姉、箒に跨る
2021/11/22誤字修正致しました。教えていただきありがとうございます。
2023/01/14 誤字修正を行いました。教えてくださった方ありがとうございます。
2023/04/12誤字修正をおこないました。教えてくださった方ありがとうございます。
いつも憧れた登場人物は箒に跨り空を飛んでいた。
前日と同じく晴天の元、箒に跨り空を飛ぶ想像を作り上げる。
ゆっくりと風魔法を使い足元から上へと風を巻き上げていく中、体が倒れない様に風で体を左右押される動きをつける支える。
慎重にかつ集中しながら自分が風に上げられる想像を浮かべればゆっくりと足が地面から離れた。
後は体が落ちない様に左右均等に風魔法で支える。
常に風の動きに集中し、上へと上がって行く。
1階のガラス窓の高さを超え、2階バルコニーを過ぎれば屋根が見えてくる。
屋根を越えた所で少し停止し、今度は風の動きを上から下へ変え降りていく。
この時も左右の風の動きに気をつけつつゆっくりと高度を下げ足の裏に地面の感触を実感したのち跨っていた箒を抜き取り、
「こんな感じかな。どうだったディラン?」
目を見開き、驚きの表情のまま固まっている弟に問えば、
「驚きました」
心在らずの返事に、
「そうでしょう!驚いたでしょ」
どこか大人びた雰囲気と言動がある弟の子供らしい反応に嬉しくなり、
「もっと練習をするから、ディランも一緒に空を飛ぼうね」
未来の約束を言葉にすれば呆れながらも
「その時は振り落とさないでくださいね」
頷いてくれた。
ディランの反応に今ならどんな事もできそうなぐらい気分が高揚し
「この後も練習をするけどディランはどうする?」
太陽が真上から少し傾きかけている時間、後継者として長男であるディランは
勉強にマナー、ダンス、武術など学ばなければならない物が山の様にある。
良ければこの後のお茶の時間で少し息抜きをして欲しいのと考えいれば
「昨日の事もありますから、ここにおります」
なんとも生意気な言葉が返り、
「昨日はちょっと失敗しただけでしょ」
勢い良く返すも自分の事を心配をしている事は解っているので怒ったフリをし弟の複雑な男心を見ない事にした。
再び手に持っていた箒に跨る。
視界の端には弟と後ろに控える従者が入った。
赤子の頃から一緒に居るのだから、姉の心配をしてはいるけど素直に言えない心は貴族の常識を学べば学ぶ程、奥深くに隠されていった。
常に冷静であれ。
己が心を悟らせるな。
言葉の裏を読みきれ。
上に立つ者として大切なのは解るけど素直で笑顔の可愛い弟が見れなくなり成長をしているのだと思えば嬉しく誇らしくもあるが、寂しく悲しい思いが強くなる。
無邪気に笑ってねえさまと手を伸ばしてくれた姿が天使かと思う程可愛かったのだ。
天使より可愛かった。
菫の花が綺麗だと小さな手と可愛い笑顔でくれた。
夜に散歩に行きたいと駄々をこね泣いた顔も、
寝物語に読み聞かせをした冒険記に心踊らせた表情も、
剣が上手く扱えなくて悔しくて泣いた表情も、
初めて私の魔法を見て目を見開き、口を大きく開けて驚いてくれた後に手を叩いて楽しそうに声を上げた表情。
どの表情も思い出であり宝物のなのだ。
今は生意気だけど、照れ笑いがとてもとても可愛い。
まぁ、怒っていても、呆れいていても、可愛く愛おしい弟には間違いない。
弟の可愛さについて思い返していたその時
「姉様、集中して!」
突然、下から聞こえた大き声の注意に驚き思い出から意識を戻せば体が浮き上がっており
箒が左右に大きく動いていた。慌て風魔法に意識を集中し箒の動きを安定させてから周りを見下すと
先程見た館の屋根が見た。
しまった。
ぼんやりと弟の可愛さに浸っていたら、やってしまった。
この後、地上へ降りれば弟に怒られる。
今度こそマルチダを泣かせてしまうかもれない。
チラリと視線を地上へ下ろせば心配そうに見上げている弟にマルチダ。
落下しても受け止められるよう指示を出す弟の従者
右往左往している騎士達に申し訳なさが広がり慎重に降りて行く。
少し早足で近づいてきた侍女のマルチダに箒を渡し、無表情のディランへ足を進め
「ごめんなさい」
顔を見る勇気無く視線を足元へ向けたまま謝りの言葉を告げれば、
「謝る理由は?」
硬く普段より低い声に、
「魔法を使っているのに余所事を考えて集中をしていなかったから、です」
あまりのディランの怒りに尻つぼみ気味に答えて少しだけ視線を上げれば目が合い無表情の中に怒りの色がさらに濃くなり、
「あのままだったらどうなってたか理解していますか?」
