姉、心に決着をつける
後にしよう。
今日は忙しいから。
予定があるから明日。
1日1日、後回しにしていた手紙は2通から5通になり
「エスメ様、王都からお手紙が届いております」
さらに増え、
「ありがとうございます」
ハンナさんから仕事が終わると同時に手渡された手紙を受け取り、後回しにする言い訳ができず
「開封をお願いします」
お願いを伝えると、ペーパーナイフを使い封を切ってくれた。
なんとなく自室では読みにくくて、今まで溜めていた手紙を手に持ち
「空へ行ってきます」
椅子から立ち上がり本棚に立てかけてある箒を持ち足早に玄関へから外へ出ると、箒に跨り薄曇りの空へと飛んだ。
眼下に行き慣れた街並みが見える、目についた木に近づき太くしっかりした枝へと折り腰掛ける。
時折吹く風が涼しくて、ぼんやりと街並みを眺めてはいたものの持ってきた手紙の存在を思い出し、
落とさない様に気をつけながら差出人の名前を見てゆく。
最初の2通とその次にきた2通の差出名はディランとお母様
今日届いた3通はディランとお母様とマルチダ。
身体の奥から息を吐き出し、最初に届いたお母様の手紙から読んでゆく。
季節の挨拶から突然の訪問で驚いたけど久しぶりに会えて嬉しかったと始まり、お父様がどうしてあの様な言葉を言った理由が書かれており、
決して、貴方を疑ったわけではありません。
細くて柔らかな文字で書かれた言葉はお母様の声で読んでもらっている様に頭の中で聞こえ、
王都と領の距離があり、顔を見て抱き締めることができないのが心苦しく、また寂しく思います。
最後の1文に鼻の奥が痛くなり、何度か瞬きをして誤魔化し、同日に届いたディランの手紙を読めば
季節の文が書かれており、
突然の訪問に驚きました。これからは事前にお知らせをいただけると嬉しいです。
お母様とよく似た文字の雰囲気なのに思い浮かんだ表情は眉間に皺を寄せており、ため息混じりの声で
つい微笑んでしまう。
フレディの対応についても書かれており、
フレディは従者としてとても立派な動きをいたしました。主として嬉しく思います。
ディランらしくフレディの行動に褒め嬉しそうに書かれているが、
姉様に会えなかったのは寂しく思います。
最後に書かれていた文章に嬉しくなり、警戒していた気持ちがどこかに消え失せ次に届いた手紙を読めば
お母様の手紙にはお父様が落ち込んでおり、寂しそうにしている。
ディランの手紙には
フレディが姉様が忘れていったブレスレットを時折眺め寂しそうにしている。
2人の様子が書かれており、先延ばしにしてしまった事を申し訳なく思い今日手渡された手紙を読んでゆけば、
お母様の手紙には
お父様がエスメの手紙を届くのを今か今かと待っているので一言でも良いので書いて欲しい。
ディランお手紙には
フレディの気持ちは理解できますが、僕には僕の気持ちがあり手助けはしないと決めております。
そして、マルチダの手紙には
久しく届かない手紙とハンサさん達からの手紙で現状は知っているものの心配です。
と、三者三様の内容に、自分の事を心配してくれているのが嬉しくて会えないことが寂しくて手紙を抱きしめ、
返事を書こう。
お父様とフレディにも書いて自分の気持ちを伝えよう。
本当は自分の子供だとお母様がお父様の背から出て、危険かもしれないのに手を伸ばしてくれた事が嬉しかった。
自分の子供だと。声に出して訴えてくれた事が本当に嬉しくて、
その事も手紙に書こう。
ありがとうと伝えよう。
見守ってくれたお祖父様にお祖母様。
屋敷のみんなにもありがとうと言わないと。
後、理由はわからないなりにも見守ってくれたルイとミランダとコナーさんにもお礼を伝えたい。
何より、その事に気づかせてくれたミラにもお礼を伝えたい。
沢山の人に見守られて、気づかない所で手助けしてもらっていた。
今度は自分が手助けをできるように頑張りたい。
大きく息を吸い身体中に空気を行き渡らせ空を見上げると、太陽が雲の隙間がら顔を覗かせており気持ちを整え意気込みを体に行き渡らせ、枝から立ち上がれば、
正面にいる人物と目が合ったので、微笑みのみで挨拶をし落ちないように気をつけながら立ち上がり箒に跨り屋敷へと帰り、
「手紙を書きたいのでレターセットの準備をお願いします」
出迎えてくれたハンナさんにお願いを告げると、いつもの微笑みの中に嬉しそうな雰囲気が入り、手早く整えられた机に向かい、5人への手紙を書きはじめた。
第181話
なんだか普段と違う動きがあると思えば、学生さんは夏休みだそうで。ようやく夏らしくなった気がします。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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