人にお世話になった。
村では初めて小麦畑とヤギを見て文章で読むより綺麗で可愛くて感動したこと。
小麦を育てるにはあまり水は必要ないことも教えて貰い、収穫の手伝いもした。
収穫が終わりになり始めてきた頃、村の人達が仕切りに空を見ていたので、
魔法を使って朝露程の量を作り撒いたけど、誰も気がついてくれなかった。
「それが少し寂しかった」
村での出来事が楽しくて、話しているとつい熱が篭ってしまったが魔法の事を思い出し気落ちしてし言葉を止めてしまった。
「魔法を使用したのですね」
優しい声の質問に頷き返せば
「村の誰かに魔法を使ってくれと言われましたか?」
聞かれた言葉に首を傾げ、思い返すも
「誰にも言われませんでした」
首を振り返事をすれば
「助けて欲しいと貴方に言ったにも関わらず、助けを乞われなかったのですか?」
言葉を変え問われるも
「小麦の収穫のお手伝いも魔法も自分で決めてしました」
同じ言葉で返事を返す。
「そうですか」
納得をしてくれてたのか頷き返してくれ、質問は止まった。
お兄さんやお爺さんは大丈夫かな?
お父様怒ってないかな?
沈黙が広がるとすぐに別室へ行ったお兄さんにお爺さんやお父様のことが頭によぎった。
第20話
暗い雰囲気ですが後少しで明るくなる予定です。
朝夕、秋の気温なのに日中の空には入道雲の夏空。いつ涼しくなるのでしょう?
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
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