少しの震えと怒りが含まれた声で問われ
「バランスを崩して落下していたと思う」
自分の不注意で怪我をし見ていたディランや皆に迷惑をかけと思うと恐怖で声が震え出す。
「不注意でした。ごめんなさい」
再度誤りディランの言葉を待てば、ため息が聞こえ
「今日の練習は終わり。本当に反省してくださいね」
先程とは違い日常に聴き慣れた優しい声の言葉に頷き
「皆もごめんなさい。最善を尽くしてくれてありがとう」
自分のせいで迷惑をかけてしまったマルチダを始め騎士達に詫びを告げると
一礼にて返事を返してくれた。
自分の行動の至らなさに心の中でため息を落とし反省していれば
「姉様」
目の前に立っていたディランが自分に向け腕を動かす姿に移動を指し示され手を乗せ庭から屋敷へと移動をしていれば前からディランの従者が歩いてくるのが見えた。
自分達の元へ到着し一礼をしたのち
「ディラン様、エスメ様、お茶会の準備ができております。」
告げられた言葉に驚くもディランにエスコートされるまま足を進めた。
大きなガラス窓から太陽に光が降り注ぎ先程上から見た庭の花々が誇らしげに咲く風景を横目に
影になる場所には猫足の丸テーブルに真っ白のテーブルクロスがかけられている。
ディラン引かれた椅子に座りディランも向かい側へ座すと同時に紅茶が置かれる。
用意されたナイフとフォークでサンドイッチを自分の皿へ取り分け最初の1杯はストレートの紅茶と一口で食べれるサンドイッチ。
2杯目はミルクティーに焼き立てのスコーン。
スコーンを上下に半分に割りクロテッドクリームとストロベリージャムをたっぷりつけ食べながらミルクティーを飲めば口の中で甘塩っぱさが広がり何個でも食べてしまう。
美味しい。
上下に割った時に湯気が出るスコーンはクロテッドクリームを乗せれば熱で少し溶け出し、ジャムの甘さと小麦の甘さに加え紅茶の香りにミルクの甘さ。
凝り固まって落ちていた気持ちが解れ浮上してくる美味しさにもう1個手を伸ばせば、
「少し元気になったみたいで良かったです」
様子を伺っていたのか何処かホッとした言葉にスコーンを皿に置き、
「心遣いありがとう」
淑女らしく微笑みながら礼を告げれば、
「僕ではなくフレディに」
茶会の提案を出したのは彼なのだと教えられ壁に沿うように控えているフレディに顔を向け
「ありがとうフレディ。それと先程はごめんなさい」
気の利く従者に礼と先程の詫びを告げれば、にこやかな表情で礼を返され改て正面に座るディランを見れば微笑みながらスコーンを食べていた。
「ねぇディラン。あのね」
先程の事を思うと気軽に話しかけるれば反省していない様に取られかねないがディランの雰囲気を見ると暗い自分も悪いのかと思い話題を振ってみる。
「ディランは私か作った魔法道具を使ってみてどうだった?どこか使いにくいとか改善した方がいい所はないかしら?」
少し無理して作った話題にも唇に人差し指を当て考え込んでいるのか少しの間を開けた後、
「温かい飲み物がずっと温かいまま飲めるのは嬉しかったので今度は逆に冷たい物が冷たいまま飲める様になれば良いかもしれないね」
「確かにそうね」
カップや皿の裏に火の魔法の魔法石を埋込み飲み物やスープが冷めないように魔法をかけてある
が逆の発想は思い付かなかった。
確かに舞踏会や晩餐会の時に冷たい物が飲めたら良いだろう。
「ありがとう。作ってみる」
魔法石を埋め込むのはコップより氷を長く持たせた方が良いかもしれない。
それなら塩を入れた方が長く持つ?
でも宵明けまでは持たないかも
頭の中でアレコレ考えていれば、
「程々にして下さいね」
ポツリと聴こえた声にディランを見れば仕方ないなこの姉はと、呆れが混じる表情に笑顔で頷き返す。
フッとした瞬間に見せる素の表情に嬉しくなり
「もちろんよ!」
頷きながら上段にあるケーキにナイフとフォークを伸ばし皿へ移しひと口食べる。
自分の好物であるレモンケーキ。
どこまでも自分に優しい弟はやっぱり可愛い。
「最近はどう?勉強は難しい?」
自分とは違い令息として跡取りとしての勉強を
している弟の近状報告を聞く為話しかけた。
領主として特産物の特徴や今の社交界での流行り等、話題が尽きること無く。
少しですが話が進んでおります。
まだまだもどかしい状態ですが見守っていただければ嬉しく思います。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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