姉、帰路に着く
ガタガタと上下に揺れる馬車に揺られ、村から離れ少しの時間しか立っていないにも関わらず寂しく気分が落ちてるが窓の外を見てゆっくりと流れる風景を心あらずで眺め続ける。
小麦の収穫をしている人々を眺めると自然と目に涙が溜まり出すが瞬きを繰り返しすることで溢れる事はなかった。
「エスメ様、よろしければこちらをお飲みください」
名前を呼ばれマルチダに顔を向ければ、ティーカップが差し出されており紅茶の香りが馬車内に広がり、手を伸ばしひと口飲むと少し心が浮上する。
「ありがとう」
マルチダの心使いに気づく事ができ礼を伝える事もできた。
溢さないように気をつけ、マルチダが差し出しているフラップジャックを手に取りひと口齧る。
バターの塩とゴールデンシロップと砂糖の甘味に加えシナモンの香りが口の中で広がり、噛めばオーツ麦を高温焼いたパリパリガリガリとした歯応えの中にサルタナの干した実は葡萄と同じく甘くねっとりとした歯応えが時折あり、噛む程食感が変わり1枚食べ終える。
寂しく心沈む中でも少し心が浮き上がれば、
「馬車の中でも使えるテーブルがあれば良いのに」
独り言のように呟いた思い付きの言葉に
「それは大変便利かと思います」
マルチダがいつもの様に返事を返してくれるので自然と会話が進んでいく。
「携帯式がいいかな?それとも備え付けが良いかな?」
「備え付けですとドレスで乗った際に邪魔になってしまいますね」
「そうなのね。確かにお母様の来ているドレスは馬車に座るのも大変そうだもんね」
いつも素敵なドレスではあるけど、子供の頃に抱きついたら膝にクリノリンが当たり涙が出る程痛かった記憶が残っている。とても硬い何かを着けていれば備え付けの机は邪魔になってしまう。
マルチダはいつも自分の知らない知識を教えてくれるしダメな物は理由も教えてくれ納得ができるまで付き合ってくれる。
今、どんな気持ちかを気づいてくれるので一緒に居てとても楽しい気持ちになれる。
紅茶もフラップジャックも屋敷のクックに頼んで持って来てくれたに違いない。
「マルチダ。本当にごめんなさい」
先程まで続けていた会話を中断させもう1度謝ると、
「エスメ様に怪我が無く、元気に旅を楽しまれたのならマルチダは何も言う事はありません」
微笑みながらの言葉に心が締め告げられ、先程とは違う涙が溢れてしまった。
慌て手で拭おうとすると手に持っていたティーカップを取られ、素早く手ぬぐいで目元を拭いてくれ
「落ち着いてからで良いのでどのような旅だったのかお聞かせくださいね」
さらに告げられた言葉に泣きながら何度も頷き
「話したいことがいっぱいあるから聞いてね」
震えた声と溢れるな涙の中、笑いながら返事をすれば、
「楽しみにしております」
笑いながら頷き返してくれた。
そこからはたわいのない話をし、時折窓の外を眺め気が付けば馬車が止まり騎士団長から宿泊する宿に案内される。
部屋に入ればマルチダのお世話が始まり、お湯で濡らされ温められた布で拭かれ、髪も洗われ、オイルの塗ると何度も何度も櫛で梳かる。
次はベッドに移動しマッサージを受けていればいつの間にか寝てしまい気が付けば朝を迎えていた。
宿の人に礼を伝え再び馬車に乗り平民と同じ様な服を着たマルチダと向かい合うように座れば、馬が動き出す。
不思議に思い問えば休憩を街で取る際に目立たないようにする為と説明され、夕方には王都に着くが、屋敷に帰る前に魔術省へ行きお父様と会い話をすると伝えられた。
屋敷ではなく魔術省なのか不思議だったがお父様が待って居るというので頷き、会える事に心が弾んむ。
村も夫人も寂しいし今すぐ会えるなら会いたい。でも家族に会えるのはやはり特別で会ったら何を話そうと思い浮かべ段取りと組む。
何度か休憩を取り、最後の休憩場所となった街で平民と同じ服を着を騎士団長とマルチダに案内された宿では、お風呂に入れられ全身を化粧水とオイルで塗られる。
これで終わりかと思えば今まで着た事の無い着心地が良くレースが沢山ついたワンピースを着せられ髪も念入りに整えられ、リボンまでつけられた。
今まで体験したことの無い事に戸惑いマルチダを見ればどこか達成感溢れた表情と目をこれでもか見開き驚いた騎士団長の表情に問いかける言葉が見つからず、連れられるまま馬車に乗り宵闇の頃に王都に入れば緊張感が漂い、不安になりマルチダを見るも微笑まれるだけだった。
マルチダが窓に布を付け外を見る事ができない中、暫くして馬が止まり騎士団長が何も告げず扉を開け自分だけ出るように手を出してくる。
不安になるも外に出れば、いつも出迎えてくれる従者に連れられ建物に入るが見知らぬ廊下を歩く事に恐くなり声をかけようとするも、
「お静かに」
自分にしか聞こえない程の小さな声で告げられ慌て両手で口を覆い着いて行けば裏口から出て違う馬車に乗せられた。
分からない事ばかりで怖くて身を硬くし馬車に揺られるがすぐに止まり扉を開けられ身構えれば、
「エスメ。無事で良かった」
言葉と共にお父様が馬車に乗り、すぐさまもう1人見知った人物が乗り込むと再び馬車は動き出す。
「お父様」
会えた喜びより不安と怖さが増さり縋るように呼びかければ、
「大丈夫。少し話を聞きたくて移動しているだけだから安心していいよ」
微笑む父親と無表情の魔術省の人物を交互に見るも不安は消えず身を固くしたまま馬車が止まるのを待った。
お父様の少しだけ緊張しながら降りる姿に怖さを感じるが差し出された手を取れば、安心させるように笑うお父様にぎこちないが微笑み返す。
後ろから魔術省の役員が降りると同時に足音を殺すかのように慎重に歩き出した。
重く息苦しさを感じる中、通された部屋に入れば知らない男性が2人ソファーに座っており、お父様の横に座り居心地の悪さに身を小さくすれば、扉が開かれ甲冑を着けた騎士に腕を掴まれ入ってきた人物に驚き
「お兄さん。お爺さん」
村で世話をしてくれた青年と森で色々教えてくれた年配者の2人に会えた事に嬉しくなり近づこうとするもお父様に手で制され
「娘を連れ去った理由を聞きたい」
今まで聞いたことのないお父様の声に体を震わせ身を硬くした。
第19話
帰路につきましたがまだまだ屋敷には帰れません。
この後、暗い大人の事情を進んで行きますので明るい話はもう少しお待ち下さい。
残暑が残る日々が続いていますが朝夕少しですが涼しく感じる日もありまもなく秋ですね。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
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